第17話 セシリアとシャルロッテ 1
ハービーが悪だくみをしている頃、シルク王国王城の王族が住まう一角で『セシリア・シルク』が憂いた表情で小さく溜息をついていた。
小さなティアラを頭に載せた彼女は机の上の紅茶を一口含みベルを鳴らす。
するとすぐにノックが部屋に響きセシリアが返事をする。それと共に中に騎士『シャルロッテ・シルヴァ』が入って来た。
「お呼びでしょうか! 」
「もう、シャルったら。そんな堅苦しい言葉使いをして」
カツン、と音を鳴らし背筋を伸ばすシャルロッテに愚痴るセシリア。
「幼馴染なのですからもっと砕けても良いと思うのですが」
「こればかりは職業なので」
そう言いつつもシャルロッテは苦笑いを浮かべた。そして扉を閉めて一歩前に進む。
「シャルの騎士服は可愛らしいですね。特にスカート」
「自分には似合わないとは思うのですが」
「そんなことはありません。よく似合っていますよ」
主君に褒められ複雑な顔をするシャルロッテ。
今の彼女の服装は上は頑丈な鎧に下は短めなスカート。人を護るという役割から少し離れた衣装である。
しかしこれも仕方のない事。ダンジョンが次々と攻略され制御可能となった今、それを元に様々な技術が発展した。
確かにモンスターや盗賊などは出現するが大昔に比べると危険度は極端に減っている。人界で危険になる場所が限られている今こうして城内で武装することもない、というのが主流だ。
武装するにしても精々貴賓の護衛くらいで。
「しかしセシリア殿下がこのような服を着られるのは……」
「それは言ってはいけない約束ですよ」
「失礼しました! 」
すぐさま謝罪するシャルロッテ。
そしてシャルロッテに少し微笑んで返すセシリア。
「それに私は結構気に入っているのですよ? この服」
「しかし……」
「なんだかんだ言ってシャルも私に合わせてくれていますしね」
そう言い紅茶を一口含むセシリア。
それを聞き何も言い返せなくなったシャルロッテ。
シャルロッテのスカートの色は茶色。お世辞にも高位の騎士が身に着ける色ではない。しかしながらそれは主君に合わせたもので、主君であるセシリアが来ているドレスも茶色と質素であった。
作りも質素で特に装飾はない。一国の王女が着る服装というよりかは下級貴族の三女が着るような服である。
「……王位継承争いが無ければこのようなことには」
「仕方ありません。私が幾ら王位に興味がないと言ってもお兄様のお友達が騒ぐので」
「ならば少しの間炊き出しを中止したほうが良いかと。どこに危険が潜んでいるのかわからないので」
「中止すると「私に何かあったのでは? 」と今度は国民が騒ぎ、お兄様のお友達が暴走しかねません。現状維持ですね」
セシリアがそう言うとシャルロッテが肩を落とす。
いつもは穏和だが下手なところで頑固、というのは幼馴染であるシャルロッテが一番よく知っているからだ。
その昔貴賓として王城に来た魔族の王女様に会いに行くと我を通したこともあったほどで。
ままならない現状の中シャルロッテは少し状況を整理した。
現在セシリアの上には兄が二人いる。双方ともに王位継承権を有しているが二番目の兄は王位に興味がない。よって必然的に長男が次代の王になるのだが、ここで現れたダークホースがセシリアだった。
彼女は自分の権限の中で貧困層へのセフティーネット構築や——冒険者ギルドとは違う——就職・再就職を目的とした組織の立ち上げ、そして炊き出し等を行った。
加えてセシリアは習得が困難とされる神聖魔法の使い手と言うこともあって『癒しの聖女』という二つ名まで広まった。
意図せぬ形で国民からの支持を集めた彼女なのだが、これを邪魔に思ったのが長男を指示していた貴族達である。長男——第一王子を指示している者からすれば次の自分の地位が危ない。よってセシリアの妨害に走っているということだ。
服装一つにとっても長男派閥を刺激しないために質素なものにしている。
しかし妨害は止まらずエスカレートして行っている。そしてそれをどこかで聞きつけた出版社が記事にして、更に貴族達がヒートアップして、と悪循環に陥っているのが現状であった。
「さてシャルロッテ」
少し硬い口調でセシリアが呼ぶ。するとシャルロッテの顔が真面目なものになる。
「先日の襲撃についての報告を」
「はっ! 」と敬礼し、そしてシャルロッテは報告を始めた。
「結論からお伝えしますと暗殺者だと思われます」
「シャルロッテにしては歯切れが悪いですね」
「捕らえた襲撃者ですが、規模は大きく御座いませんでした。しかしその戦力・装備などを踏まえての結論になります」
「? 尋問は? 」
「残念ながら雇い主・組織については何も喋らず」
それを聞き大きく目を開くセシリア。
シャルロッテも苦々しい表情を浮かべている。
そしてセシリアは顎に手をやり考えた。
「……となると予想以上に巨大な組織が絡んでいることになりますね」
「由々しき事態です。王子殿下の関与以前に我が国の貴族がそのような組織と繋がりがあること自体が問題でございます」
「因みにですが関与が疑われる貴族は」
セシリアがそう言うとシャルロッテは首を横に振る。
するとセシリアが「そうですか」とだけ呟いて考え込んでしまった。
それを見て、シャルロッテが一歩前に出る。
「一つ気になる事が」
「どうしたのですか? 改まって」
「いえ。賊の頭と呼ばれていた者が所持していたものの中に、珍しい物が一つ」
「それは? 」
「精霊阻害です」
「精霊阻害?! 」
ドン! と机を叩いて立ち上がるセシリア。
当然の反応にシャルロッテは驚きもせず、続けた。
「何故このようなものを持っていたのか不明ですが、並みの裏家業の者ではないでしょう」
「精霊阻害は半ば伝説とされている精霊族の行動を阻害すると言われているもの……。何故そのようなものを……」
困惑を隠せない表情をしながら再び座るセシリア。
シャルロッテが見守る中「はぁ」と息を吐き彼女は見上げた。
「精霊阻害の件は一旦置いておきましょう。シャルロッテは今まで通り護衛を」
それを聞きシャルロッテはキリッとした表情で異議を唱えた。
「殿下。巨大犯罪組織の者が王位継承権に関与してきている疑いがある以上、今まで以上に殿下の護衛を増やさなければならないと献言いたします」
「分かりました。護衛の采配は任せます」
「はっ! 」
「ついでに一つ頼まれて欲しいのですが」
セシリアは少し雰囲気を変えてシャルロッテに言った。
ここまで如何だったでしょうか?
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