熱烈アピール
主催者であるコンクエスター公爵家への挨拶を終え、一息ついたエレミアはアースを連れ会場の隅の方でしばらくの間食事を楽しんでいた。
「ん! これおいしい! 何ていう料理なのかしら? 後で調べてみようかな。――あ、ごめんねアース。一人で楽しんじゃって……」
従者であるアースが主人と同じ席に座るわけにもいかず、食事もせずにエレミアの傍に控えていた。
エレミアはアースを気にしながらも、料理好きとして未知の料理についつい心を動かされてしまっていた。
「ああ、腹ごしらえは済ませてきたので問題ない。まあ、並んだ料理に興味がないと言ったら嘘になるが……」
見たこともない料理が並べられたテーブルに当然魅力を感じていたが、アースとて最低限のマナーは理解できている。
口惜しいが仕方がないと、己を律していた。
「もう……家に帰ったら私が腕によりをかけてご馳走作ってあげるから、拗ねないでよね? ふふっ!」
「いや、拗ねてなど……」
アースとしては、そこまで露骨に拗ねたようなつもりはなかったのだが、エレミアはそう捉えたようだ。
しかし、帰ったらエレミア謹製の手料理が振る舞われるのであれば、それもでも悪くないとアースは思った。
「やあ、お嬢さん! 食事もいいが、私と一曲いかがかな?」
ふと、一人の男性がエレミアに声をかける。
ダストンに気に入られることでコンクエスター家と繋がりを持とうとする貴族令嬢が多いのは事実だが、当然ながら交流を広げるために参加している男性の貴族も居る。
入場時に噂されていたこともあり、年頃の男性貴族の間ではエレミアは注目の的になっていた。
だがしばらくは、凛とした表情を崩さずにいたエレミアを誘いづらいと判断していたのか、全く声がかからないでいた。
しかし、先のアースとの会話で笑顔を見せたのを好機と見たのか、我先にといった勢いで一人の男性が話しかけてきたのだ。
「いや、この私と一曲いかがかな? 私の父は皇帝陛下より勲章を賜ったことがある男爵家の――いたっ!」
「いやいや、こちらのお嬢様はお食事をお楽しみ中だ。……どうです? 後日当家でお食事でも――ぐえっ!」
「いやいやいや、すこし暑くなってきたのではないですか? あちらのテラスで果実酒でも飲みながら涼みに――むぐっ!」
すると、堰を切ったようにエレミアを狙っていた他の参加者達が次々と押し寄せる。
彼らは、他の者には後れは取らぬとばかりに押し退け合いながら、エレミアに対してアピールを繰り返していた。
本来ならエレミアは他の令嬢から妬まれそうなものだが、彼女らの目的は別なので、そのありさまを遠巻きに見ながらも特に気に掛けた様子はなかった。
「あ、その……えっと……」
一方当事者であるエレミアは、この数の誘いを捌ききれるわけもなく、ただただ困惑した表情を浮かべるだけだった。
「どけどけ! 彼女は俺と踊るのだ! さ、こちらへ来るのだ!」
エレミアを誘う者の中でも一際図体の大きな男が力任せに他者を押しのけ、エレミアの腕を掴み、椅子から引っ張り上げた。
その男は服の上からわかるほどに筋骨隆々の男で、身長も周りから頭一つ抜けている。
「きゃっ! ちょ、ちょっと……!」
「ふはははは! さあ、お手をどうぞなのだ!」
無理矢理女性を連れ出すのは明らかなマナー違反なのだが、無知なのか強引なのか、男はエレミアの返事も聞かずにダンスを始める。
「――あのっ! ちょっ――」
しっとりとした落ち着きのある曲にも関わらず、大振りで力任せな男のダンスに振り回されるエレミア。
やがて曲が変わり、楽団は軽快な旋律を奏で始める。
すると、エレミアの手を取る男の動きも曲調に合わせて激しくなり、先程までよりもエレミアへの負担が更に大きくなる。
「ま、待って! ――っ!」
力任せに無理矢理踊らされているエレミアの眉が痛みで歪むと、すかさず二人の間に割って入る人物がいた。




