第6話 今回はご縁が無かったと言うことで
「北地さん、あの話は流れました」
磯島さんが北地課長の所へやって来て、そう告げた。
「あの話って、どの話でしょうか?」
「水島君が担当するはずだった件です。
こちらの協力がないから、どうしても折り合いませんでした」
(協力って、あれ以上、工数は下げられないって……)
「そうですか、でも、あれで受けられないのなら、仕方がありませんよ。
こちらとしても、あれ以上の協力は出来そうもありません」
何か、両方の視線の先で火花が散っているような気がする。
それほど仲が良くないのか? あちらでの打ち合わせでは、そんな感じはしなかったのだけど……
それにしても、そんな話をここでして良いのだろうか?
「とにかく、あの件は無くなりました」
「はい、分かりました。
態々、伝えに来ていただき、ありがとうございます」
そうだよな。
流れたというだけなら、電話口でも十分に事足りる筈だ。
それをここまで来たのには、理由があると思うのだけど……
磯島さんは何か言いたげだったようだが、それ以上は何も言わずに自席へと帰って行った。
「水島君、ちょっと良いかな?」
北地課長に呼ばれた。
「はい、何でしょう?」
席を立ち、北地課長の下へと歩みを進める。
「聞こえていたかもしれないけど、例の案件は流れたようだから、今まで通りに仕事を進めて欲しい」
はい、バッチリ聞こえておりました。
あれだけ騒がれたら、嫌でも聞こえますので。
「はい、分かりました」
う~ん、ちょっと聞いてみようかな? 俺の好奇心に火が点いた。
「やっぱり、工数を減らせば良かったですか?」
「でも、減らせないでしょ? 僕が見ても、あの工数は妥当な範囲だと思うから大丈夫だよ」
「でも、先程はそれが原因で磯島さんと言い争いになっていましたし……」
「あぁ、あれは気にしなくて良いよ、いつもの事だから」
「そうなんですか?」
「何でもかんでも取ってこようとするからね。
仕事が無くなるのは困るけど、仕事があり過ぎるのも困る。
そこのところが分かってないんだよ」
「そうなんですか……」
「だから、水島君が気に病む必要は無いよ。
そんな事を気にする君には、プレゼントを上げよう」
そう言って、机の中から1枚の書類を取り出した。
「迫野君が忙しいから、この修正を待ってもらっていたんだ。
だけど、そんな気を回す暇があるようだから、君にやって貰う事にする。
詳細は迫野君に聞いて欲しい。
じゃあ、よろしくね」
藪蛇だったか? あの時、好奇心を抱かずに自席へ帰っていたら、余計なことまで抱え込まずに済んだかも知れないのにと後悔したが、後の祭りだ。
「……はい、失礼します」
自席へ帰る足取りが重く感じた。




