出立
夜の暗闇が白に染まり始めた頃、アースとコハクは館の門の前に集合していた。
アースはこの日ばかりはいつもの使用人の服を脱ぎ、動きやすい服装に革製の防具を身につけた状態で調査へと向かう、
「おっ、来ましたね! 今回案内役に任命された騎士団員のガウェインっていうッス。よろしくおねがいするッス!」
門へ到着すると、若い男性の騎士がアース達を出迎える。
短く刈り揃えられた茶髪に、細身ではあるが鎧の下からも鍛えていることがわかる体つきだ。
以前簡単に顔合わせはしたものの、こうやって対面して話すのは初めてである。
「おー、よろしゅうな坊主。ウチはコハクや」
「ぼ、坊主って……一応お嬢ちゃんより年上だと思うッスよ?」
「お? 聞いとらんのか? ウチはドワーフや、ちっこいように見えるけどもう20歳なんやで」
「お、俺より4つも上……し、失礼しましたッス! コハク姉さん!」
「お、おう……」
あまりにもの変わり身の早さに若干引き気味コハクであった。
コハクの見た目はその童顔も相まってユースティア人で言うところの10歳前後の子供とほぼ同じであるので、ガウェインが勘違いするのも無理はない。
アースも説明を受けていなければ間違えていただろう。
「成程、鉱山の探索なのでドワーフであるコハク姉さんが同行するんスね。納得ッス」
どうやらアースとコハクのことについては何も知らないようだ。
レオナルドが杜撰なのか、彼が能天気なのか、どちらかはわからないが幸先が不安である。
「俺はアースだ、よろしく頼む」
「あ、どーも。使用人の方ッスよね? 荷物運びよろしくです」
「ん……? あ、ああ」
どうやらガウェインはアースのことを荷物持ちか何かと勘違いしているようだ。
それに心なしか態度がそっけないように感じられた。
使用人と騎士では身分が違うので、下の身分である者に対する態度としては別段おかしなことではなかったので、アースは特に言及せずにいた。
「では早速出発するッスよ。鉱山までの道は整備されてないので森の中を突っ切ることになるッス。なので移動は徒歩になるので森の中では警戒を怠らないように! まぁお二人とも俺が守りますんで心配ご無用ッス! ナハハハハ! それじゃあ、レッツゴー!」
ガウェインを先頭に、アース達は歩を進める。
街の近くは比較的安全なので問題は森に入ってからだ。
平原と違い視界が悪く、どこから魔物が襲ってきても不思議ではないので全方位の警戒を怠れない。
半日ほど歩いたところで、アース達は何事もなく森の入り口まで辿り着いた。
半日近く歩き詰めで、コハクは体力的に大丈夫だろうかと心配していたが案外平気そうにしていたので、アース達は思ったよりも速いペースで進んでいた。
「よーし、じゃあお昼時だし森に入る前に休憩しましょうかー」
「おー、ええなぁ! ウチちょうどお腹すいてきたところやってん」
アース達は近くにあった切り株に腰掛け、昼食をとることにした。
アースはマジックバッグから全員分の食料を取り出すと、二人へと手渡す。
エレミアから貰った料理は2、3日持つと言っていたのだが、実はアースの持つマジックバッグに入れられた物は時間の影響を受けないので、少しずつ食べようとこっそり取っておくことにした。
「ほえーやっぱり便利やなあ。おかげで荷物も少なくて助かるわ。重さも感じないんやっけ?」
その様子を見たコハクが感嘆の声をあげる。
今回の旅に必要な荷物のほとんどはアースのマジックバッグに入れてあるので、三人は最低限の装備以外は身に付けていない。
「ああ、この中に入れた物は重さを感じなくなるんだ。貰い物だから理屈はわからないんだけどな」
「ほーん。まっ、便利なのには変わりないしええやん」
「まあそうだな」
「……いいッスね、便利な物を持っているだけでお嬢に目をかけてもらえるなんて」
ガウェインの言葉には少し棘があるように感じた。
出発際もそっけない態度を取られたことから、どうやらアースの事をあまりよく思っていないようだがその理由まではわからない。
「ん? ああ……そうかもな」
「……それじゃあ、そろそろ行くッスか」
アースの曖昧な態度に気分を悪くしたのか、声のトーンを少し落としたガウェインが出発を告げる。
険悪な空気のままアース達は森の中へと入っていくのであった。
※お知らせ※
残り数話分でストックが尽きそうなのでしばらく1日1話投稿とさせていただきます。
長編に初挑戦なので試行錯誤しながら書いてます。
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