第二十話 束の間
「ここだ」
「ここ?」
ケヴィンが地図を広げ、一つの森を指さす。
指し示された場所にものすごく見覚えがあるのだが、ケヴィンが名前を呼ぶことで確信に変わる。
「妖精王の雫は、魔女の森にある泉で手に入ると言われている」
マーリンと共に三年間修業を積み重ねた場所だ。
実はこの森、マーリンの所有物で全ての人に開放しているそうなのだ。
しかし、俺が修行をしている間この森を訪れる人はほとんどいなかった。
迷い込んだ人がいたが、別にこの森でどうのこうのっていう話ではなかったので、保護して帰したぐらいだ。
むしろ、超高難易度ダンジョンとして有名らしく、昔は挑戦者もいたらしいが、現在に至るまで攻略されていないことからわかる通り、無謀な挑戦として名を馳せているようだ。
かくいう俺も攻略というほどのことはしておらず、自分の生き残れる範囲でサバイバルを繰り広げたに過ぎない。
なので、今回の目的地が魔女の森ということで少し拍子抜けしてしまった。
妖精王の雫というのは聞いたことがないので、俺の踏み入ったことないところまで今回は行くことが予想される。
ゲーム時代でも妖精王の雫はなかったので、そこは不安要素でもある。
「お父さん。この前話したと思うけど、俺、マーリンの弟子なんだ」
「聞いたぞ」
「それでね、魔女の森ってさ、俺が修行したっていう場所なんだ」
「……薄々思っていたが、やはり。大魔導士マーリンの住む森として有名だからな。なら案内は頼めるか?」
母、レイネシアが心配そうな顔でこちらを見ているが、この流れなら俺が一緒に行くことは止められないだろう。
「うん。ただ、妖精王とか、泉とかはわからないから途中までしか安全は保障できないよ?」
自分のテリトリーと呼べる場所の安全は保障できる。
なんなら生活していた小屋などはそのまま残っているので泊りで攻略ができる。
移動時間も考えたら一泊程度がせいぜいだろうが。
「それで十分だ。レイネシア、いいね?」
「ええ。でも危険だと思ったら絶対引き返してね」
「わかってる。アルがいるんだ。絶対無理はしないよ」
大方の方針は決まった。
ネイアとレイネシアそして二年前に産まれた弟、イアンが男爵領に残ることになった。
……いつの間にか弟が産まれていた。
まあ、それもそのはず、俺が家出をする頃には身籠っていたのだから一年も待たずに出産をしていたはずだ。
なので、新しい家族と仲良くしたいのだが……。
「イアン、お兄ちゃんにいってらっしゃいしましょうね」
「いやぁ」
そろそろ三歳になるそうだが、初めて見るお兄ちゃんを受け入れられないのだろう。
あからさまに拒否反応を示していた。
母親にべったりである。
「イアン。バイバイ」
俺は目線を合わせるように膝を折る。
それでもイアンはこちらを見ようとしない。
ここで無理やりしても可哀想なので、残念だが諦めることにした。
「それじゃあ早速出発するぞ」
今は少しでも時間が惜しい。
ケヴィンは冒険の準備が元々できていたらしく、五分程度で家から出てきた。
俺も魔女の森に拠点があるおかげで、王都までの旅路分の準備ですんだ。
魔女の森まで馬車で三日、ケヴィンなら二日と少し程度で着くそうだ。
流石冒険者といったところか。
馬車よりも早く着くということは、駆け足で全ての道のりを進めるということだ。
「行ってくる」
ケヴィンと俺は二人で家族に別れを告げる。
家に帰ってきて一日しか経っていないのだが、またすぐ家を出ることになってしまった。
三年ぶりの再会を喜ぶ暇もないのだが……俺とケヴィンが歩き出した後ろでイアンが小さく手を振っているのが見えてしまい、つい頬が緩んでしまった。
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