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とある休日

 



 気が付けば、そこはどこか懐かしさを感じた。

 周りはぼんやりとしている。ただ、目の前に見える黒いネットが、ここがどこなのか教えてくれた。


 相手は誰なのか分からない。

 それでも、久しぶりに立つコート。

 右手に感じるラケットのグリップ。

 それらの感覚が体を通り、途方もない高揚感が溢れてくる。


 狙いは決めた。あとは打ち込むだけ。

 黄色いボールを投げると、俺は思いっきりラケットを振り上げ……


 っ!!

 られなかった。さっきまで軽く感じた右腕はまるで鉛の様に重い。


 なんでだなんでだっ!

 そんな俺の思いもむなしく、高々と上げたボールはコートに落ちる。


 タンッ




「はっ!」


 その瞬間、視線の先には見慣れた天井が広がっていた。

 さっきの光景が夢だと気が付くのに、そう時間はかからない。


 ……久しぶりに見たな。

 額に感じる汗。全身が火照るような感覚。それは悪夢以外の何物でもない。


 あぁ、あっつ。しかもなんか体も窮屈な感じだ。萎縮でもしちまったか? 

 まるで体が、両側から押さえつけられている様な感覚に襲われていた俺は、てっきり悪夢のせいで体がおかしくなっているものだと思っていた。そこで、なんとか無理やり動かそうと試みる。


 それにしても、マジで窮屈だな? よっ……


 プニッ


 するとどうだろう。動かした右肘に感じる柔らかい感覚。

 朝、肘、柔らかい。その三拍子には……どこか覚えがある。


 まっ、まさか……って、やっぱお前かっ! 美由。


「おーい」

「すやすや」


 気持ち良く寝てるなぁおい。けど、腕及び右足を絡ませるの止めてくれます? シングルベッドなもんで、夏までまだ時間あるけど結構暑いんだよなぁ。

 ……ん? まてよ? 右側に美由? じゃあ、この左側の圧迫感は……


「すやすやすや」


 ……美世ちゃん!?

 基本的に、義姉妹たちが俺のベッドに潜り込む時は、いつからかは分からないけど自然とその場所が決まっている。

 俺の右側には美由。

 俺の左には美世ちゃん。


 そんな位置関係は、結構見慣れたものだった。ただ……未だかつて2人同時はなかった。


 いやいや、通りで体が窮屈な訳だ。

 シングルサイズのベッドに3人なんてヤバすぎる。

 通りで暑い訳だ。

 お前ら横向きだけど、体半分は俺の上に乗ってるぞ?


 とりあえず、気持ちよく寝ている所申し訳ないが、俺の生命に関わる問題だ。起こさせてもらうぞ?


「おーい美由、美世ちゃん」

「むにゃむにゃ」

「すーすー」


 ……ダメだ。うんともすんともしない。じゃあ、腕だけでも抜けないか? まずは右……


 ムニュ


「んっ……」


 くっ! まじか。いろんな意味でヤバいぞ? ここまでがっちりホールドされてちゃ、動かす為に必然的に当たる。

 なら左は……


 プニッ


「んん……」


 だっ、だめだ! 左も左で美世ちゃんにホールドされてる。完全に包囲されてるよ。

 しかも、今日はなんだか2人とも顔近くない? 人の肩辺りを枕にしてもらえないですかね?


「おーい」


「美由ー」


「美世ちゃーん」


 ……お願いだから、早く起きてくれぇ!




 ★




「う~ん!」


 かつてこれ程までに開放的だったことはあるだろうか。

 自由自在に腕を伸ばしながら、俺は大通りを闊歩していた。


「空くんのケチ」

「お兄ちゃんのケチ」


 後ろの方でなにやら声が聞こえるけど、今日に限れば無視してもいいだろう。

 そもそも朝の所業を受けてなお、買い物に付き合ってあげるだけマシだと思っていただきたい。

 いつもの様に腕を組んで歩かないからと言って、文句を言わないでもらいたいね。


「ケチで結構です!」

「うわっ、開き直った」

「お兄ちゃん格好悪ぅ」


 あぁ何とでも言いなさい。この体の凝りと、夏にもなってないのに下手したら熱中症になりかけた危機感は想像以上だぞ? ……ん? 今度は何ヒソヒソ話してるんだ?


