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究極の選択

 フレアルドは左手と右手をそれぞれ別の方向へと向ける。

 左手はアースの落としたアイテムバッグへ、そして右手はアースではなく、別のものに照準を合わせていた。


「……? まさか!?」


 マジックバッグを狙うのはわかるが、もう一方の攻撃の矛先が不明瞭なことを不思議に思い、視線をフレアルドが右手を向けている位置へと移動させる。

 そこには、今アース達がいるこの位置からも見える建物、アースやエレミアが暮らすリーフェルニアの館があった。

 そう、フレアルドはマジックバッグと、リーフェルニアの両方を同時に狙い、アースにどちらを守るかの選択を強いようとしていたのだ。


「さァて、アース。お前はどうするかな……?」


 勝利することに徹するのであれば、アースはアイテムバッグを優先して回収し、その後逃げに徹することでフレアルドの消耗を待つのが、この場における最も勝率の高い選択だ。

 フレアルドの両手には、エネルギーの収束と思われる現象が確認でき、いつ解放されてもおかしくない状態だ。

 アースに思考の余裕はもうない。いや、どちらかしか守れないのならば、アースがどちらを守るかなど、選ぶ必要はなかった。


「おおおおおおっ! 『天地創造(クリエイション)』!」


 アースは迷わずフレアルドの右手の向く先へ移動し、攻撃を防ぐために射線上の範囲にある地面を隆起させる。

 間もなく、フレアルドの両手に集まったエネルギーは解放され、極太の熱線として放たれた。

 アイテムバッグは岩盤によって視界が塞がれているので確認はできないが、さすがにこの熱線には耐えきれずに間違いなく焼失しただろう。


 だがアースには悲しんでいる余裕など無い。館を守らねばならないのだ。

 レオナルド達の戦況はわからないが、館周辺には人が集まっている可能性が高い。直撃せずとも、この攻撃の余波でさえ致命傷になりかねないのだ。

 人がいる可能性がゼロでない限りは、ここで防ぎきる他ない。


「くっ……! 駄目だ、貫通する……!」


 アースの目の前の岩盤が赤熱し、迸る青き炎は今まさに、分厚い岩の壁ですら貫通しようとしている。

 アースは素早く逆方向に方向転換し、先と同じように熱線の軌道上の、見える範囲全ての地面を隆起させる。

 天与(ギフト)の大出力連続使用によって、アースの頭に鋭い痛みが走るが、それでもアースは能力を使い続ける。

 

「つぅっ……! がぁぁぉぉぁ!」


 熱線が最初に作った岩盤を貫通し、次に作った岩盤へと着弾する。

 その間にいるアースは、直撃こそしていないが激しい熱により体を焼かれ、全身に激しい痛みを受ける。

 それでもアースは能力を使うことをやめない。既に貫通した岩盤も、穴を塞ぐように能力を使い続け、少しでも威力を減衰させるよう全力を尽くす。

 

 どれだけの時間が経っただろうか。アースにとっては永遠にすら感じられたその時間は、唐突に終わりを迎えた。

 熱線の放射が終わり、アースの視線の先にはドロドロに溶けた岩が続いていた。

 その視線のさらに先、そこにはいつも通りの館の外観が目に入り、アースはひとまず安堵する。


「はぁ……はぁ……。――っ!」


 岩盤の側面からフレアルドがひょこっと顔を出す。

 フレアルドと目の合ったアースは、余裕そうなその表情に戦慄する。

 あれほどの技を両手から放ったにも関わらず、消耗した様子が見られなかったからだ。


「おっ、防ぎきったのか? ……なんだ、ボロボロじゃねぇか。そんな無様を晒すぐらいなら、あんな館一つ見捨てちまえばいいものを」

「俺、は……仲間を……守ると、決めたんだ……!」


 息も絶え絶えに、フレアルドに対して反論するアースだったが、フレアルドはその言葉を聞いて、むしろ機嫌がよくなったように、にやりと笑う。


「ハッ、お利口さんだなァ。まァそのおかげで厄介なアイテムバッグは消えたし、俺様としては構わないんだがなァ」

「くっ……!」

「まァ、これでお前の守りたいものとやらがわかったんだ。これから俺様が何をするか、お前に想像できるかな?」

「――まさか!? やめるんだフレアルドっ! 頼む……! 俺の命が目的ならくれてやる! だから……!」


 アースのその懇願に、フレアルドの口元が歪に歪む。


「そうそう、それだよ……アースゥ!」

「ガハッ!」


 フレアルドに蹴り上げられ、溶解した岩盤を飛び越えながら吹き飛ばされるアース。

 そのアースへと向かい、フレアルドがゆっくりと歩み寄ってくる。


「もう回復はできないんだろ? 俺様の力はまだ余裕がある。ってなワケで、ゆっくりと楽しませてもらうぜ? アースよォ……!」

「ゴホッ、ゴホッ! くぅ……!」


 アースは既に満身創痍に近い、回復手段が無いので、今の状態で戦うしかないのだが、満足に体を動かせないのに勝機を見出だせるとは到底思えなかった。


「それじゃあ手始めに――」

「おい……! やめろ……やめてくれ!」


 フレアルドは再び手を館へと向け、間髪を入れずに火球を放った。

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