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その姿は

「ハッ! 最後は呆気なかったなァ、アース。これで……これで俺様の邪魔をする奴はいなくなった! 俺が魔王になる日も近いってもんだ! ハッハッハ!」


 心臓に槍を突き立てられ、物言わぬ屍となったアースを見下ろしながら、フレアルドは歓喜の声を上げる。

 この勝利によって、フレアルドの心ははかつてなく晴れやかだったた。

 それもそうだろう。フレアルドは自分の失敗を全てアースのせいだと思い込んでいたのだ。

 そのアースを自らの手で葬ったのだから溜飲も下がるだろう。


「ハッハッハ! ハーハッハッ――あァ……?」


 フレアルドは違和感を覚えた。

 アースはピクリとも動かなかったが、瞬間的に何かが変わったように思えたのだ。

 言葉に言い表せないような『何か』が。


「――なっ!」


 フレアルドが違和感の正体を探っていると、ある変化に気付いた。焼ききったはずのアースの右腕が僅かではあるが復元されていたのだ。

 フレアルドがその変化に気付いた瞬間、アースの目は開かれ、同時にフレアルドへ対し不適な笑みを浮かべた。


「おあつらえ向きのメシがあるな……いただくぜ」


 アースは再生した右手で、心臓に突き立てられた槍を握る。槍の熱によって皮膚が焼かれるが、そんなことは関係ないと言わんばかりに手を離す様子はない。


「――バカな!? 何故動ける!? お前はくたばったはずだっ!」

「――『天地喰尽(アブソープション)』」


 アースがそう言うと、途端にドラグニルに内包される『魔力』が失われ、続いて『熱』『色』『形』などのドラグニルを構成する要素が失われていく。

 やがてその槍、竜人族に伝わる秘宝『炎槍ドラグニル』は、世界からその存在を拒絶されたかのように、圧倒的であった存在感を失い、砂のように崩れて消えていった。

 ただ一人の男の糧となって。


「――ッ!? ドラグニルが消えた!? 来いドラグニル! クッ……来い、来るんだァァァッ!」


 フレアルドは愛槍を何処かへ隠されたのだと思い、召喚するためにその名を呼び続けるものの、ドラグニルがそれに答えることはなかった。

 今フレアルドの目の前で起きた光景が全てだった。長年振るい続け、自分の一部とも言って良いその槍は、もうこの世に存在しないのだ。


「……ふう、美味かったよ。おかげさまで体も完全に治ったかな」


 フレアルドが怒りに震えている隙に、アースは立ち上がり体の調子を確認していた。先ほどまでボロボロだったその体は、まるで何事も無かったかのように元通りになっていた。


 もう一人のアースの持つ能力『天地喰尽』。

 その力は触れたものの魔力や、存在そのものをエネルギーとして取り込み、自らの力とする能力。

 この能力で得たエネルギーは体の再生に使われたり、身体能力の向上へと充てられる。

 そう、取り込むものさえあれば不死に近い無限の再生能力と、無尽蔵のパワーを得ることができるのだ。

 

「貴様ァァァッ!」


 フレアルドがアースへ向かい拳を振るう。

 青き炎を纏うその拳は、速度と威力、共に尋常なものではなかったが、アースはその拳を片手で受け止める。

 

「おお、怖い怖い」


 フレアルドの拳を受け止めたアースの手が焼かれ、肉の焼ける音と、一気に炭化して焦げる臭いが辺りに満ちる。

 だが、いつまで経ってもアースの腕が焼け落ちることはなかった。それどころか、フレアルドの炎が徐々に弱まっていた。


「なっ――!?」


 フレアルドは反射的に腕を引いた。このままではまずいと、本能的に察知したのだ。


「お、もう皿を下げるのか? まあいい、前菜はこんなものだろう」


 『天地喰尽』の能力は無機物だけに働くものではない。むしろその本領は対生物にある。

 

 アースはフレアルドの手を通して、エネルギーを吸収していた。

 燃えるのと同時に常に再生し続けていたため、アースの腕は焼け落ちることはなかったのだ。

 さすがに数秒で喰らい尽くせるような柔な相手ではなかったが、それでもかなりの消耗を強いることができた。

 そう、フレアルドの強化状態を保てなくなる程度には。


「なっ!? くっ……体が……もたない……!」


 フレアルドの纏う炎の色が青から赤へと変化する。

 体力の低下に伴い青い炎の制御が難しくなったためだ。制御できない炎はフレアルド自身をも焼き尽くす危険性がある。

 間もなくしてフレアルドの体は元の姿へと戻るのだった。

 変身による体力の消耗も激しかったのだろう。元に戻るやいなや、フレアルドは四つん這いの体勢になり、ぜいぜいと息を切らしていた。


「ハァ、ハァ……俺様に……何をしやがった……!」


 フレアルドの計算ではまだ体力的に余裕があるはずだった。この後に人間族の生き残りを殲滅し、証拠隠滅を終えられる程度には。

 それがただの拳一発で力尽きるはずがない。そう思ってフレアルドは俯いていた顔をアースへと向ける。


「……!? その姿は……!」


 フレアルドの目に映るアースの姿は、彼の知る姿ではなくなっていた。

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