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舞踏会への参加

 レオナルドから呼び出しを受けたアースは、執務室の扉の前に立っていた。


「急な呼び出しだが、いったいどうしたんだ……? ――ん? この声はエレミアか?」


 扉越しに誰かが会話する声が聞こえた。

 はっきりとは聞き取れなかったが、声からしておそらくエレミアだろう。


「エレミアも居るのか。彼女に関わりがある仕事でもあるのだろうか? とにかく中に入るか……」


 その場に突っ立ったまま憶測をたてても埒が明かないので、アースはコツコツと扉を軽く叩いた。

 

「レオナルド、アースだ」


「来たか、入ってくれ」


 扉を開き部屋の中に入るとアースの予想通りエレミアの姿があった。

 何か深刻な話をしていたのだろうか、その顔には少し不安が見てとれた。


「アース、よく来てくれた。まぁ座ってくれ」


 レオナルドに促され、アースは近くの長椅子に腰かける。

 この長椅子も交易で得た資金を使い購入したもので、豪華な装飾が施されたなかなかの高級品で座り心地も良い。

 館自体は立派な作りであったものの、調度品などは必要最低限なものであったので、このような高級品を置けるようになったことで成長を感じ、アースとしては感慨深いものがある。

 エレミアもアースが座ったのを確認して、少し間を空けて長椅子に座る。


「――それで、何かあったのか? 何やら深刻そうだが……」


「いや、そこまで深刻な事ではないのが……ただ、少し不安な部分があるので貴公を呼んだのだ。――実はな、我輩が昔世話になったコンクエスター公爵家から舞踏会の誘いが来たのだ」


「ふむ、舞踏会か……不安があると言うのはダンスに自信がないのか? まぁレオナルドの体格に合う相手がいないのもわかるが、苦手かもしれないがそこは動き方次第でどうにでもなるだろう」


 アースの的外れの推測に苦笑いをしながら、レオナルドは本題に入る。


「はは……それならよかったんだがな。実はな……リーフェルニア領の躍進が皇帝陛下の目にとまったようで、我輩は陛下への謁見のため帝都へ向かわねばならぬ。しかし、コンクエスター公爵家には多大な恩もあるので無下にはできんのだよ」

 

「――そこで、お父様の代行として私が向かうことになったの」


 今まで不安そうな表情でいたエレミアが、アースか来てから初めて口を開く。

 先んじてレオナルドより話を聞いていたエレミアは、貴族の集まる社交界への初めての出席が決まったので、その不安から緊張を隠しきれていなかったのだ。


「ああ、エレミアもそろそろ社交界の舞台に立ってもおかしくない年頃だ。貴族として舞踏会の一つや二つ、全うして貰わねばなるまい。今後もこういった機会は増えるだろうし、そういった意味で今回の件は丁度良かったのかも知れぬな」


「そうか、貴族と言うものは大変なんだな。……しかし何故俺を呼んだんだ? 貴族の作法など知らないし、俺が役に立てることはなさそうだが……」


「実は、先代当主であったエドモンド様から代替わりしてからというもの、コンクエスター家は良くない噂が流れていてな……我輩が一緒に行けるのであれば問題なかったのだが、万が一ということもある。会場に入れるのは招待状を受け取った家の血筋の者と付き人一人だけなのだ。そこでアース、貴公にエレミアの付き人を頼みたい」

 

 レオナルドとしては信じたくはなかったが、ここ数年でコンクエスター家の噂は何回か耳にしたことがある。

 ある獣を捕獲するため森に火を放っただとか、他家の家宝を手に入れるためその家を破滅させたなど、エドモンドが当主だった頃はありえないようなことだった。

 あくまでも噂に過ぎず、確とした証拠はないのだが。


 そういった事情もあり、万が一エレミアに危機が及んだとしても、アースなら対処できると考えたのだ。

 ただし、魔族の血を引くアースの素性が明らかになった場合、人間族の中でも特に人種差別の激しい貴族が集まる場だ、何が起こるかは明白である。

 その危険性を考慮した上でも、アース以外には任せられないと判断したのである。


「わかった。その役目、引き受けよう」


 エレミアを守るためであれば断る理由などない。

 アースは二つ返事でその提案を受け入れる。

 

「おお! そうか、それならば心強い。エレミアのこと、よろしく頼んだぞ。こちらで舞踏会用の服は用意してある。馬車も手配しておくので、貴公は最低限旅に必要な物だけ用意しておいてくれ」

 

「ああ、わかった」


「では明朝に出発だ、よろしく頼んだぞ」


「よろしくね、アース」

 

 こうしてアースはエミリアと共に、コンクエスター公爵家主催の舞踏会に出席することとなった。

 

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