やっぱりおかしい烏真家
その突然の出来事に、理解が追い付かない。
まだ夢でも見ているのかとも思ったけど、体を伝う温かさはそれを否定した。
つまり、目の前で立っている人は……本物の人で間違いない。
えっ? あれ? つまり……
ようやく理解が追い付くと、俺の頭は一気に回転していく。そして、とんでもない事をしているという回答を弾き出すのにかかった時間は一瞬だった。
長く細い足にスラっとしたスタイル。更には丸見えになっている程良い大きさの胸に大事な部分。
…………ヤッバッ!!!
「ギャー! すいませんすいません!」
その途端、俺は顔を手で覆い、反対方向へと顔を向けた。
その理由なんて誰でも分かる。不意打ちとはいえ、その裸の姿全てを見てしまった。
うおっ! 突然とはいえ、やっちまった!
その恥ずかしさと驚きで焦りに焦っている俺。しかしながら、当の本人の反応は意外なものだった。
「あぁ~ごめんごめん! こんなおばさんの身体見せちゃって」
おっ、おばさんだと? いやいや正直ハリツヤ結構ヤバかったっす!
「そんな事ないです! けどすいません、突然とはいえ見てしまって」
「ダイジョブダイジョブ。誰も居ないと思ってお風呂来た、私が悪いんだからさぁ。はははっ」
見られた事になんの恥じらいも感じさせない女性。その姿は、明るいとしか言いようがない。ただ、その明るさは男子高校生には天敵となる。
「けど、流石に全裸はマズいか。体洗うのに邪魔だよね? 湯船入って目立たなくするからさ? ちょい待ち…………おっけ! 湯気もあるし、これならこっち見て話しできでしょ?」
「いやその……」
いやいや、全裸だって分かってるのにおめおめと見れないでしょうよ……
「君、一華が連れてきた友達の……姉弟だろ? 丁度良いや。一華の叔母さんとして、お礼も言いたいし色々と話も聞きたいんだよね? こんな格好で申し訳ないけど」
烏真さんの叔母さん? って事は、この人一月さんの妹の1人なのか?
その言葉に俺は思わず浴槽の方へと視線を向け、反射的に質問をしていた。
「もっ、もしかして一月さんの妹さんですか!?」
「おっ、その驚いた反応。そうそう妹だよ?」
「まっ、マジですか!?」
こうして、マジマジとその顔を見つめると……何処となく一月さんに似ている。パッチリした目に、整った顔立ち。ただ、一月さんのイメージをおっとり優しい母親とすると、親戚のお姉さんの様な雰囲気を感じる。ショートカットというのもそれに拍車をかけているのかもしれない。それに、
「まじよ~。けど似てないよねぇ。ごめんごめん、お淑やかじゃなくてさ? てへっ」
その性格は、まるで違っている。
確かにその雰囲気と性格は……違うけど、その整った容姿は似てるぞ? あれ? ちょい待ち。俺に水着を勧めたのは一月さんだよな? そして妹さんが乱入? もしや仕組まれていたのか!?
「あの……あっ、そういえば名前言ってなかったですね。俺は天女目空と言います」
「天女目……」
ん? 名字に反応した?
「どうかしましたか?」
「いんや~随分イケメンだと思ってね? そそっ、私の名前は三月。三の月と書いて、烏真三月ってんだ。よろしくねぇ」
三月さんか。一月さんの妹って……あっ!
『多いって、何人くらいなんですか?』
『えっと、名前は分かりやすくて、私一月から末っ子は七月なつきまで……計7人妹弟ね?』
一月さん言ってたな。つまり三という事は……三女?
「あの三月さん? もしかしてなんですけど、三月さんて三女だったりします?」
「おっ、正解! まぁ一月姉の名前から、次に私の名前聞いたら察するよねぇ」
うおっ、まさかの当たり。それにしても、一月さんをそういう呼び方するって事は、仲は良いんだよな? となれば、ますますさっきの疑惑が……
「まぁ何はともあれ、空くんが水着着てて良かったよ。流石に男のシンボルおばさんに見られるのはゲンナリするだろうしね。何も言わずに帰って来て、何も言わずにお風呂来ちゃったからなぁ……一月姉に声掛ければ良かったよ」
あれ? 消えた。
そう言いつつ、手を上に伸ばしてくつろぐ三月さん。なんというか、そのサッパリとした性格の前に、徐々に押されていくような気がした。
「あっ、体洗ったんなら一緒に入ろうよ」
「いやでも……」
「目上のお願いには応えておくべきだよぉ? きっと良いことあると思う」
湯船って……いや、湯気のおかげで良い具合に見えないけどさ? 良いのか? 相手は当たり前だけど全裸だぞ?
