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第1話 ハデルは失職する

 目の前に広がる青いパネルをタップして、それを終了させた。


「よし! やっとダンジョン調節終わり! 」


 伸びをしながら肩を回す。

 疲れたぁ。今回は特に!

 ゴキゴキと肩を鳴らし終えると球状のダンジョンコアに背を向ける。

 解放感のためか周りが広く見える。

 そこには色々な術式や魔法陣が書かれていて普通のコアルームではない事は一目瞭然(りょうぜん)

 周りのオリジナル術式を見ながら(われ)ながら完璧な仕事と思う。


「やっと終わったの? 」

「今回は手間取ったな、マスター」

「え、えと。お疲れ様です」

「終わったぞ。お前達もお疲れさん」


 緑のリスが「本当によ」とだけ言ってカリカリと種を(かじ)り始めた。

 肩の上の様子を見ながら少し(ほほ)(ゆる)ませる。

 あくびをしながら再度ダンジョンコアを見る。


 この三体のリスは精霊獣。正確に言うとここ人界とは別の世界、精霊界にあるマザーダンジョンのダンジョンコアが姿を変えたもの。


 (ちゅう)に浮いて右に左に元気いっぱいに動き回っている赤いリスが『ロッソ』。

 ダンジョンコアの隣で大人しくポツンと座っている青いリスが『ブル』。

 俺の肩の上で今も種を(かじ)る緑のリスが『ベルデ』である。


 彼女達は精霊界のマザーダンジョンと呼ばれるダンジョンのダンジョンコアだ。

 世界を(また)いで何でこんなところにいるのかというと、俺が精霊界に存在するマザーダンジョンを三つ攻略し支配下に置いたから。

 マザーダンジョンに分体を置いて、俺と共に世界を渡ってきたというわけだ。


「今回もおれっちの大活躍だったぜ」

「それを言うなら私もです」

「ぼ、僕も……」

「いつも感謝してるぜ」

「なら態度で示してくれよ」

「正確に言うならばこの種に合う紅茶を用意して欲しいわ」

「僕は、特にいいかな」

「オーケー。今回は奮発(ふんぱつ)してやろう! 」


 やったー、という声が上がる中俺は席を立った。

 ベルデもブルも宙に浮き喜んでいる。

 どれだけ嬉しんだよ、と思いながらも魔改造され完全私室となったコアルームの壁に向かった。


 俺が今働いているこの『シルクのダンジョン』は弱小(じゃくしょう)だ。それこそ資源として使えるかどうか(あや)しいくらいに。

 よって他のダンジョンに市場を奪われないよう、少しズルだがダンジョンコア三体に運営を手伝ってもらっている。


 人界に来て早百年近く。幾つかダンジョンを踏破(とうは)したが一旦休みたかった。

 そこで出ていたこの求人を受けて()れて安定した国家公務員……のはずがまさかのブラック企業だとは。

 ダンジョン運営の経験があるとはいえ弱小ダンジョンを他のダンジョンに負けないように持ち上げるのは大変だった。

 それこそ新しい魔法術式を作ったり他のダンジョンコアに手伝ってもらったりと。

 その結果が周りに張り巡らされている術式や魔法陣だ。

 術式を感慨(かんがい)深く見ながらも、壁際(かべぎわ)に置いた姿見(すがたみ)に顔を向ける。


 そこに映るのはシャープで白い顔と前髪に金のメッシュが入った短い緑色の髪。金色の右目と緑の左目、そして異常に長い耳を持つ男性。


「見事なまでにエルフ顔だな」

「何言ってんだ、マスター。マスターはエルフじゃなくてハイエルフだろ? 」


 俺の前まで来てロッソがやれやれと両手を振って呆れた。

 するとベルデが落ち着いた声で付け加える。


「正確に言うのなら精霊族ハイエルフ。妖精族ハイエルフとは違いますよ、ロッソ。それに(あるじ)様は自分の種族の事を言っているのではなく形の事を言っているのです。そのようなこともわからないのですか? 」

「わ、分かってるって! それよりもさ、マスター。今から買いに行くのか? 」

「欲しくなかったのか? 」

「よし! 今から行こうぜ! 」

「なら少しおめかししないといけませんね」


 姿見の前で騒ぐ二体を少し押しのけ白衣を脱ぐ。

 ()らばっている衣服の中から輝く緑のローブを取り出して、それを羽織(はお)る。

 我ながら服にズボラなのは転生前から変わらないらしい。


 足を姿見から違う方向へ。

 (くし)で毛並みを揃えるベルデを微笑ましく見ながらもアイテムバックがある方に移動。


 ダンジョンやモンスターが危険なものだったのは昔の事。今ダンジョンは資源として扱われている。

 無論未踏破のダンジョンもあるのですべてが安全と言う訳ではないがそれでも脅威(きょうい)ではなくなった。

 何せ未踏破ダンジョンに挑む(やから)が殆どいなくなったからだ。安全に資源を得られるのならばそれに()したことはない、と考えるのが普通で。

 最早ダンジョンアタックというのは、調節された資源を採りに行くことを示す言葉となってしまった。


 無暗(むやみ)にダンジョンアタックをするのは命を危険に(さら)す。

 そう。昔の俺の様に。

 しかしながら未踏破ダンジョンを攻略しないといけないのも事実であり、踏破していないことによる危険性は(はか)り知れない。

 休んで体調を整えるのも必要なので、ダンジョンアタックをしながらこうして時折管理運営で休憩を取っているのだ。


 せっかくの第二の人生。

 時に激しく、時にゆったりと楽しもうじゃないか!!!


「出来たわよ」

「おれっちも準備万端(ばんたん)だぜ」

「い、行けます! 」


 三リスの声が聞こえてきた。

 俺もリュックサック型のアイテムバックを背にして腰を上げる。

 するとダンジョンコアの近くから振動音が聞こえた。


「……誰だ? 」

「あのいけ好かないおっさんだろ? 」

「もしくは主様の部下でしょうか」


 ロッソとベルデの予想を背にコアの方へ足を向ける。

 前世で言う所のスマホみたいな小型タブレットを手に取り相手を見る。そこには『ハービー・ジャクソン』と出ていた。

 げ。ロッソの予想的中。

 顔を(しか)めて嫌々通話ボタンを押して耳を傾ける。


『遅い! ハデル。全く君は通信機が鳴ったらすぐに出るという常識がないのかね。これだから長命種というものは。親の顔が見て見たい。だが——』


 ウザい。このクソ上司マジでウザい。生前も似たような奴はいたが、どこの世界も上司というのは一緒と言う訳か。

 しかし「親の顔を見て見たい」というが実際見たらこいつ死ぬんじゃないか?

 少し顔を上げると「嫌なものをみた」という風な顔をする三リス達が。

 気持ちはわかるが毒を吐かれているのは俺なわけで。


『——聞いているのかね! 』

「あぁ、はい。聞いてますよー」

『ったく何だねそのやる気のない返事は。まぁいいその返事を聞くのも今日までだ』

「? 」

『明日から来なくていい。今日限りで君はクビだ。ハデル・エル』

「………………はぁぁぁぁぁぁぁぁ?! 」

ここまで如何だったでしょうか?


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