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第十三話 作り話


 大きな鉄門が開きオリアトーレ邸への出入りが可能な状態となる。


 結局俺はメリエールお嬢様の護衛を断った。

 もちろん男爵家という身分がバレてはいけないということが一番の理由だが、やはり当初の目的を達成するには伯爵家の護衛というのは邪魔にしかならなかったのだ。


 しかしオリアトーレ家には大変恩義を感じている。

 身元も不確かな浮浪児を王都でも困らないように色々と便宜を図ってくれたのだ。

 冒険者登録に年齢制限はないが流石に五歳ともなるとそもそも取り合ってくれないそうだが、そこは伯爵様の紹介で事なきを得る。


 それによって発行された身分証が王都への出入りを自由してくれるし、仕事なども就きやすくなる。

 とはいっても見ず知らずの五歳児を雇ってくれるところなど無いはずなので、ここは冒険者一択である。


 そして本題の魔法の師匠探しなのだが……。


「こんなボロボロだったっけ?」


 心当たりの人物はまだ王都に住んでいるはずでその住居を訪ねようとしたのだが、その建物はゲーム時代の時とは異なった外観をしていた。


(外観が違うっていうより、これは塗り替えられてる?)


 師匠候補が住んでいる家は石造りの立派なもののはずだが、その外壁はペンキのようなもので汚されていた。


「落書き……虐められてる?」


 よく見ると文字のようなものもあり罵詈雑言を書いているようだ。


「君、私の家が面白いのはわかるがここは危険だ早く離れなさい」


 不意に後ろから声をかけられ体がビクリと反応する。


「ほら、家まで送ってあげるから」


 声の方へ振り返るといかにもというマントと帽子を被った女性が立っていた。


「マーリンさんですか?」


 俺の問いかけに女性は目を細めた。

 そう、この女性こそ俺の探していた師匠候補である大魔導士マーリンである。


「君、何故私の名を? 帝国の回し者……ではないか流石に」


 色々と思うところはあるようだが目の前の五歳児に困惑しているようだ。


「帝国ですか? 僕はフリックという方からマーリンさんを探してほしいと言われて来たんです」

「師匠が!」


 フリックとはマーリンの師匠である。

 現在は帝国に潜伏して暮らしているが、王国と帝国の戦争の際にマーリンへ手紙を残して亡くなってしまうのだ。

 今回はその手紙イベントではないが師匠候補の師匠を大いに利用させてもらう。


「これを渡して欲しいと」

「これは! 月光草!」


 マーリンは俺の差し出した袋の中身を見て驚きのあまり目を大きく開いたまま固まってしまった。

 その袋の中には大量の月光草が詰められていた。


「取りあえず中へ入りなさい。紅茶をだしてあげよう」


 話をする取っ掛かりとしては十分だったようだ。

 まあ月光草がカギになることは分かっていたので後は俺に魔法を教えてくれるよう交渉をするだけだ。


 扉をくぐり中へ入ると俺は言葉を失ってしまった。


「ちょっと散らかっているが問題はないだろ? そこに腰かけたまえよ」


 まるで嵐でも通り過ぎたかのような散らかりようだ。

 これが本や小物が片付けられていないだけなら何も気にすることはなかった。

 だが椅子やテーブルでさえも無造作に投げ捨てられたような状態だったのだ。


「お! どうやら紅茶は無事なようだな。テーブルも壊れてないみたいだ……椅子は足が折れてるねぇ」


 マーリンの現状を確認する声音はまるで問題がないようなものだった。

 むしろこの程度で済んだとさえ言い始めていた。


「酷い……誰がこんなこと」

「……坊やが気にすることじゃないさ。それよりもその月光草をよく見せてくれるかい?」

「はい」


 マーリンは紅茶を入れるためにやかんで水を熱し始めた。

 そして俺から袋を受け取ると月光草を空いている床に並べ始めた。


「そうだねぇ。傷んでいるものもあるけど使えなくはないさね。これを私に渡すように言われたのかい?」


 俺はフリックとの作り話をマーリンに聞かせた。

 村に滞在していたフリックは弟子を探す旅をしていたが途中で故郷に帰らなくてはいけなくなったらしい。

 弟子が王都にいるはずということで進んできたのだが、このままでは困った事態になってしまうと。


 そこで俺の両親と共に王都へのお使いを頼んできた。

 それが月光草の配達である。

 そして俺はそこで魔法をフリックに教えてくれないかと頼んでいたのだが、もちろん断られる。

 

 だがこの月光草を届けたら弟子のマーリンが教えてくれると送り出してくれたのだと。


「なんとも面倒な」


(この人面倒って言った! いや、せめて頼んできてる本人がいないところで言ってよ!)


 マーリンは貴賤のない人なのか堂々と面倒ぐさがっている。

 仮にも師匠からの言伝なのにだ。


「まあ、でもやるしかなさそうだね。いいだろう魔法を教えてやる」


 この人は十歳からしか魔法を習えないというところはどうやら気にしていないようだ。

 そのおかげで弟子入りできそうなので正直とてもありがたかった。

お読みいただきありがとうございます!

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