第一話 魔物遭遇
俺の名前はレオン
今年で15歳の鍛冶屋の一人息子である。
来年には成人の儀を迎える駆け出しの冒険者でもある。
今どういう状況かというと…。
只今オークジェネラルに追いかけられ中!
「みんな全力で丘まで逃げろ〜」
パーティリーダーのケビンは叫んでいた。
と言うのも、3日前に隣街で初めて冒険者登録を行い、村の仲間4人とパーティーを組んで村から少し離れた魔獣の森で、比較的簡単なFランクモンスターのゴブリン討伐クエスト依頼を受け、レベルアップと冒険に出る為の資金稼ぎをするはずだったのだが…。
何故か、ベテラン冒険者でも苦戦するほどのCランクモンスターに追いかけられているのであった。
「レオン!一旦丘の上まで引き離したら、身体強化魔法かけるから、なんとか一人でヤツを引き留めてくれ!」
「俺ひとりで?」
「あれ程の魔物を引き留められるのは、俺達の中じゃおまえぐらいだろう!すまんが頼む!」
パーティリーダーのケビンは心苦しそうにレオンに指示している。
しょうがないか、アイツらより若干レベル高いし、親父の手伝いと毎日の訓練のおかげでステータスも同年代からしたら高い方だし、親父にもらった装備もある、足止め程度なら何とか耐えられそうだし、その間にみんなも逃げきれるだろう。
「わかった!何とかする!」
「少しだけ時間稼いだ後、俺も逃げるから、お前達は村に戻って大人達に救援要請出してくれ!奴をまいた後、どこかで隠れているから迎えに来てくれ!」
「わかった!すまんが引き止め頼んだぞ!レオン!」
そんなやり取りの後、仲間のケビン、ラッセル、ミザリー、ポトフ達は街道に向かって走り出した。
俺は片手剣と盾をすぐさま構え、オークジェネラルの足止めを仕方なくすることになった。
「おいっ!人間のクソガキ、俺様に向かってくるとはいい度胸だな!」
オークって喋るのかよ!
「我らはクソ人間よりも知能も知性も高いのだ!クソ人間は黙って俺様のエサになれ!」
知能が高い?ほぼ全裸なのに?生肉しか食べないのに?
そう思ってるとオークジェネラルはものすごい勢いで殴りかかってきた!
俺は盾で初撃をなんとか受け止めたが正直かなりキツイ!
「ほーう、俺様の一撃を受け止めるとは、中々のガキよのぉ〜」
盾を持つ腕がしびれ、そう長くは耐えれそうにないと感じた。
「このままだとマジでヤバイな」
周りを見渡すとケビン達は街道の方へ逃げ切れたみたいだ。
「貴重だから使いたくなかったがポーションに頼るか」
レオンはマジックバックから瞬足ポーションを取り出し、すぐさま飲み干し瓶を放り投げた。
身体全体が軽くなる不思議な感覚の後、全力で街道から反対方向の魔獣の森に向かってレオンは一気に走り出した。
通常の2倍の速度で走り抜け、オークジェネラルを難なく巻くことが出来た。
念の為小一時間程森の中を駆け抜け、周りを見渡しオークジェネラルや他の魔物の気配がない事を確認し休憩を取ることにした。
「万が一に備え、他の魔物が近寄って来ないように、すごく貴重だが魔除けの水を体にふりかけておこう。」
レオンの家は決して裕福ではなかったが、何故か貴重なアイテムや魔道具、宝石類が沢山家にあったのだ。
レオンの母アンナは、レオンの冒険者登録の為街に向かうにあたり、様々なアイテムを貴重なマジックバックに入れ持たせていた。
レオンは普段から父の鍛冶を手伝い体を鍛えてるので体力には自信があり、息が整うまではそう時間は掛からなかった。
「ひと息ついたし、早く森を出て安全そうな場所を探すか」
そう思って腰を上げた時、ふと目の前の古びた遺跡に目が行った。
「こんな所に遺跡があったのか」
レオンは村からほとんど出た事無く、つい先日やっとの思いで両親を説得し、冒険者になる為初めて村の仲間達だけで隣り街へ冒険者登録に行ったばかりで、当然、村から離れた魔獣の森に入るのも初めてで、ギルドの初心者クエスト攻略の為、街の周りでスライムやら一角兎を狩るくらいしか経験が無く、地理的にも事前に村長から貰った村周辺の地図しか見た事無く世間知らずで好奇心旺盛であった。
