第15話 ハデルは初めて魔界に足を踏み入れる
「大丈夫だったか? 」
「あの程度全然」
価格調査と通行許可書を手に入れた俺達はベルモットの一室で飲み物を飲んでいた。
「無事ならいいんだが」
「あれれ? ボクの事心配した? 」
「まぁ……な」
「ありがと」
俺がそう言うと少し顔を赤らめ機嫌よさそうに言うサラシャ。
ま、無事ならよし。
「因みにだがどんな方法で撃退したんだ? 」
「秘密♪」
「そうですか」
サラシャが顔を赤くしたまま少し意地悪そうな顔をして俺に言った。
そう言われると気になるのが人の性。
だが聞くまい。
わざわざ俺から離れて倒したのだから何か特殊なスキルでも使ったのだろう。
しかも必勝の方法。
聞けるとは思わなかったが、本当に聞けなかったことに少しがっかりする自分がいる。
「明日はどうするの? 」
「ん? 後は仕事に就くだけだ」
「なら明日はそのまま魔王陛下の所だね」
「何故いきなり王様の所に!? 普通そのまま職場じゃないのか?! 」
「ご指名は魔王陛下だもの。仕事に就く前に顔を合わせないとね」
「……俺、礼服を持っていないんだが」
「今の服装でも十分だよ。それに陛下は服装にこだわらない主義だから。……色んな意味で」
俺の服装、普通に旅服なんだが……。
確かに見た目は良いがどちらかというと戦闘向き。
一国の王に対して「俺と喧嘩するか? 」と喧嘩腰で行くのはあまりよろしくない。
一応のスーツは持っているがどれも式典に出る用の物ではない。長く使ってしまったせいかどれもくたびれている。
「本当に悩まなくてもいいから」
「……物凄い不安なんだが」
サラシャが笑い俺が悩む。
「本当にだって」
「……そうか。分かった。このローブのままでいこう。しかし……何というかサラシャは親し気だな。魔王と」
「?! そうかな? 」
「ああ。幾ら国家公務員とはいえ一国の元首と会わないだろ? なのによく知っているようなことを言っているから……」
「き、気のせいだよ。うん。陛下に関しては……ほら。色々と噂とか出るし」
それはそれで怒りを買いそうだが……。まぁ気のせいというのならばそれ以上追及しないでおこう。
「さて。今日の所はお開きと行きますか」
「えええ~。まだ明るい! 」
「というがな。明日魔王と会うなら早めに出ないといけないだろ? 」
「そうだけど……。あ、そういうことか」
俺が言うとサラシャはポンと手を叩き、納得したような顔をする。
「さては昼からそう言うことをしたいんだ」
「ちょい待て。どうして目を輝かせながら俺に近寄る?! 」
「良いんだよ。ハデルもエルフとは言え男だもんね。持て余すそのパワーは発散しないと」
「何を言いたいのかはよくわかるが、近寄るな! 」
「良いじゃん、お堅い事言わず。一人でやるよりも二人の方がきっといいよ」
「で、出て行け—!!! 」
サラシャをつまみ出し「バタン」と扉を閉めた。
「はぁ……。俺の気も知らずに」
冗談交じりなのだろうが可愛い女性に迫られて悪い気はしない。加えて迫ってくるのが淫夢魔と来た。
それが余計に厄介で。
……淫夢魔がエロいというのは本当だったらしい。
★
早朝。俺とサラシャは門の前に来ていた。
「いつ見ても凄いね」
「こっち側の門は初めてだが……豪華だな」
「こっち側? 」
「いや気にしないでくれ」
精霊界側の門とは違い魔界側の門は様々な装飾がされていた。
門の向こう側には町は見えない。何も映らない真っ黒い闇がそこにあった。
門の装飾は観光用に装飾したものだろう、と思いながらも列に並ぶ。
俺とサラシャは比較的人数の少ない列に並び順番が来るのを待った。
「ボクは大丈夫だけど……。ハデルはこっちの列で大丈夫だったの? 」
「委員会のプラチナ会員を舐めないでほしい」
「ならいいけど」
少し周りを見る。
早朝だというのに色んな種族が並んでいる。獣人族に魔族に人族に。俺の様に精霊族は見られない。妖精族も見えないな。
魔界は妖精族——エルフやドワーフにとってあまり人気がないのだろうか。
そう思っていると前の方から声が聞こえて来た。
どうやら俺達の番のようだ。
「魔界にはどのようなご用事で? 」
「俺は就職」
「ボクは帰国だね」
俺とサラシャはそれぞれ通行許可書を出して答える。
所謂優先列に並んでいるせいか門番の言葉使いがマイルドだ。
門番がそれぞれを確認し、先に通す。
「確認しました。では良き魔界のひと時を」
門番の声と共に俺達は門をくぐる。
足を踏み入れた瞬間得体の知れない不安定感に襲われたがこれで二回目。気にせず前を進む。
サクサク行くサラシャの後を追いながら、そして俺は魔界に着いた。
★
【ようこそ! 魔界最初の国『魔国』へ! 】
視界が開けた所にそう書かれた横長な垂れ幕が飾ってあった。
俺の前を行っていたサラシャが小柄なお尻をくるっと半回転させて俺の方を向く。
「ようこそ! 魔国へ! 」
「いや書いてるし! 」
「こ、こういうのは雰囲気が大事なんだよ! 」
「分かってるが……流石にあの垂れ幕を過ぎ去った後にそう言われると、な」
「もうっ! なら! 」
サラシャが「コホン」と軽く咳払いし俺を見る。
「ようこそ! バルの町へ! 」
と次は両手を広げてそう言った。
「お、おう……」
「なんなのさ、その微妙な感じ」
サラシャが少し頬を膨らませ顔を背けてしまった。
だが何度も強調されると逆に萎えるのは自然なこと。許してほしいが、さてどうしたものかと頬を掻いていると後ろからブルの声が聞こえて来た。
「ふぁぁぁ……ここが魔界! 」
「あまり人界とは変わんねぇな」
「ロッソの目は節穴ですか。人界に比べて魔力濃度が段違いです」
「そう! その反応が欲しかったんだよ! 」
ブルにつられたのかベルデとロッソも出てきて口々に言った。
ブル達の反応にサラシャが食いつく。
三リスの反応に満足したようで尻尾が右に左に動いていた。
しかしこのままではいけない。すぐに動かないとな。
「そこまでだ。さ、首都へ行こう。サラシャ。先導頼む」
「……了解」
もう少しこの雰囲気を堪能したかったのか、彼女が少し肩を落とした。
だがすぐに顔を上げ自身に魔法をかけ始める。
彼女を見て、上空を見る。規則的に飛んでいる人達をみて状況を察した俺は自身に飛行をかけて準備をした。
俺達が出発すると聞き三リスはすぐさまリュックサックに潜り始めた。
「じゃぁ行くよ」
その一声でサラシャが飛び、俺も空を飛んでいる人達の一団に加わった。
ここまで如何だったでしょうか?
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