魔王軍のその後⑥ sideフレアルド
「フレアルド様! マダラ様より緊急の通信が入っております! ――あっ」
フレアルドの下へ駆け付けたのは、秘書官の女性であった。
しかし、その場の緊迫した空気に飲まれたのか、フレアルド以外の人物がそこにいたのに驚いたのか、彼女は到着するなり押し黙ってしまう。
「マダラが……? ついに勇者をやったのか? まァ何にせよ、緊急の通信とは状況が大きく動きそうだなァ……おいお前! 通信用の魔道具がある場所まで案内しろ!」
「――はっ、はい! こちらです!」
今いるこの場所を占拠してからは、通信用の魔道具を使用していなかったフレアルドは、管理を秘書官に任せていて、彼自身は魔導具が設置されている場所すら把握していなかった。
フレアルドがずさんな性格なのもあったが、手柄を独り占めするために、自分に恩義があり御し易いマダラ以外の四天王とは連絡を取ろうとしなかったのだ。
「…………」
ゴラウンはそんなやり取りの中、険しい表情で俯いたまま立ち尽くしていた。
秘書官の女性はゴラウンを気にした様子で、ちらちらと視線を送るが、やはりゴラウンは微動だにせず沈黙したままであった。
やがて秘書官はフレアルドの威圧感に負けてしまい、ゴラウンを気にかけながらもそそくさとその場を離れる。
フレアルドが秘書官に案内された部屋に入ると、そこには既にマダラの姿が魔導具に映し出されていた。
「おう、マダラ。どうしたんだ? まさか、勇者をやったのか?」
自分が戦果を上げられていない中、マダラが勇者の暗殺に成功しようものなら立場が逆転しかねない。
最悪の事態が頭をよぎり、フレアルドは焦りのため少々早口でマダラへと語りかける。
「いエ……なかなか足取りが掴めず……申し訳ないガそちらの方はマダ調査中でしてネ。しかし、別件でアナタのお耳に入れておきたいことがありましテ」
「ほう……なんだ?」
勇者暗殺成功の報告ではなかったことに安堵したフレアルドは、依頼内容に未だ進捗がないことに腹を立てる様子もなく会話を続ける。
「勇者の情報を得るために、人間族の有力な貴族をワタクシの使い魔に監視させていたのですガ……その内の一匹が気になるモノを見つけましてネ」
マダラの『天与』『潜み、狙う者』は、その姿や魔力反応を完全に消すことができる能力だ。
マダラはその能力を自身の分身である使い魔に一時的に付与することができ、使い魔を各地の有力な貴族の下へと向かわせて情報収集していたのだった。
「とある公爵家のパーティ会場デ、派手に暴れていたヤツがいたのデスよ」
「ほう……人間共が身内同士で争って戦力を削り合うのは滑稽な話だが……それがどうかしたのか?」
「それがどうも、その暴れてたヤツというのが我々の知る人物でしてネ」
マダラの言葉に、フレアルドは怪訝そうな表情になる。
魔族である二人には人間族の顔見知りの相手などそうはいないし、そもそもフレアルドはマダラの交友関係など知りもしないのだ。
となると考えられる可能性は一つ。
「そいつは魔族……なのか?」
「エエ、それも我々にとって因縁深い男デスヨ」
その時フレアルドの脳裏に電流が走り、一人の男の姿が思い浮かぶ。
その男は、消えた後もなんだかんだとフレアルドの失敗の原因全てに纏わりつくようにして関与していた。
フレアルドにとって最も忌むべき存在。
「――ッ!! アースか……!?」
「ハイ、彼と思わしき人物がコンクエスター公爵家で確認できましタ。ワタクシが彼の顔を見たのは一度きりデスが……記憶に近い顔立ちと、なによりあの時と同じように地面を隆起させる天与を使っていまシタ。同じ天与を持つ者は存在しないので、十中八九間違いないカト……」
その言葉を聞いたフレアルドは、しばらく沈黙した後、肩を小刻みに震わせ始める。
「ど、どうしたんデスか……?」
「――ハッ。――ハーッハッハッハッ! そうかそうか! そりゃあそうだよなァ! 普通なら俺様が負けることなんて
ありえないもんなァ! ハッハッハ!」
溜め込んだ感情が迸り、大声で笑い続けるフレアルドであったが、しばらくすると落ち着いたのか、ゆっくりと確認するように話し始めた。
「そうかそうか……! アースの野郎が、しぶとく生き延びていやがったんだなぁ!? あいつめ、俺様に魔王国を追放されて相当な恨みを持っていやがるなァ……? あれも、これも、全部あいつが仕組んだことに違いない! いつまでも目障りな奴だぜ……!」
「……」
マダラはというと、フレアルドのあまりに過剰な反応に少々訝しげであったが、深くは踏み入らないよう黙っていた。
「おいマダラ! アースはコンクエスター公爵とやらの下にいるんだな? やはり本当に人間族と内通していたのか……!」
「本当に……? ――あ、いいエ。どうも戦った相手はコンクエスター家に雇われた傭兵のようでしたヨ。戦いの後、アースはリーフェルニア領という辺境の地へ帰って行ったようデス」
フレアルドの言動に違和感を持ったマダラであったが、勢いに押されてさしまい、そのまま質問に返答した。
「リーフェルニア? ……聞いたことがねェな。まァいい。次の標的はそこで決まりだな」
「標的? ワタクシの知る限りでは、あそこは軍事的に全く価値の無いちっぽけな場所ですヨ? 占拠したところで大勢には影響しない。それどころか、無駄足になるでショウ」
実際には今のリーフェルニア領は、良質な薬や武具、更には大量の食糧を輸出しているので、仮に制圧したのならば、その価値は計り知れない。
しかしこの時の二人はその事を知らずにいたのだが、フレアルドにとっては戦術的価値があるかどうかなど、どうでもよかったのだ。
「ハッ! アースの野郎が裏で手を回して、俺様を陥れようとしていやがるんだよ! 俺様が直々に向かって、今度こそ息の根を止めてやる! そうすれば、もう俺様の邪魔をする奴はいなくなる! 魔王の座も俺様のものだ! ガハハハハハッ!」
「――そう、デスか。まあワタクシは止めはしませんヨ。それでは、ワタクシは引き続き勇者の情報を集めマスので、これで失礼しますネ」
これ以上口出ししても意味はないだろうと判断したマダラは、報告を完了すると早々と通信を切断する。
通信が切れた後も、部屋にフレアルドの笑い声がしばらくの間響き渡っていた。
こうしてフレアルド率いる『滅戯竜隊』の攻撃目標が、アースのいるリーフェルニア領へと定められたのであった。




