第三話 1歳
年も明け、俺が生まれて一年が経った。
ヴィヘイム達が来てそろそろ半年が経つ頃合いだが、あれから帰ってきたところを見たことがない。
父も苦労をしているようで、ヴィヘイムが帰った後に愚痴をこぼしていた。
曰く、ヴィヘイムは王都で好き勝手に暮らしているようで、こちらからの仕送りの額が毎年増えて大変だとか。
おかげで貴族で土地持ちのお家ながら、質素な暮らしを強いられているのだ。
そんなわがままなら離婚してしまえと思わなくもないが、この土地はヴィヘイムの実家から借金をして買ったらしく、まだ返済が終わっていないので強く出られないようだ。
金か……。
家のお金をコントロールする女性が力を持ち、外の家との繋がりを作る。
そして、上下関係を作っていった先に今のような世が出来上がったのだろう。
だが、一歳になったばかりの俺はまだまともに歩くこともできず、何もできることがない……わけではない!
一応レジェイネが魔法を使うところを毎日観察し、魔力というものを感じている。
そして、自分の中にも魔力がないかと思って己の身体に意識を集中すると……あったのだ。
それは身体全体に血液のように巡っている。
本当にわずかだが、レジェイネと同じような魔力が流れているのだ。
ちなみに一歳になる少し前に喋ることができるようになった。
まだ、短い単語を言える程度だが、これから異世界の言葉を覚えていけば問題ない。
言葉を発することができるようになって初めて呟いたのは『ママ』である。
それから半年もするとまともに歩けるようになり、行動範囲も広がった。
正直この赤ちゃん期、暇で仕方がないのだ。
歩けるようになる前は、ハイハイや壁に手をついて立ち上がる練習をして自分なりにトレーニングをしていた。
だが、この身体は体力がなく、すぐに眠くなってしまう。
正直レジェイネが世話をしているときに発することもできたが、流石に最初は実の親を呼んであげたい。
その時レイネシアが騒いで父であるケヴィンを呼んだので、『パパ』と言うと両親は狂喜乱舞していた。
そこから数か月もすると安定はしないが歩けるようになり、自分なりに練習の成果も出始めたと感じている。
その中で一番の収穫はやはり”魔法”であろう。
レジェイネのように火をつけたりはまだできないが、何となく感じていた魔力の流れがはっきり分かるようになってきたのだ。
魔力をはっきり感じるようになってから、レジェイネの魔力に注目してみた。
すると、魔法が発生する前にお腹のあたりに魔力が集中し、そこから無色だった魔力が赤く変わり、腕の中に魔法陣のようなものが形成され、その魔方陣を通過して魔法へと昇華されているようだった。
それを見る限り魔力を魔法へと昇華させるには、魔力を属性変換し魔法陣を媒介に体外へ放出するといった感じなのだろう。
体内でただ魔力を変換するだけではダメで、形態変化を加える魔法陣が必要になってくる。
レジェイネの魔法を観察する限り、そのような現象が起こっているのだがいかんせんまだ知識がなさすぎる。
魔力という部分はどうにかなるかもしれないが、魔法陣に関してはさっぱりである。
これはゲームの時とは違うもので、主人公達は最初から魔法が使えたので考える必要のない部分だった。
だが、ゲームが現実になった弊害なのか、まずはそこから理解していく必要があった。
とりあえず一番取っつきやすそうな魔力から始めることにした。
ただぼんやりとしか捉えられなかった頃は魔力で何かできるということはなかったが、今、試しに魔力を自分の意識で操ろうとすると反応があった。
(おお! これは!)
微弱ではあるが、魔力の流れが速くなるのがわかる。
それをしばらく続けると、お腹の辺りに集まってきた。
だが、集中しすぎて疲れたのかいつの間にか寝入ってしまっていた。
次に目が覚めると、自分の身体の中の魔力に変なものが付いているのが見えるようになっていた。
それは”点”であり。己の身体に八つ見えている。
腹に一つ。
右手と左手、右腿と左腿、右足の甲と左足の甲。
そして最後に……心臓である。
これはなんなのかと、レジェイネに視線を向けると、なんとレジェイネも同じような点があった。
しかし、その数は十。
俺より二つ多い……わけではないだろう。
俺の身体にない二つの点。
それは、レジェイネの頭にあるのだ。
つまり、俺も頭に二つの点を持っているということだろう。
右脳と左脳に一づつ。
それを意識すると、確かに感じる。
点を感じるというよりは、”引っかかり”のようなものだ。
何かをせき止めているような、そんな感じだ。
魔力が流れるところでせき止めるもの。
それはもう魔力をせき止めているとしか考えられないだろう。
もしかしてこの点は魔力の量を制限するリミッターのような役割なのだろうか?
試しにその点に対して魔力を集中させてみる。
すると、徐々に魔力が流れている線が太くなっていった。
それと同時に、右脳にあった点の存在が消えていることに気付く。
(やった! なんか魔力の流れが強くなったぞ!)
魔法はまだ使えないが、恐らく魔力は強くなった。
「アル様、ご飯の時間です」
いいところでレジェイネが離乳食を運んできた。
「あら、なんか息遣いが荒くなってますね」
そういえば、集中していて気づかなかったが、なんだか身体が怠い。
「熱い! 熱が出ていますね!」
俺は熱で寝込んでしまった。
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