第11話 セシリアとシャルロッテは帰路に就く
怒れるサラシャに連れられて俺はガルドア王国への道を走っている。
彼女のおかげで切り抜けられたのは良いがあれから少し不機嫌だ。
どうしたものかと思いつつも走る。
「……そろそろ機嫌を直してくれ」
「ふん! ハデルが他の女といちゃつくなんて」
「説明した通り助けただけだ。他意はない」
「ほんとかなぁ」
木の枝を踏み台にしてジャンプする。
サラシャは飛行で木々をすり抜け俺に近付く。
「何か親し気だったし」
不貞腐れた顔で俺を見た。
何だ。どういうことだ? 淫夢魔の嫉妬か?
どう切り抜けるか、俺はむしろ困っていたぞ。
「そんなことはない。どう切り抜けるか考えていたところだ。むしろサラシャが来てくれて助かった」
「……ふ~ん」
「確かにサラシャを置いて行ったことは謝る。だがサラシャを危険に晒したくないだけだったんだ」
「本当? 」
「あぁ」
「なら許すよ」
「傷つく女性は見逃せない質なんだぜ、許してやってくれ。お嬢」
ロッソがそう言い——空気が凍った。
★
ハデル達がいなくなった後、女騎士こと『シャルロッテ・シルヴァ』は指揮を執っていた。
「隊長。準備が整いました」
「報告ご苦労」
「シャルロッテ」
シャルロッテが声を聞こえると彼女は馬車の方を見る。すると静かに扉が開いていた。
扉が開くとメイドが出る。同時に騎士達が列を作り背筋を伸ばした。
カツカツカツ……、と音を立てながら、今までとは違う種類の緊張を纏いながら一人の女性が騎士達の前に現れた。
「総員敬礼! 」
戦闘後というのに「バッ! 」という音を立て騎士達が敬礼をする。
女性は少し苦笑いを浮かべながら手を上げ敬礼を崩すように伝えた。
「今回はご苦労様でした。誰も欠けず生き残れたことに感謝を」
言葉が放たれると場が少しどよめく。騎士の中にはその言葉だけで涙ぐみ者も出ていた。
「皆さんお怪我をしているようで。僭越ながら回復魔法を」
騎士達は更に感極まる。
「お前達! 姫様の前だぞ! なに泣いている! 」
「た、隊長。泣かないという方が無理です」
「そうです。姫様直々に回復魔法をかけてくださるなんて」
「俺なんて唾をつけときゃ治るのによぉ」
「私はむしろ唾をつけてもらいたい」
一部おかしな人がいるが姫様と呼ばれた女性は魔杖を手に取り彼らの前に立った。
そして彼女は魔法を発動させる。
「では。魔法範囲拡大: 治癒」
唱えると彼女を中心に巨大で蒼白い魔法陣が地面に浮き上がった。
同時に騎士達の顔色が良くなっていく。
魔法の効果を確かめて彼女は「ふぅ」と少し息を吐く。
そしてシャルロッテが大きな声を上げた。
「姫様。この度はありがとうございました! 」
「いえ。しかし申し訳ないのですが……」
「分かっております。おい! これより再出発する! 行くぞ! 」
「「「はっ!!! 」」」
こうして馬車が走り出した。
走る馬車の中、「少し話がある」との事でシャルロッテは馬車の中で揺られていた。
「なんとか切り抜けましたね」
「ええ。セシリア殿下」
「私とシャルの仲なのです。殿下は止してくださいといつも言っているじゃないですか」
「殿下が自分に対して敬語が抜けないのと同じで、これはどうにもなりません」
「全くもう」
シャルロッテにセシリア殿下と呼ばれた女性は頬を膨らませ金色の長い髪を少し振る。
そして蒼い瞳をシャルロッテに向ける。
「さて。今回はエルフの男性に助けられましたが何方でしょうか? 」
「見ていたのですか? 」
「窓からこっそり」
それを聞きシャルロッテは溜息をつく。
そして主であるセシリアに答えた。
「本人はハイエルフと言っていましたが、名前までは」
「まぁハイエルフさんでしたの?! 」
シャルロッテが「ええ」とだけ答えセシリアは両手を合わせて目を輝かせた。
「珍しい事もあるのですね。ハイエルフ、妖精族ハイエルフと言えばあまり表に出てこないのに」
「自分も驚きました。まぁそのせいで、後から来た同行人に連れられて名前を聞く前にあの場を出発されてしまいましたが」
肩をすくめるシャルロッテに「左様ですか」というセシリア。
「その同行人というのは? 」
「申し訳ありません。恐らく高度な認識阻害の魔導具を用いているのか詳しい姿までは。恐らく悪魔族だとは思いますが、それ以上は」
「シャルの眼をもってしても見抜けないとは……」
そう呟いて少し考えるセシリアは少し間を空け顔を上げた。
「それにしても悪魔族と妖精族の組み合わせですか。珍しいですね」
「あまり聞かない組み合わせではありますね」
「今回そのハイエルフの方に助けられました。どうにかお礼をしないと、と考えたのですが情報が……」
それを聞きシャルロッテはあることに気が付く。
(もしかしてこうなる事を予想していたのだろうか? 何か急用がありそちらを優先させたと。この目立つ馬車に襲撃場面。名誉よりも優先すべき事があるのならば、敢えて名前を名乗らなかったのも頷ける)
シャルロッテはハデルとの会話を思い出しながら考える。
二人があれこれ考えている間に馬車はシルク王国へ辿り着いた。
ここまで如何だったでしょうか?
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