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襲撃者

 薪小屋へと到着したアースは、マリアが言っていた薪作りに使う道具を探していた。


「これか……? ずいぶん使い古されているな」


 アースは壁に掛けられた斧を手に取るが、かなり年代物のようで伐採には心許ないと感じた。

 

「ふむ、とりあえずこいつを使ってやってみるか」


 アースの『天与(ギフト)』を使えば新品同様に作り直したり強化することも可能だが、館の備品に勝手に手を加えるのはまずいと考え、ひとまずは古びた斧を持って林の中に向かうことにした。

 館から少し離れた雑木林に入り、薪に使えそうな木を選別する。


「タイタンウッドか……こいつが良さそうだな」


 アースはしばらく歩いた後、直径1メートル程の木を見付け、堅さ、大きさなどを確認したところ、薪にするには最適だと判断した。

 タイタンウッドは、弓をも弾く堅さと、動きを阻害しない軽さを持つため、人間族の間では防具などによく使用される高級木材である。

 薪に使用するなどもってのほかであったが、人間の国の事情に疎いアースは、そのことを知らなかった。


「この大きさなら薪小屋がちょうど一杯になるぐらいだな。よし……」


 アースは斧を振りかぶり、木へと叩きつける。

 すると、キィンと甲高い音を立て斧の金属部分が砕け、柄だけが残ってしまう。

 タイタンウッドの硬度と、アースの人間離れした膂力で叩きつけられれば、古びて劣化した鉄が砕けるのは当然とも言えた。


「――――参ったな。ここまで脆かったとは。砕けてしまったものは仕方ない、手を加えさせてもらおう」

 

 『天与』は使わないでいたが、斧が壊れてしまっては仕方ないと考え、新たに作り替えることにした。

 アースは砕けた鉄を集め、マジックバッグから鉄のインゴットを取り出すと能力を発動させる。


「『天地創造(クリエイション)』」


 砕けた鉄と、アースの取り出したインゴットが混ざり合い、液体のようにぐにゃぐにゃとした形に変形し、アースの眼前へと浮かび上がる。

 それに手をかざし、斧の形に整形していく。

 武器を作るのに炉も鎚も必要なく、ましてや場所すら問わないアースの天与は、鍛冶師が見たら卒倒ものだろう。

 もっとも、アースには鍛冶の技能は無いので、武器の仕上がりに関しては見よう見まねで、本職の鍛冶師には及ばない。

 だが、伐採用の斧としては十分すぎる仕上がりだろう。


「よし、こんなものか。これなら砕ける心配はないだろう」


 インゴットが混ざった分、元の斧の倍近くの刀身があり、それはもはや伐採用の斧と言うより戦斧に近い形状であった。

 更にはアースの能力によって強度や重量が増しており、戦闘用の武器としても申し分ないと言えるだろう。


「――はあっ!」


 ギィィィン!!

 振りかぶった斧は轟音を上げ、今度は砕けずに直径1メートルはあるタイタンウッドの幹の半分近くにまで切り込みが入る。

 生半可な金属を超える硬さを持つタイタンウッドを、一撃でこれほどまでに抉り取るには並外れた膂力と相応の武器の両方が揃わなければ難しいだろう。


「ふう……よし、次は反対側から――っ!?」


 刹那、背後に殺気を感じたアースは振り向き様に斧を構える。

 

 ガキィィィン!


 鉄と鉄がぶつかり合う音が木々の間に残響する。

 逆立つ赤い髪、鎧の下からも伺えるほどの筋骨隆々の大男が、身の丈程もあろうかという大剣をアースへと振り下ろしていた。

 反射的に斧で相手の大剣を受け止めたアースだったが、男の怪力により徐々に押し込まれていく。

 戦闘員ではなかったが、魔族であり元四天王でもあるアースを上回る腕力を持つこの男は、もはや人間離れしていると言えるだろう。

 人間族がこの域に達するには余程の鍛練を積まなければ辿り着けない。


「ほう……我輩の攻撃を受けきるとは、盗人にしてはやりおるわい」

「盗人だと……? 待て、何か勘違いを――」

「問答無用!」

「ぐっ!」


 赤髪の男はアースを蹴り飛ばしながら後方に飛び退き、着地と同時に勢いを付けて突進を繰り出す。

 その勢いから次の一撃の威力は先程よりも強力であることが容易に想像できる。

 強い殺気を感じるその攻撃は、まともに受けたならば無事では済まされまい。

 かといって蹴りを受け体勢を崩され、膝をついていたアースには回避する余地は残されていなかった。


「――『天地創造』!」


 アースは咄嗟に手に持った斧を、瞬時に円盾の形に変形させる。

 本来なら能力を発動する場合には多少の時間はかかってしまうのだが、形状や構造を予め記憶しておけば瞬時に切り替えることが可能となるのだ。

 武術家であった父の指導により体に感覚を叩き込まれたことで、アースは数種類の武具を戦闘中でも自在に切り替え、操ることができる。


「受け流す! 魔闘流(まとうりゅう)盾術『流閃舞(りゅうせんぶ)』!」


 体を捻り、回転しながら振り下ろされた大剣を盾で捌く。

 相手にとっては、盾で受けられたと思ったら、そのまま地面を攻撃していたと錯覚する程の早業であった。


「――むっ! どこだ!?」

「――こっちだ」


 背後からの声に男は振り向くが、アースは既に盾を再び斧の形態に戻し、攻撃の動作に入っていた。

 大剣が地面にめり込んでいたため、男の対応が一瞬遅れる。

 その遅れは、一対一の戦闘では命取りとなる。


「魔闘流斧術――」

「待って!! アースっ!!」


 突然響いた声にアースは動きを止め、声がする方へと視線を向ける。

 大男も同様に、アースと同じように動きを止め、声の主へと振り向いた。


「「エレミア……!」」


「「…ん?」」


 二人の動きと声は、見事なまでにシンクロしていた。




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