突撃お嬢様
学校の帰り道。俺は言いようのない疲労感に襲われていた。
身体的疲労ではない。どちらかと言えば精神的疲労だろうか?
いや、精神的疲労から来る身体的疲労……って、この際どっちでもいい。
ともかく、今の俺の状況は芳しくない。
男子に聞かれれば馬鹿にされるだろう。
女子に見られればドン引きされるだろう。
そうだ、俺は今……絶賛テントが張りっぱなしなのである。
鞄で何気なく隠してはいるものの、その苦しみは計り知れない。
くっ……まさかこんな事になるとは……
色々な疑問はあるだろう。なぜテントが張りっぱなしなのか。
その理由は一重に美由しか当てはまらない。
ある意味本性を現した美由は、俺に対してかなりナチュラルに積極的な行動をとるようになった。
別に家では問題ない。いや、厳密に言えばあるけど……問題はそこじゃない。ずばり学校でも、いつも以上にそういう行動が多くなった。
程良い話し方。程良いボディタッチ。程良く甘える。
そして誰も居ない屋上。
1度許してしまった以上、断れる事も出来ないんだけど……それ以上に、今までの知っている美由とは違う雰囲気に、俺自身が変に感じてしまっている。
その結果がこれだ。
とはいえ、男ならもっとも効果的な対処法を知っているはず。もちろん俺だって知ってはいる。
そう、この状況を生み出した原因は1つじゃない。
ずばり自由な空間と時間が……限りなくなくなった事だ。
シモな話をすると、俺が自家発電をしていたのは多くが夜。しかし現状……夜には2人のどちらか、または両方が居るんだ。つまり何もできない。かといって、眠気には勝てないからそのまま寝てしまうと、朝には元気なテント。
そのままシャワーでも浴びて、こっそり致そうとしても……あの2人、俺が起きたのをどうやって察知しているのか分からないけど、直ぐ洗面台まで来やがる。挙句の果てに、
『一緒に入っていい~?』
なんて言うもんだから、致すまもなく終了せざるを得ない。
そんな状況で、今に至る訳で……正直事態は想像以上だ。
ぐぅ……ヤバい。
次に希望を感じる時間はお風呂の時間。だけど自主練終わって帰ると、直ぐに2人が帰ってくるタイミング。
乱入されない様にそそくさと入ってたから……時間がなかった。
とはいえ、学校でさえこんな状況になるという事は、想像以上に我慢の限界が近い現れ。という事で、今日の俺は一目散に家に帰り、自主練を休み……お風呂に入ろうとしているっ!!
この時間帯なら、あの2人は部活中。美耶さんが乱入ってパターンも考えられるけど、2人よりは可能性は低い。
だから……帰るぞっ!
なんて、決意も新たに歩みを進める俺。気が付けばゴールはあと少し。
あと少しで念願の……そんな嬉しさがこみあげてきた時だった。
「あっ、天女目さんっ!」
不意に聞こえてきたのは……透き通るような声。
んっ? まさか、この声……
一抹の予感を感じながら視線を向けると、脇道の所に立っていたのは……
「烏真さん!?」
お清楚お嬢様だった。
なっ、なぜ? このタイミングの悪い時に!?
本来であれば、その澄み切った声と姿に癒されている所。ただ、今日にしてみれば、その登場はタイミングが悪い言いようがなかった。
しかも、今の俺にとって最悪な事がもう1つ。
「おっ、お久しぶりです!」
「そっ、そうだね。って、その恰好……」
「あっ、その……変ですか?」
いつもの制服姿ではなく、なんとテニスウェアに身を包んでいた事だった。
なっ、なんだと!? 白と水色のテニスウェアに、青のスコート!? これじゃあ制服の時より体のラインが丸見えじゃないか!
てか、腕細っ! 足長っ! 色白っ! 身長は桐生院先輩の方が高いけど、十分モデルとしても行けるんじゃないか?
胸も程よく……お尻のラインも……って!! 最悪なタイミングで、最悪な恰好で来たもんだね!? 烏真さんっ!
「そっ、そんな事ないよ! 似合ってる」
「よっ、良かった……あの、天女目さん? これから自主練ですよね? もしよかったらお付き合いさせてくれませんか?」
なっ、そういう事か! だから万全なテニス姿。しかもラケットも持参とは……ぐっ!
