帰還
暫くの間無言で抱き合っていた二人だったが、やがてゆっくりと手を離した。
お互いにこういったことは初めての経験だったので、二人は気恥ずかしさから顔を赤らめていた。
しかし、二人の関係性はさておき現状は凄惨たるものであったので、いつまでもこの場でゆっくりはしていられない。
アースは現状を確認すべくエレミアへ問いかける。
「あ……えー、その、エレミア。他の皆は無事なのか? 街は大丈夫だったか?」
今のアースの位置からは、背の高い建物ぐらいしか確認できなかった。館が倒壊したのは目視したが、他の状況はわからない。何よりレオナルドや領民らの安否が気掛かりだった。
「う、うん。街は……残念だけど殆どの建物は壊滅的ね……皆は避難所にいたけど、爆発が激しくてかなり危ない状況だったわ」
「そうか……ならすぐに向かおう。皆が心配だ」
「そうね、行きましょう。――あっ、あの人はどうするの?」
エレミアはそう言いながら、地面に仰向けに倒れているフレアルドへと視線を送る。かなりのダメージを受けて気絶しているが、まだ息はあるようだった。
「……フレアルドはこのままにしておこう。暫くは動けないだろうから、他の魔王軍の連中に連れて帰らせよう」
「わかったわ。……でも、大丈夫なの?」
「ああ、目覚めてもすぐに戦闘できる程には回復はしないだろうから、一旦魔王国まで引き返すしか選択肢は無い筈だ。それに、本来は条約で軍以外への攻撃は認められていない。今回の件が知れ渡れば、今後フレアルドは動き難くなるだろうから、すぐに俺を狙ってくることもないだろう」
アースは今回の件でフレアルドに対して深い憎しみを抱いたが、殺すことはしなかった。
フレアルドは四天王の一人であり、その中でも戦闘力に於いては右に出る者はいない。個としての力なら魔王軍最強と言ってもいいだろう。
現在、帝国と戦争中の魔王国にとってフレアルドを失うことは、かなりの痛手になる。パワーバランスが著しく変動してしてしまうのだ。
それに、アースにとっても知らない顔でもない。付き合いだけで言えばエレミアらよりも長い。
憎む気持ちはあれど、どうしても自らの手で殺めることなどできなかったのだ。
アースとエレミアは、倒れたフレアルドをそのままに避難所へと向かった。