覚悟と葛藤
アースが道を作りながら帰路についたため、行きと比べ非常にスムーズに進んでいた。
森の異変に恐怖を感じたのか道中魔物が襲ってくることはなく、何事も起こらずに来れたのがその原因の一つだろう。
道中もアースは倒れた木々を回収し続け、森を出る頃にはかなり開けた一本の道が完成していた。
これならば馬車を走らせることもできて、その場合半日もあれば鉱山へ着くだろう。
「森も抜けたし、今日はこの辺りで野営しよう」
ここまで順調に来たとはいえ、木材を回収しながら来たこともありすっかりと日も傾き始めていた。
街まではここから更に徒歩で半日程かかるので、一行は休息を取ることにした。
「せやな、なんか色々あって疲れたわ……」
「そッスね……いやー死ぬかと思いましたよ。Sランク並みの魔物を相手にするなんて初めての経験ッス」
今回相手にしたのが防御特化の相手だったのが幸いし、ガウェインでもいくらかの足止めは出来た。
特異性質を持つとは言え、あくまでもメタルイーターが素体なのでその動きはガウェインでも捉えられないこともなかった。
「ああ、ガウェインがあいつの気を引いてくれてなかったら危なかったな……まあ終わったことだ。とりあえず食事にしよう」
明日には館に帰れるのでアースはエレミアの作ってくれた料理を皆で分けて食べることにした。
マジックバッグからエレミアに預かった箱を取り出すと、二人に振る舞う。
「これはエレミアが用意してくれた……確かサンドイッチだったか? たくさんあるから皆で分けよう」
「おっ! お嬢の料理ッスか! 何回か食べたことあるッスけど美味いんスよねー」
「そうなんか? ウチは初めてやし楽しみやなー。 いただきまーす! むぉ! ウマいな!」
こうして団欒しながら夜が更けてくると、旅の疲れがどっと出たのだろう、コハクとガウェインの二人はすやすやと寝息を立て眠ってしまった。
アースは一人、見張りとして焚き火に薪をくべていた。
魔王軍での経験から、不眠不休で働く事には馴れていた
ので数日なら睡眠をとらなくても耐えられる。
いざとなれば最近開発したリフレッシュタブレットがあるので問題はない。
「館に帰ってからのことを思うと気が重くなるな……」
アースはこれからのことを考え思い悩んでいた。
偽りのない自分を受け入れて欲しい、いくら自分を偽ったところでずっとその秘密を抱えて生きていくのは疲れてしまうだろうし、魔王軍での経験からわかるようにろくなことにはならない可能性が高い。
そう思い自分の正体を打ち明ける覚悟はしたものの、当然誰にも受け入れられない可能性もある。
むしろ魔族と人間族の歴史を踏まえれば、拒絶されて当然なのかもしれない。
「――だが、前に進むと決めた」
たとえどんな結果になろうとも、変わると決めた以上前に進むしかないのだから。




