第二十二話 妖精王
今回は短め!
「でやぁ!」
上段から振り下ろされた剣が細い枝を切り落とす。
「やった! ついにやったぞ!」
小枝を剣で思いっきりぶった切って喜んでいるのはケヴィンである。
普通なら子供でもできる程度のことなのに、一端の冒険者である彼がなぜこんなにも喜ぶのか。
「父さん凄いよ! ギガトレントにダメージ与えられるなんて!」
ギガトレント……最難関ダンジョンにのみに出現する高位魔物である。
ケヴィンと一緒にこの森を探索する中で共闘をしてみたのだが、ケヴィンは攻撃魔法が苦手らしく、身体強化魔法を自分にかけて戦っていた。
そのせいなのか、この森に棲む魔物たちに一切ダメージが通らなかったのだ。
これは恐らくレベルが不足しているからだと考察する。
その証拠に、ケヴィンにヒットアンドアウェイ方式で戦ってもらう方法でレベリングを行ってみた結果がこれだ。
レベルアップしたであろうケヴィンがダメージを与えた魔物を倒す。
どうやらダメージが入らなくても、攻撃を当てさえすれば仲間が倒した魔物の経験値が入るようだ。
この世界でレベルアップが起こると目に見える変化が”俺”にはある。
体内にある魔力が強い輝きを放つのだ。
ケヴィンはこの森にきてからもう五回もレベルが上がっている。
このペースが遅いか早いかはわからないが、少なくともこの森に入ったばかりとは比べ物にならないぐらい強くなったはずだ。
「ふぅ。一度休憩しないか? さっきから調子がよくて連戦しているが、こういう時は意外と疲れが溜まっているものだからな」
ケヴィンは冷静な判断ができるようだ。
俺もこのマーリンとの修行でレベルアップをしたが、その時はブレーキが利かなくなってぶっ倒れるまで戦ってしまった。
マーリンは俺が倒れることは想定済みだったようで、それ以降も特に注意されるようなことはなかった。
だが今はあの時と状況が違う。
慣れた場所はもう過ぎており、ここから先は何が起きるか分からないのだ。
「そうだね。あ、あそこに川があるよ。そこで休もう」
木々の隙間から水辺が見えたので、森の中に流れている川だと思い何も考えず近づいてしまった。
「川? 待て! 不用意に近づくな!」
「え?」
水を汲もうと皮袋でできた水筒を水辺へ近づけた瞬間、水面が突如激しく波打ち始めた。
「え、え!」
「妖精王の雫は泉にあると言われている。それは川じゃなくて泉じゃないのか?」
ビックリして固まってしまった俺の手をケヴィンが引っ張り、下がらせながら見解を述べる。
確かに、よく見ると川のような規則的な水の流れがない。
今は水面が沸騰したかのように泡立ち始めていた。