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お茶の誘い

「良かったらお茶でもどうだい? 特別に僕の部屋に招待するよ」


「いえ、申し訳ないですが後はエドモンド様にご挨拶させていただいて、本日のところはお暇させていただきます」


 今日集まった他の令嬢達と真逆の反応を返され、ダストンの口元が僅かに引きつる。

 しかし、一度断られた程度で強欲であるダストンが一度目を付けたものを諦めるはずもなかった。


「そうか、ならうちの使用人に案内させるから客間で少し休憩していくといいよ。会場には戻りづらいだろうしねぇ。お父様にもそう伝えておくよ」


 自分の私室であれば邪魔な付き人を排除できると踏んでいたのだが、周囲の耳目もあるので仕方がないとダストンは別の手段を取る。

 それに、金を積みさえすれば大概の者は丸め込めるのだとダストンは知っていたので、急ぐ必要もないと判断したのだった。


「……そうですね、わかりました。よろしくお願いします」


 ダストンのにやけた表情に不信感を覚えたものの、目的に則する提案であったため、エレミアは受け入れることにした。


「よし! じゃあ僕についてきたまえ! 案内しよう」


 アースとエレミアは言われるがままダストンの後を歩き、案内された部屋へと入る。

 

「さ、ここが客間だ。座って休んでいるといいよ。僕は諸々の手配をしてくるから、少し待っていてくれたまえ」


「ありがとうございます」


「――おい、そこの。お客様にお茶をお出ししろ。()()()()だ」


 ダストンは近くにいた使用人に指示を出し、使用人と共に部屋を出ていき、部屋にはアースとエレミアだけが残された。

 正直なところ、二人ともダストンに持った印象は良くない。

 親の権力を振りかざしながら好き勝手する不徳な男という、ずばりその通りな印象だった。

 本人は外面を良く見せてはいるつもりなのだろうが、誰が見てもアース達と同じ印象を受けるだろう。

 それでもここまで舞踏会に人が集まるのは、それだけコンクエスター家の力が大きいのだ。


「変なちょっかいをかけられないといいのだけど……やっぱり目立ちすぎたのかしら?」


「……すまん」


 良い意味でも悪い意味でも目立ちすぎたので、アースはダンスを始めたことを少し後悔していた。


「べ、別にアースを責めてるわけじゃないのよ! その……アースと踊れたことは……う、嬉しかったし……」


 エレミアが言い淀んでいると、コンコンと扉が叩かれる。

 すると、ティーセットを持った公爵家の使用人が戻ってきた。

 

「お客様、お茶をお持ちしましたのでよろしければどうぞ」


 使用人は手際よくティーカップにお茶を入れ、エレミアへと差し出す。


「ありがとう、いただきます。……ふぅ、変わった味がしますね。何て言うお茶なんですか?」


 エレミアは出されたお茶を一口飲み、味に違和感を覚えたのか、使用人に質問をした。


「……はい、この辺りにだけ自生する香草を使っています。特に名前などは付いていないのですが、仰る通り確かに独特の味わいがあるかもしれませんね」


「へえ、そうなんですね。……うーん、ちょっと私の口には合わないみたいです。申し訳ないですが下げてもらっていいですか?」


「かしこまりました」


 エレミアは最後にもう一口だけお茶を口にしてから、ティーカップを下げてもらう。

 ティーセットを片付け使用人が退出した後、エレミアに変化が訪れた。

 肩の辺りから淡い光がぼやけて見えたのだ。

 その反応をアースは見逃さなかった。


「――! エレミア、やはりここに居るのは――」


 アースが何かを言いかけたその時、勢い良く扉が開かれ、ダストンが再び姿を現した。


「やあ、待たせたね! どうやら使用人は忙しいみたいでね! この僕が直々に案内するよ!」


「あ、はい。お願いします――あれっ?」


 そう言われて席を立つエレミアだったが、立ち上がった瞬間、足下がおぼつかずよろけてしまう。

 しかしそれを見越していたのか、アースが即座にエレミアを支える。


「あ、ありがとうアース。助かったわ……」


 その姿を見たダストンはにやり、と満足げに怪しい笑みを浮かべる。

 それと相反するかのように、アースの表情は険しいものであった。

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