けど、今日は……今日は……
「えっと……」
「あっ……もしかして私、自主練習のお邪魔でしょうか」
うおっ! 止めてくれ! その顔で、その声でこっち見るのは反則だって!
しかもお嬢様泣かせてるって背徳感がすごいんですけど!?
しっ、仕方ない。ちょっと軽めに早めに終わらせれば大丈夫かな。うん。それなら烏真さんも悲しむことは無いだろう。
となればとりあえず、一旦着替えに行こう。
「何言ってるんだよ。嬉しいよ。じゃあとりあえず、家に行って着替えてもいいかな?」
「はっ、はいっ!」
俺はそう言いながら徐に歩き出すと、烏真さんはその横を静かについてくる。
正直、この距離感も良い匂いがしてなかなかヤバい。それにチラチラ視界に入るテニスウェアの格好も、とにかくマズい。何気ない会話をしつつ、視線を前にだな。
頭の中で、何度も冷静冷静という文字が駆け巡る中、俺はひたすら前を向いて歩き続けた。
よし、あと少しで家。
「あそこ家だからさ? 烏真さんも中入って待ってて?」
「えっ!? お邪魔しても良いんですか?」
「外で待たせるわけにはいかないだろ?」
「あっ、ありがとうございますっ!」
ふぅ、あと少し。集中切らすな……って、前からトラック来た。ここら辺で工事でもしてるのか? 最近よく通るんだよな。ここ歩道ないし……
「烏真さん。トラック来たから、端に寄って? 俺を盾にする感じでさ」
「えっ? あっ、はい!」
念の為だけど、これで大丈夫だな。
「ほら、女の子を車側に立たせるなっていう……」
バシャ!!
その時だった。顔面にぶつかる液体。冷たい何か。
反射的に目を瞑ってしまい、なんとか目を開いた瞬間、まつげから零れる水滴。
右半身に感じる冷たさと、シャツの張り付く感覚。
「なっ、天女目さんっ! 大丈夫ですか!?」
えっと……あぁ、そこの水溜りですか? 結構なスピードで通ったもんで、水はねですか?
ははっ……
「だっ、大丈夫。烏真さんは大丈夫?」
「私は全然大丈夫です。天女目さんが目の前に居たので……」
「なら良かった。えっと、とりあえず……家行っても良いかな?」
★
シャー
「はぁ……」
お風呂場に響くシャワーと俺の声。
その温かさが、今日は格別に気持ち良く感じる。とはいえ、まだ自主練前の前だ。
あの水浴びから、俺と烏真さんは少し駆け足で家まで来た。
烏真さんはなんか謝ってたけど、別に烏真さんのせいじゃない。気にするなとは言ったけど……どうだろう?
とりあえず、家には美耶さんが居て……事情は話した。今はリビングで烏真さんと歓談中だろう。
『どうしたの? 空くん! まぁまぁとんだ災難ね? あら、このお嬢様は……あぁ! あなたが一華ちゃん? いつも美世がお世話になってます。ささっ、入って入って? 空くんは、とりあえずシャワーでも浴びて来るといいわよ? 体の芯まで水浸しみたいだし。私は一華さんとお話ししてるわ。それにしても、一華さん……綺麗で可愛いわね? …………あの子達もうかうか出来ないわね? ふふっ』
最後、ぼそっと聞こえた言葉が本当にそうなのかは自信ないけど……何か企んでいそうな気はする。
でも、美耶さんのコミュ力の高さは折り紙付きだし、問題ないだろう。
さっさとシャワー浴びて……って、あれ?
その時、俺はふと閃いた。このシャワーの時間、美耶さんは烏真さんと話してる。つまり、完全に安全な時間では? つまり……するなら今しかないのでは?
その閃きは、我ながら天晴なものだった。
そうと決まれば、早速……
「天女目さん?」
なんて、いざ致そうとした瞬間だった。ドアの方から烏真さんの声が聞こえる。
って、烏真さん? なんだ?
「どうかした?」
とりあえず、早々にリビングに戻ってもらって、さっさと致さないと……
「その……失礼します!」
ガチャ
それは余りにも突然の出来事だった。ドアが開いたかと思うと、目の前の鏡から見えたのは……バスタオル1枚の烏真さん。
えっ? あの……
「おっ、お背中……」
ん? その……お背中? しかもバスタオル1枚? あの……その下ってもしかして……
「流しに参りましたっ!」
裸じゃないんですか!?
次話も宜しくお願いします<m(__)m>