「森の中には過去の遺産であるトラップや仕掛けが沢山あるから気を付ける様に親父に言われてたからなぁ〜」
「勝手に遺跡入ったのバレたら怒られるよな〜」
「でも覗いてみたい!」
冒険者になりたての若者は、好奇心を抑えることはできなかった。
「ここが遺跡の入り口だなぁ」
何かに導かれるように足が進んでいた。
中世の古い神殿のような造りで、朽ちて数百年経ったのであろう草木が生い茂り崩れた白い柱が無数に散らばっている中、レオンはどんどん奥へ進んで行く。
幸い、魔物避けの効果もまだ持続しており、付近は荘厳なおもむきのまま静まり返っている。
「奥に扉があるな」
遺跡に生い茂っている草木をかき分けさらに進むと神殿の入り口の様な扉があった。
恐る恐る扉を開け、マジックバックからライトの魔道具を取り出し中を照らすと、神殿の中はかなりの広さで奥の方には神秘的で大きな女神を模した像のようなものが見えた。
「確かあの女神様は…本で見た事あるよなぁ。なんていたっけ?」
近寄って確認しようと奥へ向かうと、足元が急に光出した。
「ウワッ!なんだ!」
「トラップか?」――
足元の光は徐々に魔法陣の様な形で光を放ち出し、レオンは一瞬でその場から消えてしまったのだ。
―――――――――――
〜 一方その頃 〜
「何とか逃げ切ったな!」
「ケビン!早く村長達に知らせなきゃ!」
「そうだなミザリー」
「でもレオン君一人でホント大丈夫でしょうか」
「俺らの中で一番要領の良いレオンなら多分うまいことやってるだろう…。」
「たぶん…。」
ケビンとミザリーは村長の家へ急いで向かったのである。
「村長ーーー!」「大変だーーー!」
「どうしたケビン?そんなに慌てて。街に行ってたんじゃないのか?」
「冒険者登録を無事に終えて、村への帰りがてらゴブリン討伐依頼をこなしていたら、急にオークジェネラルが森から出てきてレオンに足止めを頼んで救援要請しに戻ってきた!」
「何っ!」
「レオン一人置き去りにして戻って来たと言うのか!」
「だって、俺たちだけではどうすることもできないって思って…。早く救援を呼ばなきゃって思って…。」
「バカモンッ!!」
「仲間を置き去りにして、何がリーダーだ!」
「だって〜…」
「まあ良い、それより直ぐに救援に向かうぞ!」
「ミザリー!」
「はい!」
「急いで鐘を鳴らして大人達を集めてきてくれ」
「村長、わかりました。」
ミザリーは直ぐに走り出し、村の広場にある物見台に駆け登り鐘を鳴らした。
「カーン カーン カーン カーン カーーン!」
「緊急事態です!緊急事態です!」
「魔獣の森前でレオンがオークジェネラルに襲われてます!」
「大人達は武器を持って広場に集合してください!」
ミザリーが、拡声魔道具を使用して叫んでいる。
数分後、レオンの危機を聞き付けた大人達が武器?農具?を担いで二十数人ほどが広場に集まった。
大人達を仕切っているのはレオンの父であるギルバートである。
「みんなっ!すまない!うちの息子の為に集まってくれて」
「急を要するので、細かい指示は無しだ!」
「全力で魔獣の森前の丘まで駆けつけてくれっ!」
「俺は一足先に馬で行くので、みんなもどうか早く駆けつけてくれ!」
「おうっギルバートッ!」
「俺達もすぐに追いかけるから、ごたごた言わずにさっさと行け〜」
そうミザリーの父が叫んで、ギルバートは馬に跨がり、みんなに申し訳無さそうに村の門をかけて行った。
レオンの父ギルバートは、昔どこかの国の騎士団長だったらしいが誰も過去のことを深くは追求しない。騎士団長様がこんな辺境の村に来るなんて、よっぽどの事があったに違いないからだ。
ギルバートは古びてはいるがしっかり整備されているフルプレートを着込んで恐らく国宝級であろう立派な剣と盾をぶら下げ出ていった。
ギルバートが丘に着くと、そこにはオークジェネラルもレオンも見当たらなかった。