「まっ、私の目の保養にもなるしね? おいでおいで」
烏真さんの叔母さん。一月さんの妹さんのお願いとなると……無下には出来ないな。
「じゃっ、じゃあ……」
俺はゆっくりと立ち上がると、なるべく下を見ない様に歩みを進めた。
「おぉ~良い体してんねぇ」
なんて茶化されながらも、少し距離を取りながら湯船へと浸かる。
入ってしまった……
「そんじゃまっ、改めて……一華と友達になってくれてありがとうね?」
「そんな全然ですよ。それにお礼なら、美世ちゃんにお願いしますね? あっ、俺の妹で、烏真さんとは同級生なんです」
「なるほどなるほど。後で挨拶行かないと。けど、空くんも遊びに来てくれたでしょ? だからありがとう」
少し笑顔を見せながら、こちらを真っすぐ見る三月さん。正直、感謝の言葉をこれ程ストレートに言える人が居るのだろうか。それだけ、その視線は曇りが見当たらない。
なっ、なんだこの人。一月さんとは違う雰囲気だけど、一月さんと同じ上に立つべき人のオーラみたいなの感じるんですけど。
「烏真さんは良い子です。俺としても仲良くなれて嬉しいですよ」
「おっ、イケメンは言う事も格好良いねぇ。あっ、そうだ! 良かったらウチでバイトしない? 空くんのルックスだったら絶対いける気がする」
ウチ?
「あのですねぇ、俺なんて量産型の顔ですよ? 大体ウチって言われても、過酷な肉体労働は期待できませんよ?」
「あっ、そうだった! 最初に言っておかないとね? えっと、空くんはサンセットプロダクションって聞いた事ある?」
……サンセットプロダクション? 確か、所属してる人の多くが引退したスポーツ選手で、引退後にも活躍の場を! ってコンセプトの元に出来た芸能事務所だよな? メキメキ頭角を現してるし、聞いた事はある。もしかしてそこの社員さんなのかな?
「そりゃありますよ。実力派の芸能事務所ですよね? けど、だとしたら俺なんて下の下なんで無理ですよ」
「どうかなぁ~? 結構いい線行けると思うけど」
「この件に関しては三月さん、見る目が無いですよ~?」
「そうかなぁ? 結構自信あるんだけどなぁ……今までも結構社長らしく原石を発見してきたつもりなんだけど……」
ん? なんて?
「えっ?」
「ん? どうかした?」
「三月さん、今なんて言いました?」
「結構自信……」
「違います」
あれ? 聞き間違いか? けど確かに、さらっとヤバい二文字言ってなかったか? こうなれば直に聞くしかない。
「原石……」
「違いますっ! あぁもう、言ってませんでした? 社長として……とか」
「あぁ! それね? 言った言った」
かっ、軽っ! って、まてまてマジで? やっぱり? てか……
「社長なんですか!?」
「そんな驚かないでよぉ。雇われ社長みたいなもんだからさ?」
いやいや、とはいえ社長だぞ? 実質トップだぞ? 何だこの人! やっぱヤバい人じゃないか! というより、やっぱり烏真家の人達って皆ヤバいんじゃないのか?
「なっ、何言ってるんですか! 驚かない訳ないでしょ!」
「そう~? じゃあ念の為、改めて自己紹介しようか? すぅー」
「こんにちわ。サンセットプロダクションで社長をしてます。烏真三月と申します。以後お見知りおきを」
嘘だろ? 精悍な眼差しに、クールなイケメンボイス? これが表の顔だっていうのか? これこそ本当の烏真三月……
「なんちゃってねぇ~。とりま、社長やってる……いや、社長をやらされてる烏真三月だぞ? ニヤッ」
…………どっ、どっちなんだよ!!




