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ゴラウンの疑問

　アースとエレミアが避難所へと辿り着くと、その入口付近にゴラウンら滅戯竜(メギドラ)隊の姿があった。

「隊長！　駄目です、この瓦礫は完全に埋没してて持ち上がりそうにありません！」

「くっ……！　この下から魔力反応を僅かに感じたのだが、打つ手なしか」

　ゴラウンは苦虫を噛み潰したような表情で肩を落とす。

　どうやら避難所の中に用があるらしいが、入口付近が崩れていて、中に入れないようだ。

「おい、何をしている」

「――！？　お前は！？」

　アースがゴラウン達に話しかけると、こんな場所に人間族がいることに驚いたゴラウンは、目を見開いた。

　それもそうだろう。ゴラウンらでさえこの惨状の中生き延びるのに精一杯であったのに、殆ど無傷の二人が急に現れたのだから、驚いて当然だ。

「俺はアースだ。……もう一度聞く、その下に何か用があるのか？　返答によっては容赦はしないぞ」

　魔王軍が避難所の出入口に屯(たむろ)していたので、それを怪しむアース。彼らの出方によっては争いは避けられないだろう。

「アース……！？　お前……いえ、あなたが……！　ここにいると言うことは、まさかフレアルド様は！？」

「安心しろ、向こうで寝ている。後で連れて帰ってくれ」

　アースが指差した方角を見て愕然とするゴラウン。確かにさっきまで感じていた圧倒的な威圧感を感じなくなっていた。それに炎も収まっている。

　アースが元四天王なのは知っていたが、まさかフレアルドに勝てるような実力者だとは露程も思っていなかった。

　ゴラウンはこの後、任務の責を果たせなかったことをどうやって乗り切るかばかりを考えていたのだ。

「――それで？　俺の質問にも答えてもらおうか」

「――あ、いや……この中に我々の仲間がいるようなので救出に来たのだが、瓦礫の強度や重さが普通ではなく、思いの外難しい状況で……」

　その言葉を受けてアースは体の力を抜いた。もし避難所にいる人々を殺しに来たのであれば、全力で阻止せねばならぬからだ。

　しかし、アースはゴラウンの言葉が真実であると判断した。その目からは単純に仲間への心配だけを感じられたのだ。

「……そうか、俺達もそこに用事があってここまで来たんだ。俺に任せてくれ」

「いやしかし、先も言ったが瓦礫をどかそうにもびくともしないのだ……全力の攻撃ならば破壊は出来るだろうが、それでは中にいる者に被害が及んでしまう可能性がある」

「大丈夫だ、『破壊』はしないさ」

　そう言ってアースは瓦礫へと手を添えた。

「『天地創造(クリエイション)』」

　アースの天与によって金属製の瓦礫は瞬く間に形を変え、塞がれてい入口がそこに出現していた。それも崩落など無かったかのように綺麗な状態でだ。

　更には木の根がアーチ状に生成されており、補強もしているように見受けられた。

「この力は……！」

　ゴラウンは目の前で起きた奇跡のような現象に目を見開いた。それと同時に、今魔王軍に起きている食料難や資源不足等の問題の殆どは、アースが居なくなったことによって発生したものだと直感的に悟る。

　魔族の技術力は人間族に比べ大きく劣る。それでも今までそこそこな物資が行き渡っていたのは、きっとこの人のおかげだ。自分の預かり知らぬところでかなりの貢献をしてくれていたのだろうとゴラウンは予想した。

　それに、食料に関してもだ。荒れ地が多く作物が育ちにくい魔族領で充分な食事が摂れていたのもきっとアースのおかげだ。

　魔王クロムに代替わりする前は、食事に関しては決して満足いくものではなかった。しかし戦争が無くなってから暫くすると、誰しもが満足に食事を摂れるようになったのだ。

　それは戦争が終わったからだと勘違いしていたが、全てこのアースという男が四天王の座に就いたからだったのだ。

　現にアースが急に居なくなってからは、あらゆる面で問題が発生しており、立ち行かなくなっている。万能過ぎるが故にアースに頼りきっていたのだろう。

「――――あなたは……何故魔王様の暗殺などを考えたのですか？」

　これ程までの能力を持つ者が、何故魔王の暗殺に関わっていたのか。その理由はなんなのか。真相を知らないゴラウンは、恐る恐るアースへと問いかけた。

「そうか……魔王国ではそう伝わってるんだったな。まあ、俺が言って信じてもらえるかはわからないが……あの情報は嘘だ。魔王様は俺にとって第二の両親のような人だ。そんな人を手にかけようだなんて、考えたこともない」

「なっ――では、何故？」

「……冤罪をかけられたんだ。ある日俺は身に覚えの無い罪で殺されかけた。生き残れたのは運が良かっただけだ」

「そんな……一体誰が……！？」

「フレアルドだ。今までは推測でしかなかったが、今日奴と対峙したときに自ら白状していたよ。まあ、これから死ぬ奴になら何を言っても構わないとでも思ったのだろうな」

「なっ――！？」

　ゴラウンは大きな衝撃を受けた。

　自分の直属の上司が魔王の暗殺に関わっていたこと、更にはどういうわけか国の生産の大半を担っていたであろうアースすらも殺そうとしていたこと。

　どう考えても自国に不利にしか働かない事であるのに、それを計画し実行した。ゴラウンは国のためを思い、今までフレアルドの理不尽な命令にも従ってきたのだ。

　それなのに、とゴラウンは裏切られたような気持ちで一杯だった。フレアルドの目的までは測りかねるが、結局は私利私欲のために動いていたのだ。

　そんな男に従っていた自分も同罪なのではと、ゴラウンは思い悩んでしまう。

　しかしそんなゴラウンに考える時間は与えられなかった。避難所の出入口から複数人の人影が見えたのだ。