第十二話 伯爵家の夕食
カチャリと高い音が鳴り俺は顔が熱くなるのを感じる。
(恥ずかしい! めっちゃ恥ずかしいんですけど! なんで皆食べるとき全く音がならないんですか! 普通ナイフとかフォークが皿に当たる音ぐらいするでしょ!)
伯爵家のテーブルマナー恐るべしというべきか、一応平民ということでマナー面はできない前提でいるのだが一人だけ音を鳴らしてしまうのが非常に気まずい。
というかメイドも歩くとき無音で体の軸が一切ぶれないとか……これが上流階級の世界なのか!
「アインさんは王都でどうするのですか?」
メリエール様が喋りかけてきた。
というか先ほどから食事をしているにも関わらず一切会話が途切れない。
もちろん口に食べ物を含んだ状態で喋るということはなく、ナイフとフォークさえ握っていない。
ならば食事は遅々として進んでいないかと思ってしまうが、メリエール様のお皿の上には俺よりも食べ進められたお肉が乗っていた。
「薬師の知り合いを頼ろうかと思っています」
村が襲われひとり身になった経緯は話してある。
まだ幼い子供ということもありこれからどうするのか気になるのだろう。
「そうですか……お父様あのお話をしてもよろしいでしょうか?」
オリアトーレ伯爵様が娘の言葉に頷く。
「アイン様、身寄りのない状態だということはお聞きしました」
一応薬師の知り合いはいるという設定のはずだが、両親がいないということを言いたいのだろう。
「これはお父様と相談して決めたことなのですが、アイン様さえよければ私の護衛になりませんか?」
護衛……伯爵令嬢様の……子供の俺が? 何故?
「君にとって思い出したくはない話題だろうがアイン、君は十八名の盗賊を倒した」
実力を高く買ってくれたのか。
あの時メリエール様を守っていた護衛達は盗賊を十名ほど倒していたようなので、俺が倒した数は残りの十八名ということらしい。
だが俺はまだまだ小さい子供だ。
それに素行などもまだ分からないような男を自分の大事な娘の護衛にしようと考えるだろうか?
それともまだ幼いから教育でどうにかなると思っているのだろうか。
「その才能は紛れもなく一級品だ。オリアトーレ伯爵家なら君の才能を十分に育て上げられると思っている。どうだい? 将来的にも娘の護衛は悪い話ではないと思うが?」
確かに悪い話ではない。
身元の保証を伯爵家がしてくれるというのだからこれからの王都生活もスムーズにできる。
だが本当の俺は男爵家の息子という肩書がある。
それゆえ伯爵家にお世話になるわけにはいかなかった。
(バレた時オリアトーレ家を騙した罪とかいって裁かれたらたまったもんじゃないしな)
「アイン、君は加護もちではないかね」
こちらに思考する隙を与えないためかすぐに質問を挟んできた。
「加護ですか?」
「加護は聞いたことがないかね? 加護とは神様から与えられた恩恵だ。例えば魔法が一般の人より多く使えるなど特別な能力のことを言うのだよ」
加護……。
ゲーム時代にそんなものはなかった。
ただスキルに『全属性魔法適正』などの似たようなものはあった。
もしかしたら加護というのはスキルなのかもしれない。
「その加護を確認する方法はありますか?」
ステータスが見れなくなっている現状、スキルを確認する方法が見つかればそれをヒントにステータスも見れるようになるかもしれない。
「加護は教会にある神水晶で持っているか判別できるが、どのような加護を持っているかは自分で実際に使わないとわからないな」
神水晶を使えば加護もちですよと教えてくれはするが、どんな効果なのかは分からないということか。
やはりゲーム時代のように文字で確認する方法はないのだろう。
「加護の記録のようなものはありますか?」
これは確認できなくても問題はないが、加護の種類を見ることでゲーム時代との差異を確認できるはずだ。
一番怖いのはゲーム時代の魔法やスキルの知識が全く使えないということだが……。
「王立図書館に加護についての本があるぞ。だがアインの加護は私が知っているもののはずだ」
「伯爵様の知っている加護ですか?」
「ああ、鬼神回復だ」
「鬼神回復……とはなんですか?」
鬼神回復など聞いたことがない。
これはゲーム知識が通用しない可能性が出てきた。
「アインは怪我を負っていたがその傷が癒えるのが早かったのだよ」
「傷が癒えるのが早かったんですか? 一瞬で傷が治るとかではなく」
「そうだな。流石に一瞬で傷が治る加護など私は聞いたことがないな」
色々と情報が入ってきて困惑してしまう。
恐らく俺のスキルは『ゴッドフォール』である。
盗賊と戦った時を思い出すとわかるのだが、俺はあの時普段よりも身体能力が飛躍的に向上していた。
そして、意識を失っていて気づかなかったがオリアトーレ伯爵がいうには『自動回復』が発生していたようだ。
これは『ゴッドフォール』の特徴的な能力である。
他にも魔力強化、全耐性強化、防御力強化、などまさにその身に神を降ろしたかのような効果をてんこ盛りのスキルである。
「というわけだアイン。もし王都にいるその薬師の知り合いというところに行くなら断ってもらっても問題はない。君の意思を尊重しよう。だが、伯爵家としては大事な娘を助けてもらったんだ。それなりのお礼はさせて貰うよ」
どうやらお礼は強制的されるものらしい。
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