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第二十一話 魔女の森

鬱蒼と生い茂ったツタを払いのけ、足を大きく上げる。

あれから魔女の森へ到着した俺とケヴィンは、つい先日まで使っていた拠点で一旦体制を整えると、早速森の探索へと繰り出していた。


「本当にここなのか?」


ケヴィンが疑問を口にする。

俺の修行場所とはいえ、父のいう泉というのは一度も見たことがなかった。

しかし、ゲーム時代にもこの森には散々お世話になった。


マーリンに最初連れられてきたときは気づかなかったのだが、この場所、物語終盤になると入れるようになる高難易度ダンジョンなのだ。

名前は『風の霊園』というところで、高位精霊が住み着いた影響で、魔物のレベルが異常に高くなっているダンジョンなのだ。


ということで、ケヴィンのいう『妖精王の雫』というのはここに住み着いている高位精霊が関係しているのではないかという俺の予想に従って動いているのだ。


「そうだね。ここで修行してる時、師匠に絶対近づくなって言われてた場所があるから、そこが一番怪しいと思うんだ」


嘘だ。

ほぼほぼ確定で分かっている。

ただ、ゲームの時と名前が変わっているので確証が持てないだけで、それらしきアイテムには心当たりがある。


不安要素があるとすれば、俺とケヴィンの強さだろう。

ゲーム時代であればレベルというわかりやすい指標があったのだが、それが現実となるとステータス画面など出るはずもなく、レベルの管理なども正確にはできない。


それを踏まえて考えてみると、『妖精王の雫』を取りに行くのはリスクが高すぎると普通は判断するだろうが……。


「あ、ハニーベアだ。任せて」

「お、おう」


修行ではお世話になった熊型の魔物だ。

脇にハチの巣を抱えているのでハニーベアだ。

こちらに気づいた熊さんは大事そうにハチの巣を抱えて立ち上がった。

気合の入った熊さんは咆哮をあげながら突っ込んできた。


大人3人分の大きさを誇る魔物の圧迫感はいつまでもなれない。

だけど、それがいい緊張感を生んでくれる。


「エアバースト!」


魔法名を口にしながら右手を突き上げる。

流石に地面に足をつけたままだと急所に届かないので、ジャンプもしている。


熊の下から潜るような形になったので、必然的に顎を撃ち抜いた。


見た目は超シンプルな魔法。

しかし……。


「お、おい!」


ケヴィンの驚いたような声が聞こえたと同時に、顎を撃ち抜かれて硬直していた熊の巨体が地面に沈む。


「今のは本当に第四階級魔法のエアバーストなのか? 威力と発動するまでの時間が異様に短かったようだが……」


最初は混乱するような声音だったケヴィンも、言葉を紡ぐ度に冷静に分析できるようになったようだ。

最後の方は、理解できないというより、純粋な疑問といった感じだった。


「うん。この森で生きていくには最低でも第四階級を一拍の間に撃てないとダメだって師匠が言ってた」

「マーリン様が……」


最低でも第四階級というのは結構適当な基準だ。

これはマーリンが言っていただけであって、実際俺が森に放り込まれたときは第一階級の魔法すら使えない状態だったのだ。


それでもなんとか生き抜けたので、必ず第四階級魔法が必須ではないといえるはずだ。


「お、これは結構デカい巣だな」


熊の死体が抱えていたハチの巣を引きずり出す。

まだ取り立てのようで、ハチミツや、蜂の子がほとんど残っていた。


「これは立派だな。こんな大きな巣は見たことないぞ。これだけで結構な値段になるんじゃないか?」


ケヴィンの目がお金マークになっている。

甘味は貴重だ。

それもこの世界の蜂は魔物なので、簡単に巣を取れるものではない。


「お父さんいいこと教えてあげる。ハチミツを食べると元気が出るっていうのは有名だよね?」


ハチミツは滋養強壮に良いとこの世界では認識されている。

実際ゲームの時は体力回復アイテムの一つだった。


「じゃあこれはどんな効果があると思う?」


無数の穴の一つから白いものを引っ張り出し、ケヴィンに見せる。


「ちょっ! 見えてるから! そんな近づけないでくれ!」

「あれ? もしかして虫苦手だったの?」

「うっ」


ケヴィンが恥ずかしそうに顔を赤くする。

父の恥じらった姿など見ても嬉しくないが、意外な一面を知ってしまった。


「へぇ。冒険してたら虫型の魔物とか戦うんじゃないの?」

「男爵領のダンジョンは出ないんだよ」


なるほど。

つまり、虫が弱点ということか。

それが大きかろうが小さかろうが、苦手なものは苦手なのだろう。


「意外だなぁ。まあいいや、さっきの質問に答えてくれる?」

「”蜂の子”を食べると得られる効果か? ハチミツと一緒で元気が出る程度じゃないのか?」

「ぶぶー! 正解は、『魔力が回復する』でした!」

「へ、へぇ。それはマーリン様から教えて貰ったのか?」

「まあ、そんなところ。それより反応薄くない? これ食べ続けたら永遠に魔法撃てるんだよ?」


蜂の子の効果にケヴィンはそんなに驚いた様子はなかった。

その反応が面白くなったので、少し粘ってみる。


「とは言ってもな。永遠に食べ続けるなんて不可能だろ? それに、回復の効果は微量なんじゃないか? 魔法を主体に戦う奴でそれを持っている奴なんて見たこと無いぞ?」


ケヴィンの見解は正しい。

蜂の子の魔力回復の効果は微量なので、道すがら拾えたら食べるかな程度だ。

とはいえ、貴重なたんぱく源でもあるので回収をしておく。


「まあそうなんだけどさ。あ、もう少し進んだらもう知らない場所に出るから気を付けて」


最難関ダンジョンとはいえ今はまだ本編が始まってすらいない時期だ。

恐らくこれから魔物たちは強くなっていくのだろう、でなければ俺が最初にこの森に入ったときに死んでいたはずだから。

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