第3話 インフルエンザ? じゃあ、ノート持って行くね
「どうやら風邪を引いたみたいですので、今日はお休みを頂きたいのですが……」
電話の先は中垣内さんだ。
どうやら、俺は電話運は無い様だ。
「ふ~ん、熱はあるの?」
「さっき測ってみた時には38度ありました」
「そうか……分かった、北地さんに伝えておくね」
「すみません、お願いします」
「あっ、時期的な事もあるから、一応、病院行ってきた方が良いと思うよ。
インフルかも知れないからね」
「はい、分かりました。
それでは、失礼します」
「お大事に~」
電話を切る。
あ~、インフルエンザか……確かにその可能性も0じゃないから、検査は受けた方が良いだろうな。
でも、病院に行くのも億劫なんだよな。
出来れば、このまま寝床でぬくぬくしていたい。
でも、中垣内さんから『病院行っとけ』って言われたしな……いっそのこと、具合が悪かったので2度寝して起きたら夕方だった事にしてしまおうか?
色々と考えてはみたのだが、まぁ、病院に行って注射の1本でも打って貰えば、明日には復活できるだろうと言うことで、寝床を後にする。
(早まったか?)
飛び出したものは仕方がない。
私服に着替えて、病院へと向かうとする。
いや、どこに病院があるのか知らない。
スマホを取り出して、Google先生にお伺いを立てる。
何件か候補がていたが、どうせ分からないから先頭に出てきた病院へ向かう事にする。
歩けない距離ではないから歩いて行こう。
Google先生のナビに従い歩き、目的地へと到着した。
病院に入って受付へと向かうと、その途中で声を掛けられた。
「おはようございます。
今日はどうされました?」
「熱があったんで会社を休んだんですけど、インフルエンザの検査をして欲しくて来ました」
「分かりました、初診ですか?」
「はい」
「では、保険証をあの窓口へ提出してください。
そこで、問診票を貰えますので、あちらの席でお熱を測りながら問診票を書いてお待ちください」
「分かりました」
指示された窓口へと向かい、保険証を提出する。
問診票と体温計を渡されたので、熱を測りながら問診票へ記入していく。
丁度問診票への記述が終わった頃、最初に声を掛けてきた看護師が此方へとやって来た。
「問診票は書き終わりましたか? こちらでお預かりしますね。
熱は……37度8分ですね。
それでは、もう暫く此処でお待ちくださいね」
暫くの間、その場で順番を待っていると、名前を呼ばれた。
「今日はどうされました?」
先生に聞かれたが、問診票にも看護師さんに聞かれた時にも答えた。
『インフルエンザの検査を、お願いします』と……何回答えれば、検査をしてもらえるのだろうか?
その言葉は心の中に飲み込み、先ほどまでの言葉を繰り返す。
「じゃあ、あちらで検査しますね」
看護師さんとの完璧なアイコンタクトにより、俺は診察室とは別室へと連行される。
やっと、インフルエンザの検査が行われる様だ。
「ちょっと痛いかも知れませんが、我慢してくださいね」
長い綿棒みたいなものを鼻の奥に突っ込まれた。
ちょっとどころではなく、とても痛かったぞ。
その後、待合室で待たされ、再び先生の下へと呼び出される。
見事、インフルエンザA型に罹患していた。
これにより、今週は臨時休業が確定した。
(今週一杯、天国だ)
会社へとウキウキしながら電話を掛ける。
勿論、こちらの状態を悟られるわけにはいかない。
「もしもし、水島です。
お疲れ様です。
先ほど病院で検査してもらったのですが、インフルエンザでした」
「マジか~、う~ん、どうしようかなぁ……」
電話の先の迫野さんは困っていたようだ。
(流石に、会社に来いとは言わないよな? インフルエンザで会社に行ったら、パンデミック引き起こすぞ)
「北地さんと話して、また後で電話するね」
「はい、分かりました」
「お大事にね~」
「失礼します」
『後から電話する』という言葉に引っ掛かりを覚えたが、今は引き籠り用の食糧なんかをスーパーででも買いこもう。
引き籠れるだけの食糧を両手一杯にぶら下げ、家路を急ぐ。
部屋のドアを開けると同じくらいに、スマホが鳴った。
「もしもし、水島君? 迫野です、お疲れ様」
「もしもし、水島です、お疲れ様です」
「今日の帰りに、そっちにノートを持って行くから、家からこっちに入って仕事よろしくね」
「はいっ?」
思わず声が上擦った。
「北地さんからの許可も得られているから、何も気にする必要はないからね。
ノートを持って行くだけじゃ手持無沙汰だから、何か欲しいものある?」
『放っておいて貰えると嬉しいです』とは言えない。
「いえ、何もありません……」
「そう、じゃあまた後でね」
電話を切った後、心の中では『マジか~』と大声で叫んでいた。




