第2話 できるコビトさん、できないコビトさん
(だめだ……色々と限界だ……)
例のバグはまだ直せていない。
精神的に追いつめられたり寝不足になると、正直、意識が飛ぶこともある。
意識が飛んだ時には、コビトさんが何処からともなく表れて、俺の代わりに仕事をしてくれる。
俺の代わりに仕事をしてくれるのだから、コビトさんに足を向けて寝られない。
だが、何処に住んでいるのか分からないので、そのまま寝るようにしている。
そう言えば、つい最近だが会社にお札が貼られているのを見つけた。
絵の裏に『悪霊退散』のお札が貼られていたので、事故物件じゃないかと思い少しビビった。
(こういう会社じゃ、急に倒れてそのままとか聞いたことあるしな……)
大砂さんに恐る恐る確認してみたところ、「事故物件とかじゃないから大丈夫だよ」と言われた。
じゃあ何だろ? とは思ったのだが、世の中には聞かない方が良いこともある。
実害はないだろうから正確なところは放っておくことにして、俺は『バグ退散』の意味を込めて、偶にお札を拝むようにした。
『バグは友達』と言われたが、俺にとっては悪霊と変わらない。
そう言う意味では、コビトさんも悪霊と大差がない。
先程、コビトさんは仕事をしてくれると言ったが、極々稀にきちんと仕事を熟してくれる時もある。
しかし、大抵はまともな仕事をしてくれない。
良くあるパターンとして、画面一杯に同じ文字が入力されている。
『ピー』
PCから出されるビープ音で意識を取り戻すと、画面一杯に出力された同じ文字を見て自己嫌悪に陥る。
画面一杯に『w』の文字が出力されていた時には、文字通り『草生える』とか『大草原』状態で、コビトさんに馬鹿にされた様な気になった。
だから、お札に向かって拝む。
あとは、コビトさんが意識を取り戻す手伝いをしてくれることもある。
ただ、そのコビトさんは少々乱暴で、物理的なダメージを俺に与えてくる。
キーボードの上に顔面を打ち付けたり、肘をずらして机から落として電気が走ったようにしたり……1度だけだが、椅子をひっくり返したこともあった。
このままだと、今日あたりコビトさんが楽しそうにやってきそうな気がする。
どうせなら、できるコビトさんが来てくれると助かるのだが……
『ピー』
ビープ音で意識を取り戻す。
どうやら、できない方のコビトさんが登場したようだ。
(まぁ、そう都合良くは行かないよな……)
画面一杯に映し出されていた文字は『k』だった。
(『w』じゃないだけ、まだましか……)
ファイルを開き直して、デバッグ作業を再開する。




