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蒼炎

 アースは、背後に悪寒を感じた。

 そこには拘束し、気絶したフレアルドだけしか存在しない筈なのに、そう思って振り返ると、アースの眼前には炎の塊が激しく燃え上がっていた。


「なっ……!? これは!?」


 フレアルドが居た場所から、轟々と赤く燃え上がる炎、時間と共に勢いと増しながらその色が段々と変化していき、怒り狂うような赤から徐々に色を失い白へ。

 そして、怒りを具現化したような赤き炎とは真逆の、どこか冷徹な印象さえ与える『青』へと変化する。

 その炎が発する熱は今までの比ではない。

 炎に触れてすらいないというのに近くの草木は炭化し、数メートルは離れているアースでさえも肌に焼けるような痛みを感じる。


「この熱量は……? まさか!?」


 青い炎が一瞬大きく膨れ上がり、そして徐々に人の形へと収束していく。

 そこには、大きく姿を変えたフレアルドが立っていた。

 頭髪は逆立ち、額の角は大きさを増し、露出している肌は所々ひび割れ、その隙間からは青い炎が時折噴出している。


「――――フゥ」


 フレアルドが深呼吸をすると、それに呼応するように纏う炎は収束し、体内に収まっていく。


 以前までとは異なるフレアルドの雰囲気に、今までは本気ではなかったのだと悟り、アースは戦慄する。

 フレアルドのこの姿、この力に関してアースの記憶にはなく、完全に想定外だった。


「……なァ、アースよ」

「――っ!?」


 フレアルドが静かに語り始める。

 怒声などとは程遠く、ゆっくりとした口調であるにも関わらず、確かな怒りをそこに感じたアースは、虚をつかれたように動揺してしまう。


「俺様はお前を舐めてたよ。魔王城に居た頃はいつも引きこもってばかりいたからよ、どうせ大したことねェんじゃねェかって思ってた。お前は魔王の養子みたいな扱いだったから、そのコネで四天王になったのだとも思った」

「それは……」


 表に出なかったのはアースなりの事情があったからであり、望んでそうしていたのではない。

 四天王に選ばれたことに関しては、魔王が決めたことであって、アースは自ら立候補した訳ではない。

 全てアースの意思ではなかったとはいえ、客観的に見てフレアルドのように否定的な意見を持つのは仕方のない事だろう。


「何よりも気に食わねェのが、俺様をここまで追い詰めながらも生かそうとする甘さだ。俺様はお前を殺そうとしたんだぞ? そんな相手にも情けをかけるのか? ……まァ、そのおかげでお前の絶望する顔が見れるんだから、俺様にとっては都合がいいんだがなァ」

「あの件はやはりお前が首謀者だったのか……!?」


 フレアルドの発言から、やはり自分を亡き者にしようと計画を立てていたのだと知る。

 しかし今はそんなことよりも、今のフレアルドにどう対処するかにアースの思考のリソースは割かれていた。

 パワー、スピード、能力、全てにおいて未知。

 しかし確実に言えるのはそれら全てが今までの比ではないということだけだ。

 アースの用意していた対フレアルド戦の装備が、どこまで通用するかが問題であろう。


「さァ……、どうだろう――なっ!」


 その瞬間、青き爆炎が舞い、フレアルドがアースの視界から消える。

 いや、消えたのではない。高速で移動をしただけだ。消えたように見えたのは、単純にアースの目では捉えられない速さだっただけだ。

 アースがフレアルドの存在に気付いた時には、既に拳がアースに触れようかといった瞬間であった。


「ぐっ! あぁぁぁぁっ!」


 そのままなす術もなく腹部に打撃を受けたアースは、およそ10メートルほどの距離を吹き飛ばされる。

 フレアルドの使った技は『負零亜乱須(フレアランス)』を応用した技だ。

 フレアルドの愛槍、ドラグニルは、今のフレアルドの炎には耐えられない。なので槍を使用しておらず、殺傷力こそ落ちてはいるが、そのスピードは比べるまでもない。

 もちろんパワーも無い訳ではない。打撃を受けたアースは、口から吐血し、笑う膝を抑えながらもなんとか立ち上がった。


「ガハッ! ぐっ……!」

「オイオイどうしたよ、アース。まさか一発で終わりじゃねェだろうな?」


 拳一つ受けただけで骨は数本折れ、そして驚くべきことにフレアルドに触れられた部分の服が焼失していたのだ。

 つまり、ただの拳にも熱が発生しており、耐火性能が高いアースの服が焼失したことから、先程受けた炎よりも高熱であることがわかる。

 もし服の上からでなく、直接肌に受けたらと考えると、想像しただけでアースはゾッとしてしまう。


「くっ……! 『天地創造(クリエイション)』!」


 地面より無数の土の槍をフレアルドに向けて発生させる。だがしかし、そのどれもがフレアルドに届くことはなかった。

 いや、触れてはいたのだが、その端から土の槍は溶解していたのだ。

 その身に纏う圧倒的熱量は、最強の矛でもあり、同時に最強の盾でもあった。


「ハッ! 今更そんな小手先の技が効くとでも思ってるのか?」


 一瞬の隙を見てアースはマジックバッグよりポーションを取り出し、一気に飲み干す。

 これでひとまずは先程のダメージを回復することができた。


「あァ? 回復したのか……? 面倒なことをしやがるなァ。……どうやらお前の力の源はそのアイテムバッグにあるらしいなァ? 残念だがあまり長くは遊んでやれないんだ、オモチャは取り上げねぇとなァ……!」


 ニヤリ、と邪悪な笑みを浮かべ、フレアルドはアースのアイテムバッグに狙いを付けた。

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