第5話 新しいPCが届いた
「水島君、ちょっと良いかい?」
「迫野さん、どうしました?」
自席で作業中に、突然背後から声を掛けられたためちょっとびっくりした。
某スナイパーだったら、裏拳が顔面へと飛んでいたことだろう。
俺が某スナイパーじゃなくて良かったな……
まぁ、そもそも、某スナイパーだったらこんな所でこんな仕事をしていないのだけどね。
それはともかく、席に座ったまま椅子を回転させて迫野さんの方を見ると、2台のノートPCを手に抱えていた。
その内1台は、つい最近、俺の家で1週間ぐらい夜を共にした相手だったように見える。
「新しいノートが来たから、セットアップして欲しいんだ。
それで、こいつは破棄予定だから、こっちのデータを全部移しておいて欲しいんだ」
お古の廃棄寸前のを俺に割り当てていたのか? まぁ、良いけど……
「分かりました。
期限とかってありますか?」
「ん~っと、暫く予定は無いから、のんびりやっても良いはずだよ。
あ、またインフルになったら渡す予定のノートだから、インフルになるまでにやっておけば良いよ」
「今年はもうなりませんよ」
「偶にA型やってB型もコンプする人もいるらしいから、挑戦してみれば?」
「そう言うこと言っていると、迫野さんが罹りますよ?」
「俺はインフルエンザに罹らない体質だから、大丈夫」
そんな体質ある筈ない。
だけど、今まで罹ったことがないそうだ。
余程悪運が良かったのだろう。
憎まれっ子世にはばかるとも言うし。
あ、それなら中垣内さんの方がしっくりくるかも知れない。
後で聞いたところ、中垣内さんもインフルエンザに罹ったことが無いそうだ。
大砂さんと北地課長は罹ったことがあるそうで、これで、俺もリーダー以上の役職が確定……まぁ、インフルエンザに罹患経験により役職が決定する訳じゃないしな。
迫野さんから預かったノートPCを机の傍らに置き、セットアップ作業をしながら今の作業を進める。
どうせ、インストール作業の殆どの時間を占めるのは、『しばらくお待ちください』と表示されたダイアログ画面とのにらめっこだ。
その間は自分のPCで作業を進められる。
偶に、自分の作業の方に集中してしまい、いつの間にか表示された『インストールが完了しました』のダイアログが出ている事にも気が付かず、スクリーンセーバーが起動していたりすることもある。
それでもインストール作業に支障がないのならば、問題ない。
(序だから、此処に俺専用のフォルダを作っておいて、暗号化しておこっと。
権限も俺だけにしておいて……っと、)
深い意味は全くない。
ただ単に『俺が何かした』という証を残しておきたいだけ、なのかもしれない。




