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第二話 0歳


 今日もレジェイネが俺のご飯を用意してくれる。


 最近は離乳食のようなものが増え、母乳の摂取は減ってきている。

 乳母のレジェイネはどうやら未亡人のようで、子供と夫を亡くしているようだ。

 詳しい話は聞けなかったが、母とレジェイネが俺のことを話すときに、たまに話題にあげていた。

 もし子供が生きていたら、俺と同じ年齢と言っていたので、俺が生まれる一年前の間に生まれ、すぐに亡くなっていることになる。


 そんな背景もあり、レジェイネと母は俺のことを大層可愛がってくれていた。

 ちなみに母の名前はレイネシアといい、ちょっとレジェイネに似ているなと思った。


 さらに、変わったことといえば、俺にはお姉ちゃんがいるらしい。

 らしいというのは、俺が生まれてすぐには会いにきたそうなのだが、全く覚えていない。

 それ以降会いに来たことはないらしく、今日、半年振りに()()()()()()と共に訪問してきたのだ。


「レイネシアさん。元気な男の子ね」


 髪を纏め上げ、扇を口元に当てている女が、母の隣に座らされている俺を見て目を細める。


「ヴィヘイム様、申し訳ありません。しかし、元気な分よく働いてくれるかと」


 なんか、嫁と姑みたいだ。

 初めて対面したのは玄関先だったのだが、その時にもう一人の母であると紹介されたのだ。

 もちろん俺はまだ喋れないので、『あうー』と挨拶させて貰った。

 それが気に入らないのか、俺を見る目は酷く冷たいものだった。


「そうですか。せいぜいいい家とご縁がもてるように、厳しく育てなさい」

「心得ております」


 なんか思い出してきたぞ。

 そういえばあの乙女ゲーム、男への差別が酷い世界観だった。

 家を支えるために働くのは男なくせに、嫁いできた嫁が好き放題するような設定だった。


 舞台となる学園では男共が必至に嫁を探し、家格の高い家から嫁を貰おうと頑張るのだ。

 なので、公爵令嬢などは高慢に育ち、平民出身である主人公に事あるごとに突っかかってくるのだ。

 そして、モブである男子生徒は時にいじめの描写などに使われ、主人公と敵対する女貴族達がいかに性根が腐っているのかという説明がなされる。


 もちろん主人公をはじめ、優しい女の子達もいるのだが、このゲームの世界観的に女の立場が上だということが強調されている。


 しかし、こんな形であの乙女ゲームの世界だと確信するとは思わなった。

 シナリオは飛ばすことが多かったので、何周もする間に気まぐれで見るぐらいだった。

 まあ、結構な周回数なので、重要なイベントなどは把握できているはずだが。


「それで、次の子供はいつの予定かしら?」

「はい。すぐにでもと考えています」


 ヴィヘイムは満足そうに頷いた。


「そう。あなたは私の代わりに沢山子供を産まなければ駄目よ? そうしないと、子爵家からわざわざ男爵家へ嫁いできた意味がないもの。そうね、次は男の子でも女の子でもどちらでもいいわ。男の子なら婿に出してもいいし、女の子なら家格が高い家へ嫁げるわ」


 どうやらこの人は子供を政略結婚の道具にしか思っていないようだ。

 男も長男以外は婿に出されるようだし……俺長男だよな? ヴィヘイムを見る限り、お父さんよりかなり年上だぞ? 親子じゃないかと思うほどに……。


 今の状況を見る限り、この家の実権はヴィヘイムが握っているようだ。

 母は子供を産むために迎え入れられた妾か、第二夫人といったところか。


 もし俺がこの家を継いでも、迎え入れた嫁にこき使われるとか嫌だぞ?

 できれば母さんみたいな優しくて、綺麗な人と結婚したい。

 いや、この現状を見る限り、優しい奥さんと結婚できれば万々歳か。


 ちょっと未来が怖いです。


 母へプレッシャーを掛けたヴィヘイムは父を呼び、連れ立ってどこかへ行ってしまった。

 かかあ天下とはいえ、父はイケメンだ。

 恐らくヴィヘイムのお気に入りなのだろう。


「ヘンリエッタちゃんあっちで遊びましょうか?」


 ヘンリエッタとは、俺の姉の名前だ。

 二歳年上なのだが、0歳からみた姉は相当大きく見えた。


 子供部屋へ移動した俺と姉は並んで座らされる。

 目の前には木彫りのおもちゃがあり、レイネシアはおやつを取ってくるといって離れてしまった。


「アル……んっ!」


 俺の名前をヘンリエッタが呼んだかと思ったら、木彫りのおもちゃを差し出してきた。

 その意味が理解できず、受け取ったらいいのかと思っておもちゃへ手を伸ばす。


「ちぃがう!」


 何を間違ったのかわからないが、ヘンリエッタの意に添わなかったらしく、あろうことか木彫りのおもちゃを俺に投げつけてきた。

 木彫りのおもちゃは結構な重さがあり、それを人に投げつけるのは危ないということは明白だろう。


 赤ちゃんの俺がそれを避けることはできず、おでこに直撃した。

 あまりの痛さに我慢できず泣いてしまい、その声を聴いたレイネシアが慌てて駆けつけてきた。


「アル! 血が出てるじゃない! どうしたの!」


 駆け寄ってきた母は、俺のおでこに手をかざし、何やら呪文のようなものを唱えた。

 すると、手が添えられている部分から光が漏れだし、何か暖かいものを感じた。


(これ、回復魔法か……魔力もレジェイネと違う)


 レイネシアは回復魔法を掛けたようで、痛みがいつのまにか引いていて、驚きのあまり泣き止んでいた。

 母はヘンリエッタに軽く注意をしたが、ヴィヘイムにこのことは黙っていたようだ。


 ヴィヘイムとヘンリエッタが帰ったあとに父にも報告をしていたが、大事にはならなかった。

 それにしても姉はじゃじゃ馬なようで、将来どんな風に育っているか心配である。

お読みいただきありがとうございます!

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