第1話 日常(?)を取り戻す
「水島、あのバグ潰れたか?」
「すいません、まだです。
正しい値を設定したら、他の所がバグり始めて……」
「そうか……分かった、お客さんにはもう少し掛かりそうって伝えておくわ」
「すみません、迫野さん」
「いや、水島のせいじゃないから、気にすんな。
それを潰しておかないとリリースできないし、お客さんも分かってくれているから完全に潰してくれ」
俺はあの件から、再び迫野さんと一緒になって仕事をすることが増えた。
一緒になってと言うよりは、迫野さんの仕事が多く回ってきているという感じだ。
(会社に入った頃も、こんな感じだったな)
一人感慨に耽っていると、電話が鳴った。
俺は急いで受話器を取り、応対する。
電話の主は「何で旅行会社じゃないんだよ」と電話口で怒鳴っていたが、そんなこと俺に言われてもどうしようもない。
旅行会社との間違い電話が多かったので調べて見たところ、下4桁の2桁目が違う旅行会社がある事が分かった。
3315と3115。
3と1の違いだが、前の桁が連続しているか、後ろの桁が連続しているかで、勢い余って押し間違いをしているのだろう。
本当に迷惑でしかない上に、何故、こっちが怒られなきゃいけないのか? 理不尽でしかない。
理不尽なのだが、こっちも怒鳴り返す訳には行かない。
「ご確認の上、お掛け直しください。
それでは失礼いたします」
何処かで聞いたことのある様な文言で、電話を切る。
電話はプツンッと音を立てて切れた。
(全く……)
電話を置いて、バグへ向かい合おうと思ったその時、再び電話が鳴る。
電話を取り、帝王仕様としたのだが、再び間違い電話だった。
「こちらは旅行会社ではありません。
ご確認の上、お掛け直しください。
それでは失礼します」
再び電話が切れる。
(今度こそ仕切り直しだ)
そう思った瞬間に、また電話が掛かってくる。
内心、また間違い電話か? とも思ったが、電話に出ない訳には行かない。
電話を取り、応対を始める。
案の定、間違い電話だった。
3連続は、いくら温厚な俺だって、少しくらいは腹が立ってくる。
だけど、言葉遣いは丁寧にお決まりの台詞を吐く。
言葉を強めに、ご確認の上を殊更強調して言う。
この位は許して欲しい、3連続で間違い電話を受ければ、分かって貰えるはずだ。
途中でガチャ切りしなかった俺を、むしろ褒め称えて欲しいくらいだ。
(ちょっと休憩……)
そう思い、席を立って缶コーヒーを買いに行こうとした矢先に、また電話が鳴った。
俺に何か恨みでもあるのだろうか? 無視しようとも考えたが、隣の迫野さんが睨むので志美支部ながら電話を取った。
「はい、ソフトウェア株式会社です」
言葉遣いが荒くなっていた。
「北地です、お疲れ様。
大砂君、居るかな?」
「き、北地課長ですか? お疲れ様です。
大砂さんは、今、ちょうど席を外しているみたいです」
「そうか、じゃあ、帰ってきたら折り返してくれるように伝えてください」
「承知いたしました」
「じゃあ、宜しくね」
北地課長からの不意打ち電話は、多少どころではなく大いに焦った。