もちろん、どちらの死体も見つからない。
ギルバートは、とりあえずホットしていた。
「森の中に逃げ込んだんだろうか」
辺りを見渡すと、一本のポーションの空き瓶が落ちているのを見つけた。
「このタグは、確か瞬足ポーションか」
「ということは、あいつは上手く逃げ切ったな」
ギルバートは、レオンの身体能力も把握しているし、剣技も多少なりとも仕込んである。そのことからもレオンが無事に逃げ切ったと確信し安堵の笑みを浮かべた。
しばらくすると、森の中からガサガサと音が聞こえ大きな奇声を吐きながらオークジェネラルが出てきた。
「どこへいっだぁ〜!クソガキー!」
オークジェネラルは疲れ切った表情で叫んでいる。
「おいっ!そこのしゃべる豚っ!」
「聞こえてるか〜!」
「人間の言葉わかるか〜!」
オークジェネラルはギルバートの存在に気づいて
「なんだおまえは!俺様はエサのガキを探してるんだ!」
「喰い殺すぞ!」
オークジェネラルは、かなりいらだった様子である。
「おまえが探してるガキはどっちに行った〜」
「教えてくれたら見逃してやるぞー」
ギルバートが余裕たっぷりで問いかけた。
「わからねーから探してるんだろ!バカか人間」
オークジェネラルは更に苛立ちを見せた。
「わからねーのか、じゃあ死ね!」
ギルバートの持つ片手剣が鞘から抜かれるのとほぼ同時にオークジェネラルの首が宙をまった。
一瞬だった…。
血しぶきが地面に落ちるよりも早く剣は鞘に収まっている。
ギルバートがこれほどの剣技だと村の者達は知らない。
知っているのは、妻のアンナと息子のレオン、そしてギルバート家の事情を知る村長ぐらいのものだ。
ギルバートがオークジェネラルを倒した直ぐ後に村の大人達は丘の上に駆けつけて来た。
「レオン坊はどこだっ!」
ミザリーの父ハンスは周りを見渡しオークジェネラルの死骸しか無いのに気付き、聞いてきた」
「たぶん上手く森の中に逃げたな」
ギルバートがここに着いてからの状況をみんなに説明した。
「魔獣の森の中かぁ〜」
「また厄介な所に逃げ込んだなぁ〜」
大人達は一旦落ち着いて、丘の上の安全を確保しつつ今後の捜索方法を話し合った。
翌日、本格的なレオン捜索が始まった。
程なくして、森の奥深く湖の辺りにある神殿遺跡近くで何者かの野営跡が見つかった。
「魔除けのポーション瓶が落ちてるから、間違いなくレオンだな」
「まだこの辺りに居るかもしれないからしっかり探してくれ」
村長がみんなに指示を出してた所、
「神殿の扉が開けられてま〜す。」
遠くから、村の若い衆が大声を張り上げた。
ギルバートも村長も直ぐに向かった。
扉の奥は開けていて、水の女神の像がある。
数百年前の建造物にしては中はしっかりしている様だ。
「ギルバートさーん!」
「こっちの足元に魔法陣らしきのがあります!」
ギルバートは直ぐに駆けつけ魔法陣を確認した。
「こっ!これはっ!」
「ギルバート!何かわかったのか?」
ギルバートは何かに気付いた様だが、みんなには黙っている。
私達の故郷、オース帝国の紋章が付与された転移式魔法陣であった!
何故こんな辺境の地にオース帝国の魔法陣が…。
「これはどこかに繋がっている転移式魔法陣の様だが、もう使えない様だ。」
ギルバートはみんなに答えた…。
オース帝国の事だけは伏せて…。
村長だけは俺と同じく気付いただろうが黙っている…。
更に辺りをよく見ると、ギルバートが作ったレオンのブーツの足跡も確認出来た。
「レオンは間違い無くここに来ている」
「転移式魔法陣が何故か発動し、何処かへ転移されてしまった様だ」
ギルバートは、捜索隊のみんなに伝えた。
これで一旦レオンの捜索は打ち切られることになり、村の者達達はゆっくりと道中の魔物を討伐しながら村に帰るのであった。
レオンはもしかしたら中央大陸に飛ばされてしまったのかも…。
アンナになんて言うべきか…。
ギルバートは肩を落とし討伐にも積極的には参加せず帰路に立ったのである。




