道路工事
「――ありがとうコハク、ガウェイン。……俺は決めたよ。やれるだけやってみようと思う」
リーフェルニア領は笑顔に溢れる良い街だと思うが、決して裕福ではない。
リーフェルニア領で産まれ育ったガウェインのような者も居るが、領民の大半はマーカス一家やコハクのように訳があって住むところを無くした者が殆どだ。
アースが接してきた限りでは、そういった経緯を持ちながら他人を恨むことはしない心優しい人物が殆どであった。
そんな人達がもっと幸せに暮らせるよう力を尽くすのは決して悪いことではないし、それだけの力がアースにはある。
確かにリスクを伴う選択ではあるが二人の後押しもあり、アースはその力の全てを使う決断をする。
「そうこなくっちゃ! 兄貴、俺も微力ながらお手伝いするッス!」
「へへ、これから忙しくなりそうやな!」
短い期間であったが、濃密な時間を過ごした三人には確かな絆が芽生えていた。
しかしこの二人にも、エレミアにも打ち明けていないことがアースにはあった。
それはアースが魔族と人間族のハーフであること、そして魔王軍に所属し四天王の一人であったこと。
自分の決心と共にこれらを打ち明ける時が来たのだと感じた。
「……ああ、とりあえず帰ろうか」
帰ったら皆に全てを打ち明けようと決めたアースは、ひとまず館に帰るために歩を進める。
「あっ! 待ってくださいよ兄貴!」
「ガウ坊はもう完全に下っ端が板についてるなあ」
やれやれといった風に首を振るコハク。
すると、アースはぴたりと足を止め考え事を始める。
「ひどいッスよ姉さん! ――いたっ! ……あれ? 兄貴どうしたんすか?」
後ろを向きながら歩いていたガウェインは急に立ち止まるアースにぶつかってしまう。
アースはただ立っていただけなのだが、ぶつかったガウェインが逆に尻餅を付いてしまう。
「――すまないガウェイン。少し考え事をしていた」
尻餅を付いたガウェインに手を差しのべながらアースは問う。
「なあガウェイン。この鉱山まで直通の道があれば便利だよな?」
「へ? まぁ、そッスね。洞窟は崩れちゃいましたけど、まだお宝は眠ってるでしょうし、発掘作業も兼ねて何度か往復すると思うんでちゃんとした道があればメチャクチャ楽ッスね」
それならば、とアースは手始めに『天与』を使い領地へ向けて道を作ることにした。
「少し時間をくれ」
「え? あ、はい……?」
アースは地面に手を触れ意識を集中させる。
アースの『天与』は手で触れた物質の形を変えるものだが、道を作るとなるとかなり広い範囲での操作が必要だ。
対象を地面という単一の物として捉え、真っ直ぐに道を伸ばしていくイメージをする。
数分は経っただろうか、しびれを切らしたコハクがアースに話しかけようとした時だった。
「ちょとアースのあんちゃん! いいかげん――」
「よし、いける。『天地創造』!」
アースが能力を発動させると、地面が光り出して目の前の森が切り開かれ、幅3メートル程の平らに均された道が真っ直ぐとその終わりが視認できない長さで続いていた。
「ふう……こんなものか」
「「…………!!」」
開いた口が塞がらないとはまさにこの事だろう。
コハクとガウェインは目の前で起きた奇跡に近い現象を見てしばらく固まっていた。
「なんスかこれは……夢……ッスかね?」
「いや現実やでガウ坊……アースのあんちゃん、もしかして神様かなんかか?」
「いや、違うが? さあ、道も出来たし先を急ごうか。さすがに領地まで続く程長くはないし、途中で何度か同じ行程を繰り返す必要があるだろう。だが安心してくれ、感覚を掴んだから次はそう時間はかからないと思う」
「お、おう。そうか……」
「倒した木は道すがら回収していこう。資材として使えるだろうしな」
そう言ってアースは道の脇に倒れる木々をマジックバッグに軽々と収納していく。
「いやマジックバッグの容量どうなっとんねん……」
ひょいひょいと既に数十本は入れているのにまだまだ余裕と言わんばかりに次々とマジックバッグに放り込む。
「ふむ、確かに試したことはないからいい機会かもな。感覚的にはまだまだ入りそうだが」
「「…………」」
コハクとガウェインの二人は再びポカンと口をあけて固まっていた。




