第29話 町長は自爆する
「くそっ! 王女が来るとは厄介な! 」
ギュンターは部屋の中を歩き回り怒声をまき散らしていた。
「まずい、まずいぞ……」
サラシャ達が来た時から出ている汗が量を増す。干からびるのではないかと思うくらいに汗を出していた。
彼にとってサラシャがハデルをダンジョン管理人として連れてきたのは予想外。
「ダンジョン管理人のハデルとやらだけなら何とかなったが、まさか王女がくるとはっ! 」
ハデル達の仕事は町への干渉ではなくダンジョンの管理・運営。間接的に町に影響を及ぼすことがあっても、直接手を出すのは職域侵犯になる。
実力主義がはびこるこの魔界で、実力者に対して自分の職域を侵害されたと訴える者は殆どいないが、ハデルは人界からやって来た人間。
理論整然とした受け答えをすればハデルも応じるであろう。
だがそれはこのギュンターが真っ当なことをしていれば、ということが前提となるが。
「……まずい、な」
ピタッと足を止めてそう呟く。それと同時に扉からノックの音が部屋に響いた。
ギュンターは「ビクッ! 」と体を跳ねさせるが、汗を拭きとり返事をする。
男性の返事が返ってきたので彼は職員を中に入れた。
「サラシャ王女殿下、ハデル様、パシィ殿を職員寮に誘導しました」
それを聞きギュンターは飛び上がりそうになる。がそれを抑えて「ご苦労」と伝え引き下がらせた。
十分に職員が離れたことを確認し、彼は部屋の中で大きく安堵の息を吐く。
「一応の監視下に置けたか」
ギュンターに顔色が戻る。
職員寮に掛けられている魔法は基本的にこのギュンターを中心に展開されている。
彼はこれでも情報操作系魔法の使い手。まさに町の状況を把握し対処するための人員配置と言えよう。
最も彼が真っ当な人間ならばの話だが。
「先に王女側の弱味を握るべきか」
そう呟きながら彼は移動する。机の隣まで行き魔杖を手にした。
王女の周りを探るなど一介の町長がすることではない。ましてや強者ではない彼が手を出すことは不敬以前に自殺行為である。
が「もしかしたらこの町の事を探られるかもしれない」という不安が、彼の判断を鈍らせていた。
「まずは探索だ。探索し、話を聞き、弱みを握る。王女、ということは何かしら機密に関わる事を話しているかもしれない。いざという時の為だ。警戒される前に、弱みを握る」
そう言いながら魔杖を掲げる。
「探索……ギャァァァァァ! 」
魔法を放った瞬間ギュンターは全身に雷撃が落ちたかのような感覚に襲われた。
床に伏せ、体中が痺れ、動けない。
動けない中、彼は何が起こったのか考える。
(カ、魔法反射に、雷撃?! いや違う、これは麻痺?! こんな威力の麻痺があってたまるか!!! )
見事にカウンターを喰らったギュンターは心の中で毒づいた。
彼は考える。まだ考えることができることから魔法反射に付与された魔法が麻痺であると予想した。
これがもし雷撃ならば彼は今頃気を失い、白目をむいて考えることすらできないだろう。
(くっ! 判断を誤ったっ! もっと慎重にするべきだった! )
気付いた時にはもう遅い。
強力な麻痺で動かない体を少しでも動かそうとする。しかし動かない。一向に動かない。そして異変に気が付く。
(おかしい……。普通なら麻痺の効果は持って一分……。すでにそれ以上かかって……)
そう思うと同時にギュンターは全身に視線を感じた。
(! 逆探索された! クソガキがぁ! )
相手の術中にはまったギュンターは結局の所その日誰にも見つからず床に倒れたままであった。
麻痺が解けることはなかった彼は、翌日床に倒れたまま職員に発見される。
痺れが取れず体を全く動かせない彼を見て、襲撃があったと勘違いした職員達はサラシャ王女に救援を頼むように手筈を整えようとする。
が何とか唇だけを動かせるようになったギュンターが、それを止めて止めさせた。
怪しげなギュンターの指示に、納得はいかないものの頷くしかない彼らは仕事に就く。
結局の所、彼の麻痺が完全に解けたのは次ハデル達と会う日の前。
溜った仕事に他の案件と、彼の命運が尽きるまでギュンターは忙しい日々を送ることになった。
ここまで如何だったでしょうか?
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