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残酷で、ただ残酷なこの世界  作者: 海鳴ねこ
二章ヒーロー
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二節フリバー・ライヘルド3



 思わず声がした後ろへとフリバーは振り返る。


 いつの間にか、フリバーの後ろに少女が佇んでいる。

 またか、と思う。

 だが、先程の“死の少女”じゃない。

 お団子頭の眩いほどのブロンドに、くりくりとした宝石のような空色の瞳。

 小麦色の肌をした10歳ほどの愛らしい少女だ。


 そんな少女を見て、フリバーは思い切り眉を顰めた。

 “死”と違って見た瞬間にフリバーは彼女の正体に気が付いたからだ。

 ――……この子は、”神様”だと。


 いやだって。

 何処の世界に身体が眩いほどに発光し、黄金色の翼が背中から四枚も生えている少女がいる。

 彼女はどこからどう見ても”神様”だ。


 そんなフリバーを前に気にする様子もなく、少女(アプロ)は満面の笑みを浮かべた。


 「――そこはぼったくるから、トオいけどのセトのマチのシチヤさんにいったホウがいいよ。イチバンいいのは“オカネのカミサマ“がケイエイしているシチヤさんだけど、セトのトコロならどこでもダイジョウブ」

 酷く聞き取りにくい喋りで、ニコニコと少女は言った。

 この少女が何の神かは知らない。

 多分気まぐれか何かで声を掛けてくれたのだろうが、今の神許さないモードのフリバーからすれば迷惑な話だ。


 第一いま彼女が言ったセトの町。

 その場所はフリバーも把握はしているが、此処から遠いと言うレベルじゃない。

 「セトの遊戯町」そう記された地域は、『“街”』の端にあるエルシューの地域と完全真逆の位置に存在しているのだから。

 第二に“お金の神”そんなものに頼りたくない。

 それでも、目の前の少女に当たりが強くならないように、出来るだけ冷静に、口を開く。


 「――その助言には悪いが。今はそんなに遠い所まではいけない。本当に今すぐに金が必要なんでな。手ひどい目に合うのかも知れないが、一回だけだ。我慢する」

 「え、でも、10000ルシューのものを100ルシューでカイとるとこだよ?」

 フリバーの拒絶の言葉に少女はキョトンと発した。


 ――……いや、それはぼったくり過ぎではないか?

