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アースの葛藤

 アース達が山を滑り降りた先は偶然にも昨日夜営した場所だった。

 図らずも三人は鉱山の入り口へと戻ってきたことになる。


「……さて、まだ日も高い。街へ戻ろうか」


「いやいや、なにしれっと流そうとしてんねん。ちゃーんと説明してもらうで」


「そうっすよ兄貴!」


「……兄貴? 俺のことを言ってるのか?」


 ガウェインの今までとは違う呼び方にアースは少々戸惑ってしまう。


「はい! 俺、兄貴の強さに感激しましたッス! これからは兄貴って呼ばせてもらいます!」


「そ、そうか……まあ構わないが……」


 ガウェインは目をキラキラと輝かせ尊敬の眼差しをアースへと向ける。

 そのような目で見られたのは初めての経験だったので、少し戸惑ってしまう。


「で? さっきのは何なん? 魔法とは違うみたいやったけど……まさか、『天与(ギフト)』なんか? でなければあんな規模の魔法ありえんしなぁ」


 『魔法』と『天与』の最大の違いは消費する魔力量である。

 魔法も極めれば天与と同じような現象を起こすこともできるが、その実現には才能と気も遠くなるような修行が必須であり、実際に使えたとしてもその魔力消費量は尋常ではない。

 その点、天与持ちは生まれながらにしてある程度能力を扱え、魔力の消費も微々たるものだ。

 しかしその弊害として自分の天与に感覚を引っ張られ、魔法の習得が難しくなるという欠点があるものの、それを補って余りある力を行使することが出来るためあまり問題にならない。


「……察しの通り俺は『天与』持ちだ。訳あって隠していたんだが、非常時なので使わざるを得なかったんだ。二人ともできればこの事は秘密にして欲しい。」


 レオナルドに釘を刺されていたためこれ以上周りに知られてはならないと思い、コハクとガウェインに口外しないよう要望する。


「まあ、ウチは別に構わんけど……ちょっともったいなくないか? あれだけの力があれば帝都で一儲けできるやろ? リーフェルニア領だってもっと発展できるかもしれんし」


「そうかもしれないが、俺が力を使うことでエレミア達の迷惑になる可能性があるのなら、俺は……」


 確かにアースが全力で『天与』を使えばかなりの発展が見込めるだろう。

 しかしレオナルドも危惧しているように、それによって他の貴族に目を付けられ様々な妨害を受けたり、今は戦争中でもあるので魔王軍の侵略対象となる危険性が高くなる。

 

「兄貴! 俺は……俺は兄貴の本気をもっと見てみたいッス!」


「ガウェイン……」


「俺は最初兄貴のことを大して仕事の出来ない使用人だって決めつけて誤解してました……兄貴はすごい力を持っているんだから、それを隠して生きていく必要なんてないんです! そうしたら俺みたいに誤解する奴なんていなくなるし……」


「…………」


 アースは魔王軍で四天王を勤めていた頃を思い出す。

 あの頃は自分の素性を知られないため顔を隠し、極力他人と関わらないよう生きてきた。

 今思えばそんなそんな得体が知れないような男が四天王の座に居たので周りから疎まれていたことだろう。

 フレアルドが自分のことを罠にかけ、四天王の座を引きずり下ろそうとしたのもある意味当然なのかもしれない。


「俺は、間違っていたのだろうか……?」


「……ガウ坊も色々言っとったけど、結局のところ決めるのは自分自身やで? ま、ウチとしてはあんちゃんがやる気出してくれた方が楽しそうでええと思うけどな」


 もし自分の力を最大限発揮していたら魔王もあんな事にはならなかったかもしれない。

 エレミアやレオナルド、接してきた領民達も同じ運命を辿る可能性を考えたら、何もしないで後悔するより全力を尽くした上で抗いたい。

 そんな気持ちがアースの中で湧いてきた。

 

 






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