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越えられぬ壁

 アイテムバッグに狙いを付けたフレアルドの判断は的確であった。

 事実アースの攻撃手段の多様性や回復手段の豊富さなどは、このアイテムバッグに依るところが大きい。

 これを失ってしまうと、実際にアースの戦力は半減してしまうと言っていいだろう。

 

 フレアルドの今の高出力形態は、命を少しずつ削っているようなものであり、持続時間はそう長くない。

 アースを少しずつ痛め付けて楽しみたいという思いもあるが、その都度回復されたのでは自分の限界が先に来てしまう。それ故の判断だった。


「させるか……!」


 アースにとってこのマジックバッグは非常に重要だった。

 確かに回復用のポーションや、攻撃に使えそうな素材類も入っているが、それよりも大切な要素がある。

 それは錬金術師だった母との思い出を想起させる手書きのレシピ帳や、アース自身の今までの研究の成果なども中に入っているのだ。

 そしてマジックバッグ自体も魔王より授かったものであり、死に別れた今となっては形見のように思っている。

 そう易々と失う訳にはいかないのだ。


「ハハッ! 踊れ踊れ!」


 フレアルドは両手をアースへ向かって突き出し、その指一本一本から極小の火球のつぶてを放つ。

 アースはマジックバッグを庇うように立ち回るが、いかんせん十指から無数に放たれるする火球の数が尋常ではない。

 規則性はなく狙いもバラバラであったが、それ故予測が立てられずに、逆に回避を難しくしている。

 しかもそのどれもが今まで以上の威力を秘めているのだ、アースの緊張感は時が経つ程に増していく。


「あぐっ! くぅ……!」


 徐々に体力を削られたアースが、避けきれずに火球の一つを腕に受けてしまう。

 火耐性があるはずの服は溶解し、アースの肌に熱が達し焼けただれたような火傷を負った。

 しかし攻撃は終わらない。フレアルドは畳み掛けるようにアースを執拗に追い詰め、火球を撃ち続ける。


「『天地創造』……!」


 アースは苦し紛れに土壁を生成するも、数秒ともたずに崩壊していく。

 だがアースは土壁によって稼いだ一瞬の時間を使い、マジックバッグよりポプモアの実を取り出し、フレアルドへと投げつける。


「……フン。無駄だ」


 フレアルドが腕を一振りすると、青き炎が飛来するポプモアの実を包み込む。

 溶岩の熱にも耐えるポプモアの実だが、その実は地に落ちる前に灰となり、フレアルドに届くことはなかった。

 しかしそれは、ポプモアの繊維を使用した服を溶かすレベルの高熱を扱っていることから、予想はできていた。

 アースの本来の狙いは別のところにあった。


「おおおおっ! 『落陽』!」


 土壁で身を隠し、ポプモアの実を囮にフレアルドの視界の外へ移動、そのまま跳躍し、以前メタルイーターを仕留めた技を発動した。

 アースは以前洞窟内で生成した鉄球をちゃっかりと回収しており、今回は発動までの時間を大幅に短縮している。

 

「ぬぅっ!?」


 自身に迫る大きな影に気付くフレアルドであったが、空を見上げたその瞬間、漆黒の球体が眼前まで迫っていた。


 ズゥゥゥン!!


 地を揺らしながら大きな音を立てて、鉄球は土煙と共に地面を陥没させる。

 土煙が晴れるが、そこにいたであろうフレアルドの姿はどこにもない。


「下敷きになった、……のか?」


 アースは恐る恐る確認のため鉄球へと近づいていくと、鉄球はまるで粘土にでも変わったかのように、ぐにゃりと歪み始めた。

 

「っ! まずいっ!」


 アースが危機を感じて、鉄球から距離を取るのと同時に、鉄球から複数本の熱線が迸り、鉄球はついぞその形を維持できなくなり崩壊した。

 アースは荒れ狂う熱線を完璧に避けきれず、マジックバッグを体に固定していたベルトにかすめてしまい、ベルトは熱に耐えきれず焼き切れてしまう。


「しまった……!」


 待避する途中であったので、マジックバッグを落としたままある程度の距離を移動してしまうアース。

 鉄球の中から姿を現したフレアルドは、鉄球での攻撃を受けたにも関わらず意に介した様子はなかった。

 そして、頼りのマジックバッグを落としたアースを見て、ニヤリと口角を上げた。

 

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