「お姉ちゃん? もしかしてキスしたのバレたんじゃない?」

「それはないでしょ」

「だって、じゃなきゃお兄ちゃんがあんなに不機嫌になる訳ないよ? もう、お姉ちゃんが寝てるしバレないだろうって、キスしちゃうんだもん」

「私のせいじゃないでしょ? そんな事言ったら、美世の方が長かったじゃない?」


 ……気にするな気にするな。この2人の魂胆は分かってる。わざと聞こえるように話して、俺の反応を楽しもうとしているに違いない。

 ふっ、甘いな美由美世姉妹。伊達に一つ屋根の下に居ないぞ? 行動パターンも大体想定済みだ。


「ちょっと待って? もしかして、私達に挟まれてたから照れ隠しなんじゃない?」

「あぁ! ちょっと胸押し付けちゃったもんねぇ」

「美世も? ふふっ、私も」

「本当?」

「多分、いつもより柔らかくてドキドキだったのよ」

「それ故の照れ隠しってやつですなぁ」


 ふっ、ふふふ。何とでも……


「そうそう。だって、あそこすんごくテント張ってたじゃない?」

「あっ、確かにっ!」

「ついにそういう気にさせたって事じゃない? そんな気になってしまった自分へに対しての不甲斐なさが、沸々と……」

「凄く……硬かったもんね……」


「そんな事してたのか!?」


 想像の斜め上を行く2人の会話。その真意は定かではなかったけど、俺は思わず振り返ってしまった。

 するとどうだろう、その視線の先の2人は……


「あっ、空くん顔赤ーい」

「お兄ちゃん可愛い」 


 してやったり感満載の、にんまり顔だった。


 ……やっ、やられた。やられたっ!


「ねぇねぇ、今の嘘だよぉ? 信じた空くん」

「お姉ちゃんは確認する気満々だったけどね?」

「なっ、それは美世でしょ?」


 はぁ、どうやら俺がこの義姉妹に勝てる日は……当分来ないみたいです。


「空くん」

「お兄ちゃん」




 ★




 あれから弄られる事数分。俺達は本日の目的地であるサンセットムーンへと到着した。ショッピングセンターから飲食店まで揃う複合型商業施設で、この辺の人なら買い物と言ったら真っ先に出る程有名どころだ。


 そしてこの位になると、自分でも朝の凛とした佇まいはどこに行ったのか分からない程……


「着いた」

「じゃあ、最初はあそこだよね? お姉ちゃん」

「ん? 一体どこなんだ?」


 いつも通りの姿になっていた。

 2人に乗せられ、散々弄られたら観念するしかなかった。まぁ少しだけでも不機嫌になるってところを見せれただけマシかな?


「じゃあ皆で行こう!」

「行こー!」

「ちょっ! 引っ張るなぁ!」


 マシですよねぇ!?




 2人に勢いよく引っ張られていると、突如としてその足が止まる


 ……ん? 


「着いたぁ」

「最初はここだよね?」


 視線を上げると、実に女の子らしい外見。しかし、そこが何の店なのか……ショーウィンドウのマネキンを見れば一目瞭然だった。


「丁度買いたかったんだよね」

「美世もっ!」

「じゃあ、空くんも一緒に入ろっ!」

「仕方ないな……って入れる訳ないだろっ!」


 マネキン付けられたものは、おしゃれな服ではなく……色とりどりの下着達。そう、2人に連れられてきたのは、間違いなくランジェリーショップ。

 んなところに、男が入っていけるはずがない。しかもその場面を知り合いに見られたら、それこそとんでもない。


「えぇ? でも彼氏とか旦那さんと一緒に居る人もいるよ?」

「そうそう。お兄ちゃんなんだから良いんじゃない?」

「何言ってんだよ! ダメに決まってるでしょうが」


「恥ずかしがり屋なんだから」

「恥ずかしがり屋ぁー」


 絶対違う。そういう事じゃないと思う。


「とにかく、俺待ってるから2人で行ってきなさい」

「もう、仕方ないなぁ」

「ブーブー」


 女の花園に足を踏み入れられる程、肝は据わってないんですよ。


「はいはい。そこのベンチ座ってるから、行った行った」

「はーい。じゃあ行こうか美世?」

「うんっ!」


 はぁ、やっと行ったよ。本当、2人のペースに乗せられるととんでもないな。

 ……って、美由の奴こっち見たぞ?


「あっ、ねぇ? 空くん?」

「ん?」


「好きな色何?」

「好きな色? なんだよ突然」


「良いから良いから」

「水色とかかな? でもな……」

「分かったありがとうね」


 なんだよ。言わせるだけ言わせて、すたこら行っちまったぞ?


「水色だって。じゃあデザインの違う水色の下着で決定だね?」

「うんうん。じゃあ、思い切ってスケスケとか買っちゃおうかな?」

「中学生には早くない? じゃあ私は思い切ってTバックにしようかな?」

「キャー、お姉ちゃん責めるねぇ」


 おいおい。そこの2人? 小声のつもりだろうけど、聞こえてるぞ?

 あっ、今度は2人してこっち見たぞ?


 ニヤリ

 ニヤリ


 ……ヤバい。あのにんまり顔は嫌な予感しかしない。

 頼むから、普通に買い物してくれぇ。




次話も宜しくお願いしますm(_ _)m

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