身支度
宿に戻ったアースとエレミアはそれぞれの部屋へと別れ、公爵家へ赴くための準備に取りかかる。
と言ってもアースは礼服を着るだけなので大して手間はかからないが。
「服がきつくて少し動きづらいな……まあ着ているうちに慣れてくるのか……?」
アースは手早く着替えを終え少し体を動かしてみるが、普段着ている使用人の服とは違い、動きやすさよりも見映えを重視しているため、服にあまりゆとりがなかった。
「さて、エレミアは身支度に時間がかかりそうだから……そうだな、万一に備えて色々と仕込んでおくか」
エレミアは宿の給仕の手を借り、ドレスに着替えている途中だろう。
女性の身支度は時間が掛かると聞いていたアースは、空いた時間を使い出来る限り有事に備えての準備を進める。
どれぐらいの時間が経っただろうか、アースが作業に集中していると部屋の扉が叩かれる音が聞こえた。
「アース、おまたせ。準備できたから公爵家へ向かいましょう?」
「ああ、わかった。すぐ行く」
エレミアの支度が済んだようなので、アースは手早く散らばった素材などを片付け、扉を開ける。
そこには、純白のドレスに身を包んだエレミアの姿があった。
純白の中にも燃えるような真紅の装飾が施され、エレミアの髪色も相まってそのコントラストは見る者の目を惹き付ける。
「――――」
「な、なによアース。何か変かしら……?」
急に動きを止めたアースに、服装にどこかおかしなところがあったかと焦るエレミア。
「――いや、すまない。少し見惚れてしまっただけだ。似合っているよ、エレミア」
いつもの質素な服装と違い、煌びやかな礼装を身に纏うエレミアの姿は、普段とのギャップも相まってアースの思考を一瞬止めるのに十分な衝撃を与えた。
「そ、そう……ならいいけど。……ありがと」
急に褒められたせいか、エレミアは頬を染めながらはにかんでしまう。
真っ直ぐに感想をぶつけてくるのはアースの美点の一つでもあるが、耐性のないエレミアからしたらその都度照れてしまうのだった。
「じゃあ……迎えがそろそろ来るでしょうし、外に出ましょうか」
「そうだな、行くとしよう」
「あ、ここからは言葉遣いには気を付けてね、アース?」
「わかっ……わかりましたエレミア……お嬢様」
「うーん、及第点……かな?」




