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第3話 ハデルは別れの挨拶をする

 赤い毛並みのロッソ、緑の毛並みのベルデ、青い毛並みのブルをそれぞれリュックサックにポケットにと入れて、出て行く準備を完了する。

 目の前にあるダンジョンコアに手をかざしてパネルを出す。

 青いそれを操作して番号を打ち込み管理者としての俺の名前を消す。


【本当によろしいですか? 】


 少し指が止まる。しかしすぐに動かして【はい】を選択し、完全に管理者不在(ふざい)にするのであった。


 ★


 コアルームから出て三階層ボス部屋に着く。

 開けた視界に一体の座ったミノタウロスが見えた。そしてそれを気にせず掃除をしている一人の人族の男性が見える。

 彼に近寄ると足音に気が付いたようでこちらを振り向いた。


「お疲れさまです」

「おう、お疲れさん」


 俺の方に駆け寄ってきてペコリと挨拶。

 人懐っこいその顔をしたこの男性はこの町出身のダンジョン運営員の一人だ。


「珍しいですね。ハデルさんがダンジョンに出てくるなんて。いつもはダンジョン転移で表層まで行くのに」

「なんだ。俺が見てたらまずい事でもしているのか? ダリ」

「そんなことないですよ。いつでも歓迎ですよ、ハデルさん」


 俺が軽くおちょくると慌てながら否定するダリ。

 しかし「歓迎する」というダリに少し真面目な顔をして口を開く。


「悪いが、俺はもうこないだろう」

「え……。それどういう意味ですか? 」

「どうもこうもない。あのクソ上司……。いやハービーの小僧(こぞう)からクビを言い渡された」


 それを言った瞬間空気が固まった。

 ついでにダリも固まっている。少し後ろから目線を感じる。

 少し気まずい空気が流れた後、「この空気。どうしようかと(ほほ)()いていると」壊れたかのようにダリが口を開いた。


「クククククク、クビぃぃぃ?! ハデルさんがクビ?! いやいやいやいや、ないでしょう?! それはないでしょう?! 」

「悪いが事実だ。すでに管理者としての登録を消している。後で後任が付くだろう」

「無理ですよ! ハデルさんあってのこのダンジョンじゃないですか?! 」

「そう言われてもな……」


 と苦笑い。

 実際にどうしようもない。掃除道具を放り捨てて混乱するダリに「落ち着け」と言ったら「これが落ち着いてられますか! 」と怒鳴られてしまった。


「両親から聞いてます! その昔この町のダンジョンから出てくる素材は、それはもう素材として使える物じゃなかったと」

「まぁそうだな」

「ハデルさんが来てから素材の質が上がり町が繁栄(はんえい)したとも!!! 」


 事実だが、(あらた)めて言われるとこそばゆい。


「なのにクビ?! この町に衰退しろと? あの金食い虫。今からでもミノちゃんをけしかけてやりましょうか!!! 」

「やめぇい!!! 」

「いてっ! 」

「興奮するのは分かるがもうどうしようもない。それよりかは今後どう運営していくかを考えた方が建設的じゃないか? 」


 興奮するダリにチョップを入れて(さと)す。

 頭をさすりながら俺を見上げるがそんな目で見られても現状は変わらない。

 嘆息しながら語り掛ける。


「それにミノちゃんけしかけたら本格的に犯罪者になるぞ? 」

「そ、それは嫌です」

「管理者が不在なのは良くない。それは分かるな? 」

「……調節しているのがランダムになるからですか? 」


 頷き続ける。


「そうだ。だからこの後ダリが仮登録して管理者を代行しておけ。(さいわ)いコアルームはそのままにしてある。これが一番町の為にもなるだろうからよ」


 そう言い肩を叩く。

 町の為というのが聞いたのだろうか、まだ不満げな顔をしているがダリも(うなず)了承(りょうしょう)した。

 それを見て、ダリとミノちゃんに「じゃぁな」と声をかけてダンジョンを出た。


 ★


 ダンジョンで働く職員達に引っ張られながらも外に出る。

 目の前には整地された道があり町へと続いていた。


「にしても凄い人気だったな。マスター」

「鼻が高いですね」

「う、うん」


 それぞれが首を出して口々に言う。

 確かに必死に引き留められた。その捕縛(ほばく)(もう)から抜けて、殆ど無理やり出てきたようなものだ。


「しかしこれ、大丈夫か? 」

「何がだ? マスター」

「いや暴徒(ぼうと)化しないかと思ってな」

「そこまで気にしていたらキリがないですよ」


 ベルデの言葉に「確かに」と思う。


「ま、一先ず挨拶回りと行くか」


 そう言いながら壁の無い町へと足を向けた。


 ★


「なんと! お()めになるので?! 」

「止めるというか、クビになったんだよ。ニック」


 高そうなソファーに座り驚くのは古馴染みで『ベルモット商会』の会長である『ニック・ベルモット』。

 出された紅茶に口をつけながらも、彼を見る。


「確かにムカつくが、そんなに驚くことか? 」

「驚くも何も予想外と言いますか」

「だがいつかは俺がいなくなるはずだろ? ずっといる訳じゃないんだし」

「そうですがまだ先かと」

「それに関しては俺も予想外だ」


 俺がそう言うとニックもパサパサと黒い羽根をバタつかせ、最後にはペタりと羽根をしょんぼりさせた。

 だが一番驚いているのは俺だ。


「……まだ受け入れがたいですが……どこに行くかすでに決めているので? 」

「いやまだだ」


 俺がそう答えるとニックは机の上のベルを鳴らして人を呼ぶ。

 何やら指示を出すと従業員は出て行き、すぐにノックの音が聞こえてきた。

 ニックが返事をすると先ほどの従業員が黒いコイントレイを俺の所へ差し出しだしてくる。


「……これは? 」

「ベルモット商会の特別会員証になります」

「俺が持っている会員証とは違うのか? 確かかなりランクが高かったような気がするんだが」

「ええ。そちらの会員証は割引などができますがこちらはベルモット商会傘下(さんか)の店での商品が無料になります。もちろん宿泊も」

「それは本当か! 」


 無料と聞いて俺のローブのポケットからロッソが勢いよく顔を出した。

 それに負けじと「無料ですって?! 」「ほ、ほんと?! 」とリュックサックからベルデとブルが首を出し、確認する。

 正面で笑みを浮かべながら「本当ですとも」というニックに「良いのか? 」と聞いた。


「ええ。父の代よりお世話になっておりますので」

「なら高級ナッツを食べ放題じゃない! 」

「やったぜ。太っ腹ニック! 」

「何か悪いな」

「立ち上げからお世話になっているのですからこのくらいは」


 ニックの父がまだ行商をしていた頃、俺は彼に冒険者ギルドで(さば)ききれない採れた素材を(おろ)していた。

 ギルドを通さない分格安(かくやす)で手に入った素材を元手(てもと)にして出来上がったのがこのベルモット商会。

 俺としては捌ききれない物を売っただけなのでそこまで恩義(おんぎ)を感じられても困るんだが、逆に言うとこの感謝の気持ちを受け取らないのもまた失礼に当たる、か。


「悪いな。じゃぁもらっていくよ」

「受け取ってもらえて何よりです」

「代わりに何かあったら言えよ? 」

「ええ。是非今後とも我らベルモット商会をよろしくお願いします」


 金色に光る会員証を仕舞(しま)い込みニックとがっしり握手をして俺はベルモット商会を出た。

ここまで如何だったでしょうか?


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