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魔王軍のその後① sideフレアルド

 アースが魔王軍を去り、一月余りが経過していた。

 あの事件の後すぐに、魔王軍は帝国に対し宣戦布告。

 現在帝国国境付近にて交戦中である。


 この日、フレアルドはリザードマンの軍勢300名を率いて帝国軍の防衛拠点の一つを壊滅させていた。


「ガハハハッ! やはり俺様は最強! 帝国軍の有象無象など一捻りよ!」


 フレアルドは単身で敵兵数百を屠り、一騎当千の活躍を見せたが、率いた部隊が半壊滅状態だった。

 部隊を突撃させ、自身を活躍させるための囮として使ったため、リザードマンの部隊には無傷で帰還できたものは少ない。

 竜人族であるフレアルドと比べると数段劣るリザードマン族であるが、普通に戦えばリザードマン一人で人間族の相手兵士数名を相手取ることができる力量差があったが、フレアルドの無謀な作戦により本来の実力に見合わない戦果となってしまった。

 その結果、魔王城の医務室には惨憺たる光景が広がっていた。


「痛い……! 痛い……! 助けてくれぇ!」

「もう耐えられない……いっそ殺してくれぇ……」


 泣き叫ぶ者、痛みに耐えられず自ら死を望む者もいた。

 およそ100年ぶりの命を取り合う戦い、それを初めて体験した者にとっては地獄絵図のようにも思える光景だった。


「フン、軟弱な奴らだ。この程度で倒れるとはなァ」


 フレアルドは病床に伏すリザードマン達を一瞥し、そう吐き捨てる。

 彼自身も負傷はしていたが、多少の切り傷、擦り傷程度のものであり、リザードマン達に比べたらよほど軽傷であった。

 

「フレアルド様、ご報告致します。リザードマン部隊300名のうち、行方不明者23名、戦死者48名、重傷者55名、中軽傷者126名となっております。また、負傷者のうちおおよそ半分近くの兵士がしばらくは戦闘不能の状態です」


 陸軍の秘書官を勤める竜人族の女性が現状報告をする。

 

「ハン! そんな細かい数字はどうだっていいんだよ。……ったくこいつらも俺様の部下ならもっと役に立ってもらいたいものだぜ」


 フレアルドの暴言とも言える発言に眉をひそめる秘書官であったが、幸いフレアルドの目には入らなかった。

 治療班がせわしなく働くなか、大量の薬瓶が入った箱を持つホビット族がフレアルドの横を通りすぎる。


「おい、お前」


 フレアルドに急に呼び止められたホビット族は、ビクッとをを跳ねさせる。


「は、はい……なんでございましょう。フレアルド様」

「俺様にも薬をよこせ、とびきり効くやつをな」


 ごく軽傷だったが、自分が傷ついているのが気にくわないフレアルドは高性能なポーションの要求をした。


「お、こいつは効きそうだなァ。こいつをよこせ」


 フレアルドは薬瓶の中で唯一淡い輝きを放ち、存在感を見せるその薬を手に取り、即座に飲み干す。

 

「――! そ、それは――!」 


 飲み干した瞬間、フレアルドの傷が癒え、消費した魔力までもが全回復する。

 その薬はアースが魔王軍に居た時に作った『万能の霊薬(イミテーション)・模造品(・エリクサー)』であった。


「……おォ、こいつはいいなァ。おい、お前! この薬、俺様が出撃から戻る度に必ず用意しておけ」

「も、申し訳ございません……こちらの薬は重篤な患者に優先して与えるようと、アース様が……」

「あァ!? アースだぁ!? 死んじまった奴の言うことなんて聞く必要はねェだろうが! それにこんなゴミどもに使うぐらいなら俺様が使う方がよっぽど有意義ってもんだろうが!」

「ヒィッ……申し訳ございません! し、しかし先程の一つでその薬の在庫がなくなりまして……」


 魔王軍で『万能の霊薬・模造品』を作れるのはアースだけであり、今まで作成した分をある程度の数備蓄していたが、度重なる激しい戦闘によりその数は次第に減っていき、先程フレアルドが飲み干したものを最後に、ついに無くなってしまったのであった。


「無くなったのなら買うなり作るなりしやがれ! それをどうにかするのがお前らの役目だろうが!」

「は、はい……全く同じものはご用意でかねますが、高級な素材を使えばある程度の物は作れるかと。つきましては予算を頂きたく……」

「黙れクズが! 役に立たない奴らに割く予算はねぇ! 次までになんとかしてなければ全員クビだぞ!」

「ヒッ! わ、わかりました……」


 ただでさえ戦争によって物資が不足しているというのに、今までどおりの予算でやりくりするのは不可能に近かった。

 通常のポーションですら供給が追い付いていないし、こういった時に頼っていたアースはもう居なかった。

 彼に頼めば、低予算かつ、ものの数日で莫大な量の薬品を納品してくれていたのだ。

 医療班のメンバー達は日に日に不満を募らせていたが、基本的に戦闘力の弱い種族で構成されていたためか、強くは言えないでいた。


「チッ、嫌な名前を聞いたせいで気分が悪い! 帰るぞ!」

「……かしこまりました、フレアルド様」


 フレアルドは秘書官を連れ、踵を返す。

 

 翌日、リザードマン部隊の死者が10名増加する。

 イミテーション・エリクサーを飲み干さずとも、ある程度の量があれば命を繋ぐことはできた。

 フレアルドが飲み干したあの一本さえあれば救えたであろう人数であった。



 

 結果としては各地の軍事拠点を落とし、局地的に勝利をおさめている魔王軍であったが、着実ににその兵力を減らし、破滅への道を歩もうとしていた。

 


ここまでお読みいただきありがとうございます。


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