 流石にフリバーもこの言葉は無視することは出来なかった。

 単価は分からないが、多分、絶対百倍ぐらい違う。


 フリバーは小さくため息を付いて、身体を少女へと向ける。

 改めて少女と対峙することになり、まじまじと見るがやはりどう見ても人間じゃない。

 少女は気にすることもなく、ニコニコ微笑んで、突然路地から出る勢いで駆けだした。

フリバーを追い越して、路地から出る一歩手前で、止まったかと思いきや、白くて細い指を差す。

指し示す場所には、フリバーが目覚めた空き家があった。


 「キョウだけはあそこにトまるといいよ。シ…タナトスもそういってくれたんでしょう?ネごこちはワルいけど、いちばんおちついてヤスめるよ?」

 どうやら、気を使ってくれたようだ。

 その表情から、裏表のない素直な性格の少女と判断し。


 「…いや、腹が減ってるんだよ。何か食べ物が欲しい…あ、いや違う。忘れてくれ」

 思わず、フリバーは空腹を口にする。

 しかしそれは直ぐに撤回した。まるで催促しているような気分になったからだ。

 素直な少女と言っても、少女はどう考えても“神”であったから。

 「神」に催促するなんて、恐ろしい事、絶対にしたくない。後で、見返りに何を要求されるか。考えたくも無い。


 だが撤回しても、もう遅かった目の前の少女は相変わらずニコニコと微笑んでいる。

「そうなの?そうなの?」と呟きながら、きょろきょろ辺りを見渡して、「じゃあ」と笑った。


 「アプロがタスけてあげる」

 「いらない」

 速攻。

「神」は、勝手に人間を助けたその後。大体とんでもない要求を見返りとして望んでくるのだから。

 実際に経験したことがあるからこそ断ってやった。

 目の前の少女は小さく首をかしげる。「うーん」「うーん」と腕組して考えて、またニコリ。


 「じゃあ、こうイウね。アプロにタスけさせて。アプロがカッテにアナタをタスけるの」

 「――は?」

 思いがけない言葉にフリバーは思わず声を漏らす。

 少女はそんなフリバーなんて気にしてないのか、大きな翼をはためかせてふわりと宙に浮かぶと通りに出て行ってしまった。止める暇なんて無かった。

 暫くして何やら人の騒ぎ立てた声が聞こえる。


 ――……ソレイユさま、どうしてここに、ああどうぞどうぞ、お好きなだけ。


 そんな声が彼方此方から聞こえる。

 それがしばらく続いたと思えば、突然通りが異常なほどに輝いて、再び羽音が頭上から一つ。

 フリバーの目の前には沢山の食料を持った少女が舞い降りて来た。


 「はいどーぞ」――と。

 相変わらずのニコニコ顔で。

 手にしていた食料をフリバーに押し渡すのだ。


 「――じゃあね」

 「ま、まて!なんで!」

 食料を押し付けて押し付けるだけ、少女は用が済んだと言わんばかりに、また宙に浮いた。

 この世界の神様は自分の用が済めばさっさと帰る性分なのか。

 思わず飛び立つ少女に声を掛ける。少女は相変わらずニコニコと笑いながらフリバーを見下ろす。


 「――キにしないで。アプロ、オネガイされたからタスけただけ。アナタのことタスけてアゲてって」

 フリバーの問いかけを悟ったように少女はそう口にした。

 これにはフリバーは更に疑問を浮かべるしかできない。

 ――つまり、この神は誰かにお願いされたから行き成り自分の前に現れて手を貸したという訳か。

 

 「なんだそれ?誰かに俺を助けるようにお願いされた?誰にだ。誰がそうお前に願った。見返りは?」

 「――??」

 フリバーの言葉に少女は首をかしげる。

 愛らしい顔に酷く困った表情を浮かべて小さく唸る。

 

 「さあ。ダレかはワカンないの。コエがキコえただけだから。ミカエりとかないよ。アプロそういうの、いらナイ」

 「はぁ?」

 更に意味が分からなくなる。誰に頼まれたかも分からず、見返りも求めないままに突然にフリバーを助けた。それが神に、この少女に何の意味がある。少なくともフリバーの暮らす世界の神ではありえない事だ。

 少女はニコニコ笑う。


 「でもね。でもね。――たぶんアナタのチカラがうらやましかったんじゃないかな?カミサマからモラったんだよね?」

 「――!」

 ニコニコ笑いながら唐突にまるで見透かしたように少女はフリバーに空色の視線を向けた。

 思わず固まるフリバーに”少女神”は正に女神の笑みを名一杯浮かべる。


 「…もしそのコにアウことがデキたら、ちゃんとアリガトウいっておこうね」

 最後にそう言い残して、光り輝く”少女神”は空高く消えていった。


 再び一人となったフリバーは、呆然と立ち尽くしたまま。

 押し渡された食料に視線を移して、小さく、小さく舌打ちを繰り出す。

 ここの世界の”神様”は、やはり言いたいことだけ言い残して、やりたいことだけやれば用が済んだと帰っていくらしい。こちらの事は気にしているようで気にしてない。――全く持って神らしい。


 それに、こちらを見透かすあの目は正に「神様」だ。

 

 それでも、貰ったものは貰ったものだ。押し付けられたのであれば返す手段が無い。


 「…‴盗聴解除(レコード・オフ)‴」


 フリバーは予め、こっそりと張って置いた魔法を解除する。

 それは先程のアプロと言う少女が現れた時に即座に張り巡らしておいた一応の魔法だ。

 効果的には『録音』

 あの“少女”が神だと気が付いた瞬間に思わず張り巡らせた魔法だ。


 確認すれば、今までの会話が全て録音されている。

 コレはフリバーの神様と対面するときの癖であったのだが、功を成したようだ。これで証拠になる。


 もし、彼女(アプロ)と再会した時の証拠。

もし“彼女”が今の見返りを要求してきた時の為の切り札。

 これがあれば、真面な(良い)神であれば文句は言ってこないから。


 ――……なんにせよ、あの神は「見返りは要らない」と断言した。

で、あるなら、証拠も手にあるのなら、この小さな恩は有難く貰っておく事にする。


 そんな食料を抱えて、次は自身が目覚めた空き家に視線を移す。

 神様の助言なんぞに従うのは腹立たしいが、腹立たしいのだが…

 此処は受けた()()も大人しく聞いておくべきだ。

 とりあえず今日の所だけは――。

 フリバーはそう判断したのである。


 だからこそ、大きくため息を付いて明るい街中へと出る。向かうのは勿論あの空き家だ。

 現在お金も無ければ食料もコレだけしか無いのだから、休める時は確実に休める場所で休むべきだと。

 空き家の扉に手を伸ばして

「嫌コレは神様からの助言じゃない。一人の少女からの助言だ」

なんて悪あがきにも似た屁理屈を浮かべ。

 僅かに苦笑を浮かべながら扉を開けるのであった。






 『彼の産まれ持った能力は、彼は何より嫌うのです』

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