第3話 夢と現実
「全ての要求を満たすようなものとなると、これだけ掛かると言うことですね?」
相手のお客さんが、磯島さんから見積書を受け取り呟いた。
今回、要件定義書を提出する際に見積もりも持って行って様子を伺おうと言うことになり、磯島さんも同席している。
「そうですね。
今回は、処理時間については目を瞑られると言うことにし、ハードは今の物をそのまま使うという場合には、こちらになります」
磯島さんが、先ほど出した見積書とは別の見積書を提出した。
機器の部分がごっそりと抜けており、桁が1つ違っているように見えた。
「ただ、機械の方が7年経っており、耐用年数を越えています。
それに、サポートも切れているようですので、何かあった時に大変なことになると思います」
「サーバーの方がそろそろ限界みたいですので、そちらのリプレースだと思っています。
そうなると、機能の方を削るしかありませんよね?」
「別のプログラムですので、新規開発と考えられて構わないと思います。
基本的な機能をそのまま作りこみ、その時にご要望のあった機能を一緒に盛り込んで行く感じになるとは思います。
ただ、その殆どの機能がデーターの持ち方も変えないといけないようなものもありますので、それは次の対応にするのが良いと思います」
「そうなると、金額はどれ位変わりますか?」
「水島、どの機能が削除されるんだ?」
「少々お待ちいただけますか?」
北地課長とその場で話し、要求定義書の中から該当するような機能に打消し線を引いていく。
挙げられていた要求の内、約半数には打消し線を引いただろう。
その後、北地課長が磯島さんと小さい声で話をしていた。
そして、電卓を取り出して計算をしていた。
「概算ですが、そちらに書かれています『ソフトウェア開発費』が、この位になると思われます」
電卓を相手へと手渡した。
その内容をあちらでは両脇の人が覗き込み、あちらでも小声で話が始まった。
「他に減らせそうなところってありませんか?」
「サーバーの構成を見直せば、減らせると思います。
こちらに書かれている機器は処理能力もかなり高いのですが、これを1~2ランク落としてもあまり影響はないと思います」
そう伝えた後、北地課長がノートPCでサーバー機器のページへアクセスし始めた。
「この見積りでは、このサーバーを想定しておりますが、こちらに変更されても今以上の速さで処理されると思います。
そしてサーバーの機械だけではなく、周辺に使う機器も価格の抑えられたものに替えられます」
「金額は今、お出しできませんが、帰社いたしましたらご提示させて頂きます」
あっちのメーカーのハードを使うんだ……あのメーカーの機器は色々とトラブルが発生していた気がする。
迫野さんが「何かある度に電話来るから、嫌なんだよなぁ」って愚痴っていたような気がする。
尤も、迫野さんはその後にサポートに電話してメーカーのSEを行かせていたようだから、電話を受けたりしたりするのが面倒なだけだったと思う。
開発する機能も減り、サーバー機器も(自分の中での)信頼性も減り、色々な面で現実を突きつけられた気になった。
とりあえず、今の要求定義書はPCの奥深くに封印し、機能が削られた要求定義書を作成した。




