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避難

「――これは!?」


 レオナルドは直感的に死の気配を感じ、それを感じた方角へと視線を送る。

 すると視線の先では轟音と共に、岩盤が地面から隆起し始めていた。


「これは……アースか……!? 何が起こっている……?」


 こんな事が出来る人物は、レオナルドが知る限りではアースただ一人。

 その予想は正しいものだったが、レオナルドにはアースがこれ程長大な岩盤を作り出した意図がわからなかった。


 次にレオナルドが感じたのは熱と光だった。岩盤の向こう側から一瞬垣間見えた青く輝く光。レオナルドの周辺の温度を数度は上昇させる程の激しい熱。

 光の発生源である岩盤の向こう側では、何が起きているのだろうか。

 レオナルドはそんなことを朧気に考えていた。


「おい! 何をやっている! さっさと待避するんだ!」

「――っ! ああ、すまない。考え事を――いや、どうして貴殿が我輩の心配を?」


 先程まで剣を交えていた相手から心配の言葉をかけられるなどど、戦場においては起こり得ないことだ。

 不思議な感覚に陥ったレオナルドは、つい素直に聞き返してしまう。

 

「――死にたいならば好きにするといい、既に私に与えられた時間は無くなったようだ。私は部下を守るために退かせてもらう。お前らも出来る限りの安全な場所へ待避するんだな。まあ、その場しのぎにしかならないだろうが……」


 一瞬何を言ったか理解できずに呆けてしまうレオナルドであったが、ゴラウンの何かを覚悟した真剣な表情を見てその言葉を信用することにした。


「――そうか、わかった。手出ししてこないと言うのならば、我輩も追う理由は無い。忠告感謝する」


 そう言いながら、レオナルドは腰のポーチから薬瓶を取り出し、ゴラウンへと放り投げる。


「ほれ、こいつを持っていけ」

「これは、ポーションか? ……何のつもりだ?」

「どうもこうもない。我々は既に敵同時ではなくなったのだろう? ならば怪我人を放っておく理由はない」

「――――感謝する」


 礼と共にゴラウンはこの場を去った。

 青い光はいつの間にか収まっており、状況を確認しようとレオナルドが周囲を見渡したその時。


「あれは……青い……炎の玉?」


 遠くから放物線を描きながら、こちらへと飛来する光の玉を凝視するレオナルド。

 観察した結果、不思議な色をした火球であることを認識する。

 

「あれは何だ……?」


 火球はレオナルドの遥か上空を飛び越え、館へと向かっていた。

 握り拳程度の大きさであったので、楽観視していたレオナルドだったが、間もなくその考えを改めることになる。


 ドゴォォォォン!


 腹の底を震わせるような爆発音に、レオナルドの肝が冷える。

 どうやら館に直撃したようで、恐る恐る爆発跡を見やると館はほぼ崩壊しており、以前の壮麗さを失い見る影もない。


「な――」


 あまりに突然の出来事に、レオナルドは言葉を失う。ごく小規模の火球に込められた破壊力に、レオナルドは驚きを隠せないでいた。

 あの館には数えきれない程の思い出が詰まっていた。それを一瞬で、前触れもなく失ったのだから無理もない。

 だが不幸中の幸いか、今館内には誰もいなかったので、その点においては安心していた。


「なっ!? まだ来るのか!?」


 館を失った喪失感に浸る間もなく、レオナルドは次々と飛来する火球を目視する。

 その数は一つ二つどころではない。あの威力の火球が無数に降り注ようなことになれば、小規模な街であるリーフェルニア領など、壊滅は必至である。


「くっ、予定どおりなら皆は地下の避難場所まで待避しているはずだ……あそこなら大丈夫かと思いたいが……早く騎士団の連中と合流して避難せねばな」


 残念なことにレオナルド達にはあの火球を防ぐ術はない。街を見捨てる結果となってしまうが、命あっての物種だと割り切るしかない。

 騎士団を除く領民は全員、アースが地下建造した頑強な避難所へと待避している手筈だ。

 そこならば入り口の擬装も容易であるし、万が一戦略兵器などを使われたとしても問題ない程度には頑健である。

 作戦参加希望者を除く女性や、子供達は、戦闘が始まる前からあらかじめ避難所に集合しており、防衛に参加した男性の領民も、一度の攻撃のみですぐに避難している。


「レオナルド様! ご無事ですか!?」

「お前達! 無事であったか……我輩は問題ない。お前達はどうだ?」


 騎士団の行方を探すレオナルドは、全員地下の避難所へと向かっているだろうと推測していた。

 その予想は的中し、道中無事に騎士団と合流する。


「はい、全員無事です。……しかし、隊長格の男が来て魔王軍は取り逃がしてしまいました」

「よい。今は一刻も早く避難するのが先決だ。……いや、ガウェインの行方はわかるか?」


 合流した騎士団の面々にガウェインの姿はなく、レオナルドは危機感を抱く。

 ガウェインは先行して突撃してきた魔王軍兵士の相手を任せていたのだが、辺りには戦闘の気配は無い。

 となると決着は着いているはずなのだが、勝敗がわからない以上安心はできない。


「ガウェインですか? さっきすれ違ったのですが、奴なら先に避難しましたよ」

「本当か!? そうか……ならば問題は無い。我々も急ぐぞ」

「了解!」


 レオナルド達は、不規則に降り注ぐ火球に細心の注意を払いながら、避難所へと向かうのであった。

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