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鉱山調査

 コハクが館に来てから一週間が過ぎた。

 このリーフェルニア領には彼女と似たような待遇の者が多かったため、誰一人とも彼女を疎む者はおらず、その快活な性格も相まって短い期間にもかかわらずすっかりと街に馴染んでいた。

 そしてこの日は前回の遠征で発見した鉱山に再び赴くための会議が行われており、そこにはアースとコハクの姿があった。


「ここから北に4日ほど移動したところに鉱脈を発見した。前回は様子見だけで終わったが詳しい調査のため少数精鋭での再調査を行おうと思う。そこで、アースとコハクの二人に向かってもらいたいと思うのだが、どうだ?」

「まあ、山と言えばドワーフみたいなとこあるしな。ウチはええよ」


 ドワーフ族は山間に暮らすことが多く、山に関しての知識が豊富であるので妥当な人選と言えるだろう。


「俺も構わないが、俺達二人だけか?」

「ああ、無論案内役として騎士を一人付けよう。少人数であれば2、3日もあれば到着するだろう。前回は部隊の消耗が激しかったため入口付近のみの調査にとどまったが、今回はより精密な調査をお願いしたい。鉱脈を確保できれば色々と出来ることも増えよう。我輩も行きたいのは山々なんだが少し仕事が溜まっていてな……コハク、お主の知識を当てにさせてもらうぞ」


 エレミアも出来る範囲で手伝ってはいたのだが、三か月留守にしてた事もあり領主としての業務が溜まりに溜まっていたので、レオナルドはしばらくその処理に追われることになるだろう。

 なので今回は護衛としてレオナルドを上回る戦闘力を持つアースに白羽の矢が立てられた。

  

「おう! まかしとき!」

「アースも、何かあったらコハクを守ってやってくれ」

「ああ、任せてくれ。傷一つ付けさせん」

「おっ、言うやんけアースのあんちゃん。強いって聞いとるし頼りにしてるで!」

「よし、早速で悪いが明日出発できるよう各自準備を済ませておいてくれ。明朝館の門の前に集合だ。騎士の方には我輩が詳細を伝えておく」


 そこで会議は終了となり各人部屋を出ていくが、アースが立ち上がった時レオナルドに呼び止められた。


「アース、一応忠告しておくが安易に『天与(ギフト)』の力を使わないよう気を付けてくれ」


 アースが『天与』持ちだということを知っているのは、この街ではエレミアとレオナルドだけである。

 この情報が万が一外に漏れると他の貴族の干渉を受ける恐れがあるため、不用意に人前でその力を使わないようにとアースは釘を刺されていた。


「ああ、わかっている。気を付けよう」

「うむ、頼んだぞアース」


 話を終えたアースは自室へと戻ると、早速明日の準備を始める。

 最低でも一週間程はかかる長丁場になりそうだったので入念な準備が必要だ。

 アースの場合マジックバッグがあるのでどれだけの物を用意しても負担にはならない。



 街へ行き必要な物を買い足し、アースが自室に戻った頃にはすっかり日が落ち辺りは闇に包まれていた。


「薬類はもともと俺が持っている分で足りるだろう。武器も防具も問題なし。鉱山の探索に必要な装備はコハクに聞いたものを揃えたし大丈夫だろう。となると問題は食料だな……」


 簡素な携帯食などは用意してはいたが最近エレミアの手料理に慣れ過ぎたせいか、保存食などの類いは味気なく感じてしまうようになっていた。

 アースが魔王軍にいた頃は殆どが簡素な食事であったのに、今ではエレミアに胃袋を完全に掴まれてれており、しばらくは食べれないと思うと自然と気持ちが落ち込んでくる。


「……ふむ、まあ仕方がないか。エレミアは父親の手伝いがあるし、魔物が出る所へ連れて行くわけにもいかないしな」


 コンコン。

 アースが気を落としているとドアがノックされた。


「アース、ちょっといい?」

「エレミアか? 今開ける」


 こんな夜更けに何の用だろうかと思いながらドアを開ける。

 そこには大きな箱を抱えたエレミアの姿があった。


「あ、こんばんはアース」

「エレミア、こんな時間にどうしたんだ?」

「うん、……えーとね。アース達が明日から鉱山に行くってお父様に聞いたからこれを持っていってもらおうと思って」


 そう言ってエレミアは抱えていた箱をアースへと手渡す。


「ん? 冷たいな……何が入ってるんだ?」


 アースが蓋をを開けるとそこには箱一杯に詰め込まれたエレミアの手料理があった。


「これは……確かサンドイッチと言う料理だったか?」

「アースのことだから私の作った料理が恋しくなるんじゃないかと思って作っておいたのよ」


 会議に姿を見せないと思っていたらこれを用意をしていたらしい。

 先程まで憂いていたアースにとってこれ以上ない不意打ちの出来事につい笑みがこぼれてしまう。


「ああ、今しがたもエレミアの(料理の)事を考えていたんだ」

「――っ! そ、その箱は保冷の魔道具だから中の料理も2、3日はもつと思うから……高いものだから必ず返しに戻りなさいよ! それじゃあね、おやすみ!」


 エレミアは捲し立てるように言いたいことを言うと顔を真っ赤にしながら去っていった。


「急にどうしたんだ……? まあ、有り難く受け取っておこう。これで準備万端ってところだな……さて、今日は早めに寝るとしよう」


 出立の不安が解消されたアースは、満足げに眠りについた。


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