メタルイーター
一時間は経っただろうか、更に奥へと進んだ一行は巨大な空洞がある場所に辿り着いた。
天井に外へ通じる穴があるのだろうか、その空洞には光の筋が数本差し込んでいた。
「どうやらここで行き止まりみたいッスね……1時間程度でここまで進めたのでここをある程度調べたら引き返しましょう」
「了解した」
辺りを見回すが他に道らしき道は見当たらない。
一行は最後にこの空洞を調べ、引き返すことに決めた。
「ひゃーーっ! こ、これアダマンタイトやないか!? あっ! こっちは虹美石の原石……!? 磨くとめっちゃ綺麗なんよなぁーこれ!」
各々辺りを探索していたところ、コハクが感情を押さえきれずに叫び出す。
足をじたばたとさせながら壁に頬擦りまでして非常に興奮した様子であった。
「やばいやばいやばい! この辺はレアメタルの宝庫やで! こんだけあればなんでもできんで! はぁーテンション上がるぅ!」
「ハハッ、姉さん落ち着いてくだ――」
ガウェインが興奮したコハクをなだめようと話しかけたその刹那、急に地面が揺れ始める。
「――下だ! 気を付けろ!」
コハクの足下の地面が突然隆起し、大型の魔物が姿を現す。
アースが注意を促したが間に合わず、その登場による衝撃で足を取られたコハクはその場で転倒してしまう。
「いったぁ! ――っ!! メタルイーター!」
メタルイーターは土竜型の魔物で、その前足に持つ鋭い爪で地面などを掘り起こし、その中にある鉱石類を主食としている大型の魔物である。
コハクの足下で寝ていたのを起こしてしまったのだろう。
怒りの感情をあらわにしたその目で真っ直ぐにコハクを捉え、その爪を振りかざす。
「――アカン。死ん――」
「おぉぉっ! 間に合えっ!!」
足がすくみ身動きを取れずにいたコハクを、アースが庇い抱え込む形で飛び込んだことで事なきを得る。
「さ、サンキューな……アースのあんちゃん。死んだかと思ったわ――!? あんちゃん、血が……!」
コハクは無傷で済んだのだが、アースは完全に躱しきれず背中に攻撃を受け出血していた。
軽装とは言え革製の防具を易々と切り裂くあの爪は相当に厄介である。
「大丈夫だ……! 致命傷には至らない。コハクには傷一つつけないと言っただろう……くっ」
「いやあんためっちゃ血ぃでとるで! アカン、ここは逃げるしか――」
アースを支えたまま引き返そうと来た道を見るが、先程の揺れで天井が崩れたのか瓦礫によって道が塞がれていた。
「マジか……!」
「コハク姉さん! ここは俺が引き付けるんでアースさんを連れてなるべく離れて欲しいッス!」
「わかった! あんま無理せんといてや!」
メタルイーターはBランクモンスターに分類されており、Cランク相当の実力のガウェインでは攻撃をいなしながら時間を稼ぐのが精一杯だ。
そもそもがメタルイーターは食べた鉱物を体表に蓄積させる性質があり、金属を切断できる技や粉砕できる力、もしくは魔法が使えないとまるで歯が立たない。
「よっ! ほっ! ほらほら、こっちッスよ!」
強力な魔物ではあるが、動きはそこまで素早くない。
俊敏な動きを得意とするガウェインは、難なく魔物の攻撃を回避している。
「あいつが作った道やったんやな……ここまで魔物が殆どいなかったのはあいつが居たからか……」
アース達が進んできた洞窟のようなこの道はメタルイーターが鉱石を食べながら掘り進んで来た道であり、ここの主のような存在だったのだろう。
この辺りが大きな空洞になっているのはここには鉱物が大量にあり、メタルイーターが腰を据え円形に掘り進めていたからだと考えられる。
「隙ありッス! パワースラッシュ!」
攻撃の合間の隙を付きガウェインが反撃の戦技を放つ。
全体重を乗せた、彼が放てる最大威力の技である。
キィィンッ!
甲高い音が響きガウェインの渾身の一撃がメタルイーターの頭部に直撃する。
だが攻撃を受けたメタルイーターは意に介した様子もなく、再び攻撃の構えを取る。
傷の一つも付けることができず、逆にガウェインの持つ剣が半ばからポッキリと折れてしまっていた。
「――マジッスか……! うおっと!」
続く攻撃を躱したものの、このままでは体力が持たない。
剣より硬い体表を持つことからその爪も同等以上の硬度を持つだろうと予想でき、鉄製の鎧を着こんではいるが攻撃を受けたらただでは済まされない。
一撃受けたら死ぬという思考から生まれる緊張と焦りで、ガウェインの体力は彼が思っているよりも消耗していた。
対するメタルイーターはその獰猛さを失わず、まだまだ疲れた様子ではない。
「くっ――! このままじゃ――!」
いつかやられる、身体中から汗を吹き出しながらガウェインの思考が最悪の結末を想像し始めてしまう。
「こんな――ピンチの時こそ――!」
死を感じているからだろうか、ガウェインの感覚が引き伸ばされ昔の記憶が走馬灯のように甦る。
ガウェインには憧れる英雄がいた。
幼い頃、愚かにも自分一人で魔物を倒せると勘違いしてこっそり街を抜け出し、森へと狩りに出る。
大型の魔物に遭遇し、ぴくりとも動けずに死を受け入れようとしたその時、一刀のもとに強大な死の恐怖を斬り捨てたあの大きな背中に憧れ、一生付いていこうと決めた。
「あの人みたいに――!」
「――すまん、待たせたな」
ドゴォォーーン!
轟音と共に一撃で魔物を叩き伏せるアースの背中が、あの日見た『英雄』の姿と重なって見えた。




