招待状
「うーむ……どうしたものか……」
とある日、レオナルドは難しい表情をしながら首を傾げていた。
交易に成功して継続的に資金を増やし続け、その名を上げたリーフェルニア領であったが、その結果レオナルドが懸念していたことが現実となる。
急に現れた競合相手に対する牽制や、取り込もうとすり寄ってくる者など、近隣の領主や力を持つ大貴族などから多数の書状が送られてきていた。
「何が『我が傘下に加わることを許可する』だ! 散々こちらの救援要請を無視したくせに、うちが頭角を現したとたんこれだ。しかも、献上品として定期的にうちの商品を上納しろだと!? ふざけるな! これだからただ偉そうにしてるだけの貴族ってやつは……」
まだリーフェルニア領が街の形を成していなかった頃、土地を開拓するにあたりレオナルドは近隣の貴族達に協力を頼んだのだが、要請に応じる者はいなかった。
ずっと援助し続けて成果が出たら上納品を納めろ、と言うのであれば納得できるが、今回はただただ金を欲する貴族達の妄言のようなものだ。
「ええい! こんなものいちいち相手してられるか! 返事を書くのすら億劫だ! こうしてくれる!」
そんな者達に従う義理もないと判断したレオナルドは、その豪胆な性格故か書状をまとめてビリビリと破り捨て、見なかった事にして無視を決め込む腹積もりであった。
政治的な報復はあるかもしれないが、実力行使に出ることはないだろう。
魔王軍との戦いの最中に同族同士で争う程愚かではないだろうし、仮にそうしたら非難を受けることは避けられない。
こんな書状を送ってくるような腹黒い連中がそこまでのリスクは負わないはずだ。
「――しかし、こればかりは無視する訳にもいかぬか……」
書状を破り捨てるような大胆な判断をするレオナルドであったが、一件だけどうしでも無視をしきれない案件があった。
「コンクエスター公爵家からの招待状か……」
レオナルドは他の書状と一緒にならないよう、引き出しに別で保管しておいた一枚の書状を取り出し、深く息を吐きながら呟いた。
その書状は、ガンドルヴァ帝国でも有数の公爵家より送られてきた舞踏会への招待状だった。
例え公爵家からの呼び出しだろうと、応じるつもりはレオナルドにはなかったが、そうはいかない事情があった。
「エドモンド様には多大な恩がある……さすがに捨て置くわけにもいかんか……」
レオナルドが冒険者から貴族に取り立てられた時、親身になって世話をしてくれたのが当時のコンクエスター家当主、エドモンド・コンクエスターだった。
彼がいなければ今のリーフェルニア領は存在しなかったと言っても過言ではないだろう。
今は引退し、書状も後を継がせた息子からのものであったが、エドモンドの名を出されては従うしかあるまい。
「しかし、皇帝陛下からも我輩に直々に謁見に来るよう命じられているしな……エレミアを向かわせるしかないか」
同時に皇帝からも書状が来ていたため、そちらを優先せざるを得ないレオナルドは、苦肉の策として娘のエレミアをコンクエスター家に向かわせることにした。
「――大丈夫だとは思うが……さすがに心配だな。――仕方ない、多少のリスクはあるがあやつに護衛を任せるとするか」
レオナルドは一人の男の顔を思い浮かべると、その男を呼び出すことにした。




