第7話 バグ? いいえ、仕様です
「此処の値が2違うんですよ。
どうしてなのか、確認して欲しいんです」
「承知いたしました。
調査してからお答えいたしますので、お時間を頂いても宜しいでしょうか?」
「急いでいるんで、なるべく早く連絡してください」
「承知いたしました。
本日中には、何らかのお答えを其方に提示できるようにいたしますので」
「急いでいるんで、お願いしますよ」
「はい、それでは一旦、失礼させていただきます」
電話を置いた。
(いや~、面倒なところだな……いつも『急いでいる』と言うくせに、実はそうでもないんだよな……)
愚痴っていても仕方がない、データを抜いてみる。
こちらからVPNで接続すれば、相手のネットワーク内に入れるようになる。
そうすれば、あとはやりたい放題、データは抜き放題だ。
抜いたデータを自分のPCへ保存して、確認する。
計算された値は、正しく画面へ出ているようだ。
そうなると、お客さんが持っている値との違いを見つけ出さないといけない。
「いつもお世話になっております。
先ほど、お問い合わせがありました件でお電話いたしました」
「お世話になっております。
で、原因は分かりましたか?」
「(そう簡単に分かるかっての)まだ、調査しておりますが、こちらからは正しい値が表示されている様です。
お手数ではございますが、そちらでの正しく表示されていないとされた根拠のものをお教えいただきたいと思いまして」
「別工程から回って来た表と値が違うんですよ。
その表を渡せば良いですか?」
「はい、お願いします」
「じゃあ、そのPDFファイルをメールで送っておきます」
「ありがとうございます。
では、その内容も合わせて精査し、結果をご報告します」
「なるべく早くお願いしますね」
「(早く、早くって出前じゃないんだから)承知しております。
では、失礼いたします」
送られてきたメールのファイルを確認する。
うん、確かに2だけ違っている。
1件1件、値を確認していく。
(うん、こことここが違うぞ)
値を精査していくと、四捨五入の方式が異なっている様だった。
メールで送られてきた方は普通の四捨五入。
対して、こちらでは銀行家丸めによる四捨五入。
(仕様書はどうなってる?)
慌てて仕様書をひっくり返す。
『四捨五入は銀行家丸めにより行う』と書かれていた。
うん、勝訴。
次の日、仕様変更の書類が俺の手元に届いた。
相手も色々とゴネたらしいのだが、仕様書に明記されていてその様に動いている以上、こちらに瑕疵はない。
これにて一件落着。




