第八話 街道
本日はあと二話更新します!
月光草の群生地を探し回って一週間が経った。
最初に採取した月光草がそろそろ痛み始めてきているので、俺は採取の目的である魔法の師匠となってくれる人物のところへ出向くことにする。
「家出するか!」
五歳にして家出を決意。
絶対両親を悲しませることになってしまうが、俺が魔法を使えるようにならなければ妹であるネイアを救うことはできない。
ゲーム時代にこんなイベントはなかったが、魔法の中に他人の魔力を操作するものがあった。
それを習得できればネイアを治せると思うのだが、俺が十歳になるまで待ってしまうとタイムリミットまで二年しかなくなってしまう。
それに、十歳よりも早く死んでしまうということも考えられる。
そうと決まれば行動は早かった。
師匠候補はもちろんゲーム本編の舞台である王都に住んでいる。
グランヴィル男爵領と王都の位置関係は家にあった世界地図で大体把握している。
その世界地図だが、ゲーム時代と世界の形は変わっていないようで概ね似たようなものだった。
だがいくつか記載されていない島々があったので、そこはまだ未発見なのだと思う。
この情報は後々役に立ちそうだ。
それから半日かけて出立の準備を終える。
王都は大人の足で三日とういうところにあり、少しの水と食料でたりるだろう。
問題は火なのだが、最悪なしでもいけるだろう。
その間の食料は火を使わない果物になってしまうが、数日なら問題はない。
そして、しばらくの間お別れになってしまう両親や妹と最後の時間を過ごす。
「アルどうしたんだ今日はみんなで一緒に寝たいなんて」
ネイアは常に両親と寝ているが俺は一人で寝たいといって普段は一人だ。
その方が夜中に動きやすいからな。
だが今日は我儘を言って家族全員で寝ている。
「みんなで寝ると暑いといっていたのに……怖い夢でもみたのかな?」
両親の笑顔が優しい。
妹のネイアは既に寝息を立てており、俺はこれでもかと可愛がられていた。
(明日から寂しくなるなぁ。心配もさせちゃうだろうし。それに、次に生まれてくる弟か妹の出産には間に合わないだろうな)
レイネシアは第三子を身ごもっていた。
お腹も大きくなり、そろそろ生まれてくる時期だと思われる。
そんなタイミングで月光草を集めることになったのは理由があった。
(あの人がゲームに出てくるのは入学式イベントの数か月後。それまで何年か旅に出ていたということだから、早めに捕まえないとどこかに旅立っちゃうんだよな)
もうすでに旅立ってしまっていたらしょうがないが、十年もしないうちに帰ってきたと言っていた。
学園入学の年齢が十六歳ということを考えれば五歳である今であればまだいる可能性があるのだ。
(まあ、俺が主人公と同じ年齢ならだがな)
家族との団欒を終え布団を抜け出す。
一生会えないというわけではないがやはり心にくるものがある。
(三十歳という前世はチートなのかもな。もし俺が本当の五歳だったら、必要と分かっていても家族と離れる決断なんてできなかった)
家を出るときの寂しさは凄い大きな感情として押し寄せてきた。
涙で前が見えにくくなったがその歩みを止めなかったのは前世チートの賜物だったのだろう。
グレンヴィル男爵領を出てからは夜中の移動になる。
魔物などが見えにくく危険ではあるが、歩いている間は常時魔力門を開いている必要がある。
そうすることで常にランニング状態で進むことができるのだが、やはり体力の消耗は昼の太陽の下では激しくなってしまう。
そのおかげで一日の進む距離が相当稼げた。
この調子なら二日で到着できるかもしれない。
そしてさらに一日、王都へと続く街道へ差し掛かったのでここからは昼の徒歩に切り替える。
「ふぁ~。まだ眠いな」
盛大なあくびが出てしまう。
夜中ぶっ通しで走ったので一応午前中は睡眠を取った。
寝るときは木の上に自分を括り付けているので魔物に襲われる可能性も低く、木陰で涼しかった。
しかしまだ疲労は抜けていないようで眠気を感じていた。
(それにしてもまだ王都は見えないか)
普通ならあと一日掛かるが踏み慣らされた道が期待感を高めてくる。
とはいえ森の中を通っている道なので、ここを抜ければ見えてくるだろう。
曲道を進むと視界が少し開け、その先にな何かが見えてきた。
(あれは馬車かな? 人が座っているな)
馬車の横に布が敷かれており、そこに人が座っていた。
女の人が三人、男の人が五人、計八人といったところだ。
男の五人は護衛なのか、帯剣しており二人が座って休んでおり、三人が周りの警戒をしているようだ。
女の人は二人がメイド服を着ており、簡易的なドレスを着ている少女をうちわのようなもので扇いでいた。
(どこかの貴族令嬢といったところかな?)
少女は俺と同じぐらいの年齢に見える。
俺が言えた義理ではないが、身分が高く幼い女の子が遠出をして危なくないのだろうか。
(護衛がついているとはいえ、魔物に襲われたら自分では逃げ切れないぞ?)
盗賊や魔物に襲われたたら全部倒さなければ幼い子供の運命など決まっている。
それにしては護衛が五人。
多いのか少ないのか分からない数だな。
魔法を使えて強者ということならあれで十分なのかもしれない。
「おい! そこで止まれ!」
身分の高そうな集団は街道の横で休んでいるので必然的に俺が近づいていく形になった。
俺の姿を確認するなり、二人の護衛が近づいてきた。
「まだ子供じゃないか? もしかしてどこかの村が襲われたのか?」
難民だと思われたようだ。
「親はどうしたんだ?」
俺は護衛の質問に首を横に振る。
これは答えたくないという意思表示だが、違う意味に捉えて勘違いさせる狙いでもある。
「そうか……辛い思いをしたのだな。隊長にどうするか聞いてくるから待っていろ」
二人のうちの一人が馬車の方へ戻る。
しかし、その護衛が隊長の元へ辿り着くことはなかった。
「敵襲! 盗賊だ!」
頭を矢で射貫かれた護衛が倒れると同時に森の中から盗賊が現れたのだ。
「へへへ、女は二人か。ガキを確保したら好きにしていいぞ野郎ども!」
自分の運の悪さを呪いたくなった。
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