第四話 魔力痣
熱が出て三日目。
やっと熱が下がり、体の怠さも抜けきている。
レイネシアや、ケヴィンは俺が熱を出したと聞いて慌てていた。
プチパニック状態だったが、そこはレジェイネが冷静に対応しており、医者を呼んだりしてできることをやっていた。
当の俺はというと、赤ちゃんで熱を出すのはこんなにキツイものかと実感していた。
正直体力が持つかどうか一番心配していたのは俺自身だろう。
大人の時でも熱を出したときはキツかったが、赤ちゃんはその比ではなかった。
マジで死ぬかと思った。
熱を出している間はもちろん魔力どうこう言ってられなかったので、体力が戻りつつある今、確認だけでもしておく。
(おや? 魔力門は開いていないのに、活発だな)
例の”点”については、『魔力門』、魔力の流れは『魔力線』と呼ぶことにした。
身体に流れている魔力が、熱を出す前よりも活発になっている気がする。
線の太さは変わらないが、流れる速さが上がっているのだ。
これは日々の検証が必要そうだ。
魔力門に集中していたら起こった魔力の変化。
単純に考えれば魔力の増幅なのだろうが、それ以外の要素も含まれている気がする。
恐らくだが、魔力線に流れる魔力量には限度がある。
それのリミッターを解除する行為が、魔力門の解放だと思う。
三日前に俺が行ったことがそれだ。
そして、不慣れな魔力操作や、一気に身体中を巡った魔力。
そういったものの影響で体調を崩してしまった可能性がある。
なので、これから色々試したいところだが、慎重に行わなければならない。
流石に連日熱を出し続けるわけにはいかないからな。
それから何日か様子見て魔力に関する検証を再開する。
同時に歩く練習なども取り組み、身体的にも強化を狙う。
それが功を奏したのか、二歳になる頃にはしっかりと歩けるようになり、魔力の解放も第一門であれば安全であることが分かった。
第一魔力門。右脳にある門だが、それを解放するのは問題ない。
それに、魔力門を開くことを繰り返すと、魔力線が太くなっていったのだ。
これは魔力が成長していると考えていいだろう。
俺の魔力線はレジェイネと比べると太く、レイネシアとケヴィンと比べると細いといったぐらいだ。
そして、今日は俺にとっても、両親にとっても特別な日になった。
妹の誕生。
ヴィヘイムにせっつかれていた子づくりを二人は頑張っていたようで……いや、あの両親のいちゃいちゃ振りから、ヴィヘイムのことがなくてもつくっていた気がする。
兎に角、俺にも可愛い妹が出来ました。
願わくば、この世界の常識に則ったわがままお嬢様に育たないでほしい。
レイネシアの出産が無事終わって、妹との対面時間がやってきた。
レジェイネに呼ばれた俺はベッドに横たわる母、レイネシアの側へ招かれる。
反対側には父のケヴィンが座っていた。
「アル……もっと近寄っていいぞ」
ケヴィンの声がどこか沈んでいる。
妊娠が発覚したときにはとても喜んでいたのに、何かあったのだろうか?
「ほら、アル。妹のネイルよ」
ネイルという名前なのか。
というより、レイネシアも無理して元気をだしているように見える。
二人の様子がおかしい。
答えは生まれたばかりの妹、ネイルの姿をみたら出た。
(これは!)
波打った痣のような線が体中を這いずり回るように伸びている。
ネイルの魔力線を見る。
どうやらネイルの魔力は上手く流れていないようで、魔力門のところで悪くなっているようだ。
「ねいる?」
妹の名を呼びながら黒く伸びる痣を指でなぞる。
その光景を見た両親の口から嗚咽が漏れだす。
(この痣……魔力が漏れ出て固まっている?)
前世でいう内出血のようなイメージだろうか。
それの魔力バージョンといったところだろう。
こんになに魔力が漏れ出ていて大丈夫なのだろうか?
いや、両親の様子を見る限り大丈夫ではないのだろう。
どうにかできないかと試しに俺の魔力を流し込んでみようとするが、弾かれ何もできない。
「アル……お前の妹は十歳までしか生きられないが、それまでお兄ちゃんとして愛してやってくれ」
十歳。
ネイルの症状が出たらそこまでの寿命なのだろうか。
もしかしたらもっと早く死んでしまうかもしれない。
だが、今すぐにということではないことが救いだろう。
幸い俺には妹の病気の原因が見えている。
それは、魔力門の開きが極端に小さいということだ。
そのせいで魔力線に魔力が詰まり気味になり、漏れ出している。
このまま魔力を漏れだし続けると体に悪いのだろう。
両親が諦めているようなので、この病気の治療法はこの世界にはないのだろう。
ということは俺がどうにかしなくてはいけない。
だが、一つ懸念材料がある。
今俺が希望を持てているのは、ネイルの魔力を見れるからである。
この能力は俺にしかない特別なものであると思っている。
だが、他の人が同じような能力を持っているか否かはまだわからない。
魔法を教えて貰ってもいないし、聞いてもいない。
もし、魔力を見ることがこの世界の住人のスタンダードだとするならば、魔力門の問題を見られても、この病気を治すことはできないことになる。
しかし、確信ではないが、俺には何か特別な力があるのではないかと。感じていた。
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