第十四話 魔法を使えますか?
草木の中から一匹のうさぎが飛び出す。
そのうさぎの動きに合わせて草木が大きく跳ねた。
しかしそのうさぎが地面に着地することはなく、その体には矢が刺さって木に縫いつけられてしまった。
「よし! 今日の夕飯確保!」
俺は今弓矢を使って狩りをしていた。
マーリンとの修業はどうなったのかって?
聞いて驚かないで欲しいんだが、この弓矢を射っていることが魔法の修行なんだ。
俺の想像していた魔法の修行というのは、詠唱をしたり、魔力を感じ取れなど無茶なことを言われたり、いきなり無詠唱魔法ができて驚かれたりとかするものだと思ってたんだ。
まあ、魔力を感じ取れといわれれば日ごろから感じ取っていますとドヤ顔できるのだが、そのようなことは一切言われなかった。
むしろ魔法を使わないで、一人森の中生き残れと放り出されたぐらいだ……。
鬼畜過ぎないですか!
俺まだ五歳なんですけど!
師匠ことマーリンは俺に手をかざし魔力を放出すると何を思ったのか弓を渡してきた。
そして弓の弦を引いてみろと言われたので引いてみたら、矢が射出されたのだ。
驚いたが俺の疑問に答える前に森に引きずられてきてしまった。
そして森の真ん中まで連れてこられてここで一か月生き延びろと指令を受けてしまった。
マーリンは無事生き残ったら魔法の訓練を始めるとか言い出したのだが……まさか厄介払い!
この世界の住人が魔法を使えるようになるために森でサバイバル生活をしなければならない等聞いたこともない。
俺の知っている情報では十歳になったときに教会の水晶を使って魔力の有無を調べ、そこで適正魔法を授かるという設定のはずだ。
こんな練習なんの意味もない……といえれば抗議もできただろうが、残念ながらこの訓練の有用性が分かってしまっていた。
最初に引かされた弓は、引いた者の魔力を強制的に引き出し、魔力の弓として射出させてしまうという魔道具だったのだ。
その弓を使ってのサバイバル生活は、己の魔力量を格段に引き上げてくれていることがわかる。
さらにいうならば、矢になった魔力をくるくる回すイメージを持たせたら成功してしまった。
魔力の弓ということもあって子供の力でも放てるのだが、回転を加えると同じ魔力量でも威力が上がった。
最近では、堅い外皮を持った魔物も貫通できるほどになったのだが……。
「これ、魔法のようで魔法じゃないよね!」
そう、これはただただ魔力を放出しているに過ぎない。
燃え滾るような炎や、全てを飲み込む水流などとは程遠い代物なのだ。
「ゲームではもっとこう、広範囲に派手な魔法が展開されてたんだけどなぁ。騙されたかな?」
森でのサバイバル生活はただの厄介払いなのではとここ最近思うようになってきた。
今日はマーリンとの約束通り一か月が立つ日なので、もし明日までに何もなかったら自分からこの森を出て、マーリンを襲撃してやろうと思っている。
朝の運動がてらの狩りも終わったので、近くの湖で汗を洗い流しているとこちらに近づいてくる人物が目に入った。
「おやおや、本当に一か月生き残っちまったのかい」
「あんた、俺が死ぬと思って森に置いていったのか? まあ、約束を守って来てくれたのは良かったけど」
「才能のないやつにいくら教えても無駄だからねぇ。私に弟子入りを申し込んでくる輩は言っても分からない奴しかいないから、試しているのさ」
マーリンは確か隠れて暮らしているはずなので、弟子入り志願者が来るとは思えないのだが、それでもマーリンの実力に気づいてしまう輩がいるのだろう。
作中で最強キャラとして描かれるマーリン。しかし、よく行方をくらますので、物語への関与は極端に少ない。
「さあ、そこの弓を取りな。最終試験といこうじゃないか」
「今から朝食の予定だったんだけどな」
俺の知っている中で間違いなく最強なキャラとの戦闘……本編スタートすらしていない時期に戦う相手じゃない!
幸い訓練……っていう目じゃないぞあれ。
五分前に人を殺してきましたと言われても、驚かないような鋭い視線をこっちに送ってきている。
まあ、ここで引くことは出来ないんだけどな。
ネイルの命がかかっているのだ。
わが妹が今も魔力痣で苦しんでいることを考えると、一刻も早く魔法への理解力を高めなければならない。
「いい顔をしているじゃないか。虐め甲斐がありそうだ」
マーリンの得意魔法は幻覚だ。
幻影魔法と呼ばれるそれはマーリン固有のものとなっており、他キャラが習得することは出来ない。
幻影を本気で駆使されればマーリンの姿を認識することは不可能になり、負けが確定する。
幻覚なら実態がないから負けないだろうと言うやつがいるなら、その考えは今すぐ捨てたほうがよい。
マーリンが”得意”という魔法が幻影なだけであって、他属性の魔法もほとんど使える天才なのだ。
そんな最強キャラにどうやって勝つかって?
そんなもの……気合いに決まっている!
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