第11話 出張と言う名の小旅行
「出張ですか?」
「そう、12日に名古屋まで行ってきて、デモをしてきて欲しいんだ。
15時にアポを取るから、それに間に合うようにしてね。
終わりが分からないから、その日はあっちに泊まって良いから、ホテルの予約も忘れないでね。
あとは……稟議書とかは迫野君に聞いてもらえるかな? 相手の情報は後でメールしておくから、宜しくね」
そう言って、北地課長は自分の席へと帰って行った。
(まぁ、業務命令なら仕方ないよな……)
迫野さんの席へ椅子ごと移動する。
「迫野さん、12日に名古屋に行くことになったんですけど、どうすれば良いのでしょうか?」
「あぁ、あれのデモをしに行くのか……日帰り?」
「いえ、泊ってきて良いって言われました」
「そうか、だったら多少は楽だね。
名古屋は初めて?」
「です」
「じゃあ、ご当地食べ物を食べてくると良いよ。
味噌カツとかひつまぶしとかきしめんとかあるから」
「ひつまぶしとかって高いんじゃないですか? って、そうじゃなくて、出張の前に何か手続きしておくことってあります?」
「えっと、出張届のフォーマットがあるから、それを書いて事務に送ると良い。
それに、北地さんが業務コードを教えてくれるはずだから、それを忘れずに書いてね。
業務コードなしだと、受け付けて貰えないから」
「分かりました」
「交通手段としては名古屋なら新幹線になると思うから、希望の新幹線の便と時間を調べて書けば、チケットを取ってくれるよ」
「新幹線に乗れるんですね」
「新幹線に乗ったことなかったの? それなら、良かったんじゃない」
「駅に早めに行っておいた方が良いですかね? 席を確保しないときついですよね?」
「流石に指定席を取ってくれるよ。
課長とか役職が付くと、グリーン車に乗なるらしいけどね」
「座るところが確保されているだけでも十分ですよ」
「最初の内は、皆そう思うんだけどね。
それでだ、泊りってことはホテルは自分で取らないといけない。
宿泊費は一律支給だから、新幹線のチケットと同時に現金を持ってくると思うよ。
安く済ませれば自分のお小遣いになるし、追加して良い所に泊っても良い」
「そうですか……あと、注意することはありますか?」
「帰りの新幹線の時間は特に言われてないの?」
「はい、何も言われていません」
「なら、あまり遅くならないうちに会社に帰ってくれば良いと思うよ。
まぁ、遅くても始業時間位に乗っていれば文句は言われないと思う」
「はい、分かりました」
「後は、新幹線以外の交通費は現金支給のはずだから、宿泊費に合算されて渡されるってことと……食事代は出ないから、ひつまぶしを食べても良いけど自費だってことかな」
「まぁ、そうですよね」
「あとは……帰ってきたら報告書を書かないといけないけど、それもフォーマットがあるから帰ってきたら渡すよ」
「分かりました。
ありがとうございます」
自席へと戻り、新幹線の時刻表をチェックし始めた。
行きと帰りの新幹線を決めて、出張届の空欄を埋めていく。
宿泊費の金額も出張届に書かれていたので、ひつまぶし代へと補完すべく少しでも安いビジネスホテルを予約した。
12日の晩御飯は、心の中ではひつまぶしと決定していた。




